回転式ペンシルの修理 Montblanc Meisterstück 165

当ブログでは初めてペンシル(メカニカルペンシル)の修理を掲載します。モンブランの20年以上前の回転式ペンシル(ツイストメカニズム)で、キャップチューブ側を右に少し回転させると芯が出る仕組みです。ところが、胴軸とキャップチューブを繋ぐネジが緩んで空回りしてしまい、芯を出せません。調べたところ、幸い内部のメカは故障しておらず、前述の緩みが原因でした。

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胴軸側の雌ネジの摩耗がかなり進行しており、ネジが全く噛み合いません。内部を削って樹脂材を埋め込み、再び穴を空けてネジの切り直しする方法を考えました。そうすれば、オリジナルの胴軸をそのまま流用できます。しかし、内径を広げるための刃物(平ギリ)を当てると、熱膨張で胴軸の外側が変形してしまいました。結局、胴軸をゼロから手作りする事になりました。

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材料となるエボナイトで中身だけ完成しました。口金受けのネジ、ペンシルメカユニットが入るスペース、そしてキャップチューブと繋げるネジを切りました。

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今度はオリジナルと同じ形に、外形を削っていきます。

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ほぼ同じ形に削れたところで、一旦すべてのペンシルのパーツを仮付けして、細かい部分までチェックします。握った感触はどうか、ツイストアクションで芯がステップ動作で出るか・・・・・・etc ペン芯を補充する際の、キャップチューブを左回しで接続ネジごと取り外せる事も確認します。

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こうして外観がオリジナル通りであること、すべての動作が問題なく行える点を確認出来たら、胴軸を磨いて修理完了になります。

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ペン先研ぎ出し・調整 細字化 B → F / PELIKAN 100

普段修理を中心に採り上げて参りましたが、ペン先の調整も決して少なくない大切な業務の1つです(と言うよりも、シャッターチャンスがなかなか無いのです。まして、持込みのお客さんの前で一々写真を撮るのも憚られます) 実際、最近はペン先調整のご依頼も増えています。”ちょっと引っ掛かる”、”前より書きづらくなって来た”等々。今回はお預かりの調整依頼です。しかもこのお客さんへの研ぎ出し調整は昨年もありましたので、書き癖やご要望は把握しています。

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ペリカンのアンティークで、字幅は恐らくM。長年使われたようで、実際このペンで文字を書くと、Bくらいに太くなっています。因みにアンティークに多い、ペン先が柔らかく撓るものは研ぎ出し調整の難易度も高いです。「これを手帳用に使いたいのでFぐらいに細くして欲しい。自分の筆記角度に合わせ、インク出はやや渋めで・・・云々」とメールで具体的なご指示をいただき、更に万年筆を握ったご自身の手も写真添付してくださいました。後ろの字は工房に届いて現状の太さをチェックするために書いたものです。

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ペンポイントの研ぎ出し作業に入ります。写真は荒削りの第2段回。砥石が回転している写真で見辛いですが、研ぎ出す字幅に合わせた溝を設けてあります。余談ですが、専用の物が売っている訳でもないので、これらは自分で彫った溝です。※先端に人工ダイヤが埋め込まれた工具を使用。また砥石も場所によって、表面の粗さが異なります。もちろん、超鋼やより硬い砥石等を使って(自分なりに)仕事しやすいよう仕上げる訳です。

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まだ途中ですが、1枚。

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ペンポイントがまだまだ大きく見えますが、ルーペを外した目線では結構小さくなっています。

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一旦表面を仕上げポリッシャーでさらい、試し書きに入ります。

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上の線や数字が研ぎ出す前、下が研磨後になります。お客さんの握り角度や筆圧を想定した書き方で、まあまあのタッチ&滑りにはなりました。ちょっとまだ太いのと、インク出をもう少し絞る必要があります。再び研磨レースに向かい、試し書きを繰り返します。

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一応「ここまで」と自分で判断したところで研磨・調整作業は終了です。しかし納品までには、ペン先全体の表面磨きや洗浄が待っています。削った粉塵で、表面まで細かい傷が結構付着してしまうのです。金磨きクロスでも取り切れない今回のような場合は、バフ掛けを行います。ペン先をマスキングすればその工程も省けるかと言えば、そうでありそうでない場合もあります。バフ掛けの様子は、また次の機会にご紹介します。

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ボールペンの修理② WATERMAN Laureat

ボールペンの修理で多いのが、落として破損してしまったケースです。特に外国製の高級品ほど、落とした時の破損率は高いです。本体の材質に重いメタルが使われるのがほとんどで、幾らメタルのボディが頑丈でも、破損するのは決まって内部の樹脂パーツです。中でも重さや衝撃に弱い、肉薄な接続ねじ部がやられてしまいます。今回ご依頼のボールペンは、ウォーターマンの20年ぐらい前のモデルで、『ロレア』というシリーズ。メーカーからパーツ在庫終了で断られた物です。胴軸と口金を繋ぐ樹脂製の前軸が折れてしまっています。

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ねじの上に接着された物で、本来開かない部分です。(黒い樹脂の)グリップ側の折れて分離したねじが胴軸内に残ったままです。

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胴軸からやっと、その残り部分を取り出しました。

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2つに分離した破損パーツを片手で抑えながら、全体の形やねじのピッチ(間隔や規格)を計測し、本来のサイズも割り出します。それを終えてから、同じパーツを製作する作業に入ります。写真は削ってアールを付け、口金受けのねじを切り終えたところ。

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口金をねじ回して無事収まったところで、更に口金と面一(つらいち)になるように外形を僅かに削りながら整えます。当然、この後の研磨でコンマ単位で減る分も計算に入れます。

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胴軸に収まるよう雄ねじを切り終え、破損する前の形に復元できました。もちろん内径も、オリジナル通りに・・・・・・いえ、多少肉厚にしました。再び落とされた時のため、ついでに強度も上げます。

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表面を研磨して刃物傷を取り除いて光沢も出し、最後によく水洗いします。再び取り付けて、芯の出具合・引っ込み具合を見ます。この時点でばねが曲がっていたり、引っ掛かり気味だったら、それも交換してしまいます。

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完成。材質の違いも手伝ってオリジナルの新品時より、丈夫になりました。繰り返しますが、くれぐれも落とさないように(重いペンは尚)注意してお使いください。余談ですが、古いボールペンは破損しなくても自然摩耗でねじが緩くなって、外れてしまうケースもあります。※非接着の場合

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キャップ縁部分の修復 Montblanc 149 1950s

アンティーク万年筆によく見られる、キャップ縁(へり)部分のクラック修復依頼です。このモンブラン No.149の最初のシリーズ(1950年代)は、ボディがすべてセルロイドで作られている事と経年の劣化により、特にこの部分が割れやすいのです。

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ハの字に大きく割れて広がっているので、もはや接着は無理です。やはり他の材料を一から削って、継ぎ足す方法を採ります。数年前に全く同じ修理(もちろん同じモデル)を行った経験があり、今回もその方法で進めます。前回成功しているとは言え、非常に緊張を伴います。と言いますのも、キャップのクラック補修はたまに依頼されるのですが、同じ修理でもこの万年筆は最も難しいです。リングが大小合わせて3つという、非常に複雑且つリスクが大きいケースです。さて問題はどこで切断して、どこまでオリジナルの素材、どこから継ぎ足すかです。裏側からも覗いて、クラックが一番下のリングの少し上で止まっている事を確認。真ん中のMONTBLANC刻印がある太いリングの、真ん中を境にする事に決めました。糊代も兼ねて、ここが安定するからです。

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削り作業開始。縁と一番下のリングより僅か下部分を切断しました。切断、削り、リング取り外し・・・と慎重に順を追って進めます。ちょっとでも油断すると、回転の遠心力でパーンッ!と、キャップ本体がバラバラになる恐れがあります。内ねじの下に見えるくすんだメタルはインナーバンドです。

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真ん中のリング下すれすれまで削ったところで、この一番太いリングを取り外します。前述のインナーバンドも取り外します。このインナーが抵抗となり、収縮を抑える役目を果たしていました。尤も作られた当時はどこまで経年劣化対応だったのか疑問です。単に外からの衝撃を緩和するための物だったとも考えられます。ただ、ねじが硬くなるのを多少なりとも防いでいる事は確かでしょう。

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太いリングの裏側半分まで削ったところで、削りは一旦終了。

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一方こちらはキャップ本体に見えますが、これは継ぎ足し材用に轆轤にセットして、途中まで削ったエボナイトです。

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リングを仮付けし、それを載せる土台の合わせ具合を見ます。軽く押し込むぐらいのきつさを残します。文字が逆さになっているのが分かりますか? 本体側と逆だからです。

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今度はキャップ本体との合わせ具合を見ます。内部にインナーバンドも入れています。本番の接着の時は、インナーバンド表面と、リング土台の溝の両方に接着剤を塗布し、二重に安定させます。因みにオリジナルのリングは(後述のように)非接着です。

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接着乾燥後1日置いて、更に一番下の細いリング(糸輪)用の溝を彫りました。この時点で、まだ縁部分はストレートです。

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縁をオリジナル通りの形に削り(アール付け)、作った専用治具でリングを叩き込み(圧入)ました。さて見た目は完成ですが、この後内部(ねじから下)の内径調節をします。キャップを閉める際に胴軸をこすらずスムーズにするためと、胴軸の後ろ側に挿す際にも、ぐらつかず安定して収まるようにするためです。

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継ぎ足した部分とキャップ表面を磨いて完成。一緒に写っているのは、最初にカットしたオリジナルのキャップ縁と、交換した胴軸のコルクです。

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この修理の大変なところは、肉薄で接着箇所がほとんどないことです。その制約の中でも安定した修復を施さなければなりません。こればかりは、数をこなして身に染み込ませるのが一番みたいです。

PARKER 75 首軸リングの修理

パーカー75 の首軸からのインク漏れを直します。「書いていると、どうしても手がインクで汚れる」とお問い合わせがあった時、”ああ、後期のFRANCEモデルかな”と思ったら、意外や前~中期型のUSAモデルでした。パーカー75 は樹脂の首軸先端にメタルのリングが付いているのがデザイン上の特徴です。ここのリングがインクの腐食に割と弱く、亀裂(酷い場合は穴)を起こしてしまうケースが結構あります。コストダウンからかデザインの作りからか、後期型のFRANCEタイプにこの症状は集中します。ところが前述の通り、頑丈な(筈の)USAタイプでした。写真では最も目立つクラックが映っていますが、反対側にも2か所確認出来ました。

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リングを取り外した首軸本体。クラックが3か所もある上、メタルの材質は薄く、おまけにねじの力で取り付ける時再び傷口が開いてしまう事は明らかです。

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という事で、リングを作ってしまいます。材料はインクの酸に強いエボナイトを使います。ベース材に内ねじを切って、首軸を仮閉め。ねじの閉まり具合を調節します。ここはまず外す必要がない所ですから、きつめにします。因みに材料の一本線は、カットするために付けた印です。

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一応、削りが完成しました。左は取り外したオリジナルのリング。

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完全に出来上がったように見えますが、キャップとの合わせ=微調整という大切な作業が残っています。この万年筆は嵌合式で、パチンと嵌って留まる構造です。それはキャップ内部にあるバネの窪み個所と、リングの先端の微妙に広がった個所(ツバ)が上手く”抜けて”収まる構造です。ここのツバの外径がちょっとでも広いと閉まりが硬く(更に僅かに削る)、逆にちょっとでも削り過ぎるとカパカパに緩くなってアウト! 一から作り直しです。

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オリジナルと同じ感触でキャップを開け閉め出来る事を確認したら、修理完了です。因みに前述のFRANCEタイプはこちら☟

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ご参考までに真鍮で製作したリングが以下の2枚です。こちらの方が幾らか割高ですが、ご予算に応じてどちらでもお作り致します。

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パーカー75 の同じ症状の修理は、年に3件くらいは来ます。オリジナルのリングがインクの腐食に弱いと書いて、75をお使いの方は不安に思われるかも知れません。ですが、インクが固まったまま長期間放置せず、綺麗に水洗いしてから保管すれば充分長持ちします。またインクを入れてお使いの場合も、色が濃くなる前の頻度でインク補給をするかたまに水洗いをすればそう心配ないと思います。

 

クリップの矯正 Orobianco L'uniqus

多機能ペン(2色ボール・ペンシル)のクリップが開きすぎ、挟めなくなったという修理のご依頼です。オロビアンコというブランド。

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真横から見るとこんな感じ。何の事はないように見えますが、事はそう単純ではありません。クリップを曲げ戻して直そうにも、クリップが外れません。結果、元に戻せない状態です。お客さんによるとメーカーに問い合わせたところ、直すのではなくペンの上半分を総とっかえになるという返答を受けたとのことです。人から贈られて愛着がある1本故、それも嫌なので当工房に依頼されました。

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クリップを留めている蓋ねじ部分が、消しゴムを入れるコネクトパーツと一体になっています。確かにこれは難しいですね。ペンチで摘むにも、クリップの付け根が邪魔して上手く出来ません。ゴム板で回そうとしても、ビクともしませんでした。少し嫌な予感がしました。工具を上手く引っ掛けられないどころか、もしかして製造組立段階で接着されているかも知れないからです。

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考えた末、消しゴムが入っていた穴に金属棒をきつく噛ませて引っこ抜く方法で進めることにしました。ぴったりの芯棒がなかったので、近いサイズの真鍮を穴にぎっちり入るよう削りました。

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きつくセットして真鍮棒側、ペン本体側の両方にゴム板を当てて力いっぱい回そうとしました。けど、さっぱり効果がありませんでした。手でやるのを諦め、芯棒側を轆轤にチャッキングして、動力(モーター)を使わず足踏みでグッ、グッと少しずつ回したらやっと反応があり緩み始めました。車の運転で言えば、ロー(1速)で意図的にバッと飛び出す感じです。

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悪い予感は的中しました。外れたコネクトパーツの内ねじ部には、接着剤の跡がはっきり認められました。これでは、ちょっとやそっとでは外れない訳です。つまり最初から修理やメンテナンスを考えられていない作りだったんですね。それは別にこのペンに限った事ではなく、価格帯によってここをどうするか(製造・販売コスト上)微妙なのが実情のようです。個人的には、それでもいざと言う時のために、なるべく外せるように作って頂きたいものです。

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無事クリップの広がりを矯正し、外したパーツも締め直して修理完了です。当たり前の話ですが、クリップのバネの能力にも限度があります。皆様も愛用のペンのクリップを過信して、厚手の衣服のポケットなどに挟まないようにして下さい。”開いて戻らなくなった”なんてまだいい方で、最悪折れてしまう事も・・・。

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インク漏れ複数個所 Montblanc - Marcel Proust

モンブランの1999年発売の作家シリーズ、マルセル・プルーストの万年筆です。「過去に首軸が割れてインク漏れした物を、応急処置で表面に漆塗りして貰い、それが再びインク漏れするようになってしまいました。こことは別に後ろからのインク漏れもあります。」と言うのがご依頼の内容です。首軸くびれ全体が、鈍くざらついて見えるのが漆塗りされたと分かります。

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ところがお預かりした時点で、本来のクラック箇所とは別の、外ねじ部分から複数ひび割れ&漏れがありました。一旦インクを抜いて、水を吸入して確認した結果です。後に触れますが、後ろの尻軸側からのインク漏れも(お客さんの)ご説明通り確認出来ました。と言う訳でこれは大掛かりな修理になりそうです。一計を案じて、内部の構造を把握した上で「首軸製作・接着」、そして「吸入機構のガスケット外形調節、又は交換」という方法を採ります。

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首軸を切断(何だか嫌な表現だな・・・)すべく、芯棒にセットすると、漆塗りされる前のものらしきクラックが現れました。

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胴軸内部の樹脂と首軸は、一体成型のようです。

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エボナイトを首軸の形に削り、ねじ切り。もちろんこの間、キャップねじと何度も合わせながら行います。

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ペン先をソケットごと仮付けして、これまたねじの具合を見ていきます。

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今回拘ったのは、首軸の”より正確な”復元です。ご依頼のプルーストをお預かりした時、首軸の形に違和感を覚えました。とにかく漏れを喰い止めるため止むを得なかったのだろうと思いますが、漆がかなり厚く塗られたせいか、形がかなり違って見えました。その塗られる前のオリジナルの実物がないため、ネットで画像検索してあれこれ参考にしました。お客さんからは何も言われていませんでしたが、折角作るならなるたけ形もオリジナルと同じように再現したいという衝動に駆られました。と言う事情で、数値的にはどこまで正確に出来たかは分かりませんが。以上、余談でした。

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磨きを終えて、首軸が完成しました。

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ところが新たな問題発生! ・・・というか問題に気付きました。写真では省略しますが、ピストンのガスケットの外径調節をしても後ろからのインク漏れが止まりませんでした。十分な量を吸入するのに。変に思ったら、何とガスケットの脇からではなく、シルバーの外筒とプラスティックの内筒の間から漏れていたのです。これはガスケットより上のインクタンク部の樹脂部分に穴かひび割れが発生していた事を意味します。 ※写真は胴軸反対側の、吸入機構を取り外した状態です。水を排出(=ピストンを上に上げる)すると、こちらからみるみる水が染み出して来ます。この万年筆はインク窓が無いだけに、外観からは確認しようがありません。

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修理方法を変更して、シルバーの外筒のみを残して、内部の樹脂をすべて削り取ってしまいました。当然外筒と同じ長さ分の樹脂が接着されていた訳ですが、出て来た写真の樹脂は一部です。見事な穴が2か所は確認出来ました。

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折角作った首軸も破棄して、胴軸と首軸のすべてを一から作り直す羽目になってしまいました。一体ではなく、首と胴は別に作ってねじ+接着です。過去の記事でも買きましたが、難しいのは同じ形に作るよりも、吸入機構の正確なシーリングに対応出来るように仕上げる事です。

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シルバーの外筒を被せて、ようやく完成の実感が湧きました。ここで気を付けなければいけないのは、接着する位置です。オリジナル通り、"Marcel Proust" のサイン刻印とペン先表面が一直線上に来なければなりません。キャップのクリップ位置も同様です。

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尻軸キャップ受けのねじから下は、オリジナルパーツです。結論:漆は表面被膜になっても、少なくともインク漏れ防止の接着剤にはならないようです。

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