胴軸破損 一部作って接合 PELIKAN 101N Lizard

前にペリカン101Nの胴軸全体を製作する修理をご紹介しました。今回は一部製作+継ぎ足しで済むケースを採り上げます。経過写真を端折った部分もあって、少しイメージを持ちづらいかも知れませんが、ご了承ください😢

作業前の万年筆です。この万年筆は近年復刻版が出ましたが、こちらは1930年代のオリジナルです。ペン先ユニットを外し、尾栓・吸入機構を取り外してあります。これだけだと一見どこが壊れているのか分かりませんね。胴軸下の尻軸(尾栓)を取り付けるための内ネジがバラバラになっていました。このシリーズにはよくあるケースなのです。

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蛇柄のスリーブを外すと中はこんな感じです。預けられた時点で、バラバラになったセルロイドの破片は取り払われていました。修理としましては残ったオリジナルの胴軸に、「破損した部分と同じ物を作って継ぎ足す」というものです。

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先ずは割れた部分をひびの先端も残さず、削り取って平面にします。

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次に透明アクリル材から、破損した胴軸下部を同じ形に作ります。実際は接着剤の糊代分だけ長く作ってあります。(背景のせいもあって)写真では判別しにくいですが、オリジナルと同じ内径(2段)に穴開けし、尻軸の受けネジを切りました。余談ですが、ここは通常とは逆の左ネジなので特殊工具が必要です。

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再び胴軸上部の加工に戻ります。こちらも前述の糊代分の長さだけ外側を削り、作ったアクリルパーツとぴったり合うようにします。ここで難しいのが、”ぴったり合う”ように、削り過ぎない事! 一発勝負ゆえ緊張の瞬間です。

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接着が終わりました。この日はこの依頼品の作業を一旦中断します。接着剤の乾燥を待つため、一日置きます。※材質等の理由から、瞬間接着剤は不向きです。という訳で、残りの時間は別の依頼品の修理にあてました。因みに今回はアクリルを染色しませんでした。

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接着面が乾燥した翌日、リザード柄のスリーブを被せ、吸入機構を取り付ければ(後で)加工修理は完了です。内ネジも見えます。

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ちょっとピンぼけてしまいましたが、表面から。染色の必要がないのは、スリーブを元通り被せたら、見た目は変わらないからです。以上のように同じ胴軸でも、破損個所によっては、一部製作&継ぎ足しで直る場合もあります。アンティークのペリカン100 / 100Nのシリーズは、胴軸下部の内ネジが弱いので、今回と同じ修理は過去何本も手掛けて来ました。当然、胴軸全体を作る作業よりは修理費も安く済みます。くれぐれもここはご自分で開けない事をお勧めします。

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Welcome 2号機(ろくろ)

今回は修理日記ではありません。退屈(苦痛💦)な記事になるかも知れませんが、最後まで読んで頂ければ幸いです。

筆記具工房に、近く2号機になる(予定!?)轆轤がやって来ました。・・・正確には1年近く押上工房に置きっ放しだった物を、やっと引き取って来たということです。

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実は筆記具工房はここ川口での創業ではなく、東京スカイツリーのお膝元、墨田区押上3丁目からのスタートでした。それまで別の会社に勤めて万年筆を作っていた私は、昨年にそこを辞し筆記具の修理を専門に行うために独立した訳ですが、その時身を寄せて(工房スペースの間借り)お世話になったのが戦前から押上にあるM製作所。やはり万年筆の挽物屋さんです。今、当工房で使っている轆轤は押上のMさん(以下おやっさん)が何十年と使って来た物を引き継いだ1台です。私は押上で創業と同時に、ご高齢で廃業宣言をされたおやっさんから、轆轤を始めとした設備・工具類をすべて買い取らせて頂きました。もちろん頂いた時はかなり年季が入っていたお陰で、あちこちガタが来ており、肝心の精度もかなり狂っていたので、機械屋さんに全オーバーホールして貰わなければなりませんでした。そこから架台(やぐら)を作り、新品のモーターを設置、シャフト、軸受け、プーリーのすべてを取り付けてようやく仕事が出来るまでになったのです。今回持って来た轆轤は本体(単体)のみで、これから前述のそのすべてを仕上げる必要があります。話は少々ややこしくなりますが、写真の轆轤はM製作所で使われていた物ではなく、同じ押上から歩いてすぐのサンライト工業さん(京島)から頂いて来た轆轤です。同じオーバーホールをするにしても、オリジナルの轆轤の傷み具合によって、必要な予算や時間が大きく違って来る訳ですからなるべく状態の良い物を選びたいですよね。

押上工房にも数台の轆轤がありましたが、どれも長年の酷使で年季が入り過ぎている上、まともに使える部品すらない状態でした。そこでおやっさんが近所でかつての同業者に轆轤が残っていないか、あたってくれたのです。同じ墨田区万年筆組合(若い頃から)の仲間であるサンライト工業元社長、本間さんです。

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昨年の2016年夏、サンライト工業さんへ轆轤を引き取りにお邪魔して轆轤を取り外した後の1枚です。同社の社長さんのお父さんが使っていたのを最後に、30年ぐらい回していなかったそうな・・・。ご覧のように轆轤2台を横にならべた作業台でした。真夏の中大汗を掻いて取り外した轆轤を、一旦押上工房に持ち込みました。昔はすべて木だったんですね。押上工房もそうですが(笑)。本間さん曰く、大工や機械屋に頼んだのではなく、すべて自分たちでこしらえたそうです。「昔はどこもそうだったよ」とも。

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結構広い工場にはついこの間まで自動機(切削)を始めベンチレース、ボール盤等数多くの機械が残っていたそうですが、すべて廃棄か売却され、最後に残ったのが轆轤台でした。ところで80前の本間さんですら、若い当時すでに時代遅れの轆轤の経験はないそうです。

轆轤台の下の様子。右奥にあったモーターは何年も前に外して処分されています。この轆轤台は1台のモーターでシャフトを介して、2台分の動力としていました。2本の足踏みペダル奥にある大きなプーリーに平ベルトを掛けて、机の上の轆轤のシャフトと結んでいました。左隣の轆轤も同じ原理で回していました。手作り万年筆で有名な故酒井栄助さんの仕事場も、2台を横に並べた並列式でここと全く同じ構造でした。超余談ですが、写真は右側の轆轤の下で、長い2本のペダルはネジ切用です。そして左の短い方はモーターに繋ぐ切削用で、アクセルペダルと同じですね。左側の轆轤の下は、切削かタップ&ダイスによるネジ切専用の両回転なので、ペダルは2つだけです。

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ペダルの付け根になります。これは潜らなくても、椅子の後ろに回れば見えます。

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ここで今回お世話になったサンライト工業さんについて、簡単に触れたいと思います。

サンライト工業は1954年創業で10年以上前に廃業されました。万年筆をメインに作っていた頃は『本間製作所』という社名でしたが、万年筆産業が斜陽になり、どこも転業や廃業を余儀なくされた頃、ある商品のヒットで栄えました。それはボールペンに電池式ライトを組み込んだライト付きペンで、当時かなり脚光を浴びて特許も取得されたそうです。本間さんが仰るには、白バイ隊員にも需要があって、各警察署に大量に納めたそうです。夜、取り締まりを行う際に外で立って書類を書くのに、ライト付きボールペンの需要は説明不要ですね。本間さん、どうもありがとうございました。頂いたロクロ、大いに使わせて頂きます。

ところでこの引取りの後半も、へんな体験でした。轆轤はがん鉄を鋳物で作られており、単体でも10数キロあります。これをママチャリの荷台にゴムベルトで縛って持ち帰った訳ですが、右に左にハンドルをとられながらふらふらと夏の炎天下にペダルを漕いだものです。今どき都内でそんな物を自転車の荷台に載せて走る姿はあり得ませんが、押上の住宅街は歩道スペースなど無いに等しく(失礼!)、この短い道のりには更に亀戸線の踏切というおまけ付き! で、轆轤2台とも頂きましたのでこれを2往復。へんな人に見られなかったかな。

機会があれば、いずれM製作所についてもご紹介したいと思います。

出来るだけ安く Pelikan M491

一口に修理と言っても、修理方法が一つしかない場合もあれば、二通り以上ある場合もあります。今回はあまりお金をかけない例をご紹介します。

ペリカンの1970年代のカートリッジ式です。カートリッジ交換をする際に胴軸を開ける訳ですが、そこの首軸側の繋ぎ目のネジ部分が折れてしまっています。このまま閉じても、グラグラしてとても筆記出来ません。

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 ねじの大部分が、胴軸側に残ってしまっています。

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 取り出し成功。

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今回限られた予算の中でベストは何かと思案した挙句、工房のストック品で同時代のペリカーノ(破損品)から移植することにしました。ご依頼の万年筆が14Cペン先であるのに対し、ペリカーノはペン先もキャップもスティールである以外、デザインや機構は基本的に同じ物です。もう一つ、同時代のモンブラン等と違って全パーツが接着されているという欠点があります。それはつまりペン先交換以外、修理やメンテを考慮されていない設計だったのですね。まあ、時代も時代と言ってしまえばそれまでですが・・・・・・。

さてねじ部分を移植するために、ペリカーノ側を切断&加工します。

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 次にご依頼品側を、ペリカーノから取った部品がぴったり合うように内部を加工します。

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これでぴったり合いました。

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 接着して、移植による修理は完了です。

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 吸入器(コンバーター)を装着したところ。加工と接着で繋ぎ目の透明度がやや落ちましたが、持ち主様のご依頼は「実用優先」です。

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これで再び普通にお使いいただけます。

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結論になりますが、他の修理方法は以下の通りで断念しました。

①首軸を丸ごと取り換える → 同じ物を1本丸ごと入手=予算オーバー

             → 首軸のみの入手=バラでの入手は困難

② 破損個所をこちらで製作・取付け → ねじの種類が特殊で工具を買わなければならない。更に加工時間も加わるので、これも予算オーバー

修理を依頼される際は、可能な範囲でご予算に応じた方法でも承ります。

セイフティ式の螺旋部製作 AURORA 1920's

セイフティ(安全操出し式)万年筆の修理をご紹介します。アウロラの18金張りのボディのペンダント型です。セイフティとは初期の万年筆の1つで、スポイントでインクを入れる方式です。要修理箇所は①軸内部の主要メカである螺旋部の破損(折れています)、②螺旋とペン先ソケットを繋ぐ留めピンの欠損、③尾栓内部にあるシーリングコルクの交換、④インクが胴軸の繋ぎ目から滲み出る場合は、挽き合わせをする・・・と多岐に渡ります。

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余談ですが、ご覧のようにかなり小型な万年筆です。尤もセイフティ式その物が小型万年筆に向いた方式とも言え、各社数多くのショートタイプがセイフティ方式で作られました。この万年筆も、ペンダント型です。

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それでは作業に入ります。胴軸を開けてペン先ユニット、螺旋部を取り出します。螺旋部がポッキリ折れています。これでは、ペン先を繰り出しする事が出来ず、使えません。接着箇所が僅かな上、”繰り出し”という動作の力が加わる構造上、まず接着は無理です。かりに接着しても、すぐまた外れてしまいます。という訳でこのような修理の場合、螺旋部をそっくりそのまま作って直す事になります。。

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外径、内径、全長を測り同じ寸法にエボナイトで製作します。でも轆轤で出来るのは、僅かここまでです。この角度に螺旋溝を彫る事は、轆轤では出来ません。そしてここからは地道な手作業が待っています。

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位置決めに印を付けた個所すべてに、ドリルで穴を空けます。そして次にハンドグラインダーで削りながら、穴と穴を繋いでいきます。

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ここからは本当の手作業です。荒削りの終わった螺旋部に、ヤスリでよりオリジナルに近い形に整えていきます。この作業が最も時間を要します。

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無事、螺旋部が完成しました。ペン先ユニットが滑らかに上下するように、実際には最後の方に、ペーパー等で仕上げ磨きを行います。ところで前述のようにこの万年筆にはペン先ユニットと螺旋部を繋ぐ留めピンが欠損しています。

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留めピンを削り出して作ります。

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胴軸下側に、作ったピンが入るか確かめます。写真のようにピンが左右の溝に入り、これで真っすぐ上下に動いて、ペン先が繰り出されるのです。

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ソケット、螺旋部が繋がりました。

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正常な状態で、胴軸を取り払うとこんな姿になります。

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胴軸の下の方の軸の中にある古いコルクを取り出し、新しいパッキンとスペーサーを埋め込みます。インク止め式やプランジャーと同じく、ここでインクが後ろに回らないようになっています。手前は、取り出した古いコルク。

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すべてのパーツを元通りに組み直します。写真はペン先が完全に中に引っ込んでいる状態です。ここからいよいよペン先繰り出しのチェックです。

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尾栓をゆっくり回して、スルスル~とペン先が顔を出し始めました。

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ペン先が定位置まで出て止まりました。今度は実際にインクをスポイントで充填し、胴軸と尾栓の繋ぎ部分からインクが漏れないかをチェックします。滲み出た場合は、インク止め式の修理の要領で、双方の面を綺麗に刃物で削って食い止めます。カンナで裏が透けるような削り節を出すのに似ています。

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修理が完了しました。

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インク止め式 コルク交換① S.S.S./サンエス

インク止め式万年筆のコルク(パッキン)交換の様子をご紹介します。今回は一般的なインク止め式ではなく、戦前のスワン(日本版)やサンエスによく見られる、コルク室の無い旧規格です。インク止め式は胴軸に直接スポイトでインクを入れ、中の中芯(ロッド)を下げてインクを流れるようにしたり、反対に止めたりする構造の万年筆です。そのインクを、中芯に被せたコルクパッキンで漏れないようにしてあります。コルクだから当然、数年で劣化してインク漏れを起こします。

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それでは分解して作業に入ります。胴軸内の中芯と尾栓を外し、そして中芯を胴軸から取り出します。通常止め式は、写真の胴軸下部の尾栓受けねじの中にコルクが入っています。そのコルクがシーリングの役目を果たし、下からインクが漏れないようになっています。このコルクが劣化するため、数年おきに交換する必要があるのです。

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ところがこのサンエス型は、コルク室にコルクが入っておらずコルク室そのものが中芯用の貫通穴があるだけのダミー(1ピース)です。この外したなんちゃってコルク室の奥に、特大コルクが入れられています。しかし依頼品はそこにもコルクが入っておらず、Oリングと他のゴムパーツが出て来ました。依頼者さん、自ら取り付けたとの事。一応これで水漏れは解消されているのですが、逆に中芯の動きが硬く、それを修理技術でのOリング取付を依頼されたという訳です。正直、愛好家・マニアの方でここまで出来るのは、凄いと思います。

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さてここからが、本当の作業の開始。前述のゴム類をすべて取り外し、ダミーと同じコルク室を作ります。インク止め式万年筆を製作するのと同じ要領で、無垢材から削り、ねじを切って接着します。 

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胴軸への取り付けが済んだら、本来のコルクに代わるOリング、そして中芯を入れるための穴を掘り、最後に蓋用のねじも切ります。白い物が、シリコン製Oリング。絶対に腐らないので、半永久的でGoo!

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もちろん留め蓋も作ります。コルクに対してOリングは高さがないので、その隙間を埋めるべくスペーサー一体型の蓋ゆえ、(蓋が)T字型、いや土管型にしました。普通のインク止め式のコルク蓋にはない、マイナスドライバー用の溝を入れます。Oリングでメンテナンスフリーの積りですが、それでも何かあった時のため容易に外れるようにです。

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こういう事です。

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サンエス型の旧規格でなければ、Oリング用の内径調節(広げる)~ねじ蓋製作までは同じ工程です。後はドライバーで蓋を閉め、中芯を胴軸反対(上)側から挿し込み、尾栓に取り付けます。今回の記事はインク止め式ユーザーでないと分かり難いかも知れません。いずれ、コルク室にコルクの入った(これが普通)一般的なインク止め式の修理をご紹介します。

インクビュー付き万年筆の胴軸作り Pelikan 101N Tortoiseshell Brown

ペリカンのアンティーク万年筆(1930年代後半)を直します。胴軸のキャップ受けネジ、丁度書く時指が当たる部分に亀裂が入ってしまった物です。内部のインクが見えるオリジナルの透明軸は、セルロイド製で非常に割れやすい素材なのです。

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見事にネジを縦に割る感じで、大きな亀裂が見られます。この万年筆は吸入式で、ペン先から吸い上げたインクが、直にこのグリーンの透明軸内部に入ります。よってこの亀裂個所からインクが滲み出て、手が汚れてしまいます。残念ながらここを接着しても、内部で力が加わるため、ほとんどの確率でまた傷口が開いてインク漏れを起こしてしまいます。それにここまで外ネジが傷んでいると、接着痕を完全に消す事が出来ません。=見てくれも悪くなる。という訳で、今回は首軸から下の胴軸部分をすべて作ってしまいます。 ※もっとも今回の依頼主様は始めから製作のご注文でした(笑)。

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作業開始。べっ甲柄のスリーヴ、そして首軸を慎重に取り外します。特にスリーヴは非常に薄いため、下手するとあっという間に割れてしまいます。→外れました。

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今回はインクビューも再現しなくてはならないため、透明アクリルを使って削り出します。上はカットしただけの無垢材、下はパイプ状に穴開けした物。当然、まだこの時点では刃物傷で曇って見えます。

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内径を吸入弁がぴったり収まり、且つスムーズに作動するよう傷取りを行います。更に透明度=外からの視認性を上げるため、仕上げの磨きを行います。上(首軸)・下(吸入機構パーツ)用の内ねじ、そしてキャップ受けの4条ねじと合計3か所ものねじを切ります。左側の黒く見える個所は、首軸装着時のひび割れを防ぐために埋めたエボナイト。このように、オリジナル以上に強度を向上させます。最後に水洗いしたのが、下の写真です。透明度の仕上がり具合は、明かりに当てて反対側を見てチェック。

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以上の工程で胴軸が完成。修理として機能的にはこれで充分ですが、ここからが今回のハイライト。破損したオリジナルに少しでも近い雰囲気を出すため、同じグリーンの塗料を使って染色します。★ここでオリジナル軸にもう一度登場して貰いましょう。塗料と水の配合でもう少し濃く出来ますが、恐らくはオリジナルの方が経年とインクでここまで汚れてしまったようで、新品当時はずっと明るい色だった事になります。

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このままスリーヴパーツを被せると、べっ甲柄も表からやや透けて見えてしまうので、やはりオリジナルと同じように膜状のテーピングをします。当然、軸はこの時の厚みを考慮した外径に削っています。

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べっ甲柄スリーヴを被せ、首軸を取り付けて胴軸の製作は終わりました。

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最後に吸入弁を取り付けて、水やインクの吸入・排出のテストを経て終了。

これからも長く愛用していただければと願うばかりです。

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ボールペンの修理 PARKER DUOFOLD Godron Gold

パーカーのボールペンの修理依頼が来ました。1990年代初期のデュオフォールドです。

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お問い合わせでは、「回転して繰り出すタイプなのですが、芯が途中までしか出ない。代理店でも修理不能で断られた」との事です。デュオフォールドは現在でも発売されていますが、モデルチェンジして構造が異なるのでしょうか? このモデルの部品がもう、終了しているとは……。

ご依頼のペンが届いてい見ると、確かに芯(リフィル)が少ししか出ません。

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ところが上部の回転つまみを回すと、伸縮の動きはしっかりしており違和感を感じませんでした。直感で内部のメカはちゃんと機能していることは分かりました。不思議に思って、軸を分解して原因がすぐ分かりました。内筒の樹脂パーツが割れて、完全に分離していました。試しに元に戻して外側から指で押さえると、リフィルは通常の位置まで出ました。結論、芯が途中までしか出ないのではなく、口金が外れかかって少し前に移動してしまっていたのです。

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軽く接着された内筒全体を、力加減に最大の注意を払いつつゆっくり取り外します。取り外すのに、結構時間が掛かりました。そして内筒の寸法&構造、上下ネジのピッチを計測し、2通りの修理方法を挙げました。

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①接着して機能させる → 安く出来ます。(大丈夫だと思いますが、再び外れないという保障はありません)

②内筒全体を製作する → オリジナルより丈夫に仕上げられます。

 以上の2点をお客さんにお伝えしましたところ、安心の②を選ばれました。

白いテープの方は、破損したオリジナル。もう一方が、新たにエボナイトで製作した物になります。

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金属のバレル(外筒)以外のパーツを仮付けして、機能チェック。リフィル先端が通常の位置まで出る事を確認したら、後はすべてのパーツを組み直して、完了。

将来もしもの事を考慮し、作った内筒は接着せず圧入で金属の外筒に装着しました。もちろん外径をぴったりにしてあるため、通常使用でまず抜ける事はありません。これで普通にお使い頂けます。

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