ボールペンのネジ修復 / BVLGARI

ブルガリが自社ブランド筆記具の販売から撤退したそうで、修理も受けられなくなりました。ご依頼のボールペンは、床に落とした際、本体と口金が外れてしまって元に戻せない状態です。ネジが噛み合わず、この部分に再びネジを設けて接続する修理を行います。

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材料を埋め込む前に、先ずは胴軸の中の先端部分のプラスティックを削って綺麗に取り除きました。

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轆轤にチャッキングするため、キャップチューブを取り外します。

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エボナイト材を接着で埋め込みます。

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本体側を傷付けないよう、少し材料がはみ出た位置でカット。カットする際の切りシロ用です。次に決めておいた内径サイズに穴開けしました。この余った部分は後で綺麗に削り落とします。

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外れた口金のネジと同じ規格にネジ切をします。

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ネジを設ける事に成功! 

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がっちり閉まりました。しかし丈夫に仕上がっても、ボールペンのリフィルを変える時にあまり硬いと開けられません。適度な力で取り外せるよう、再びネジ切をして開閉がしやすいよう、調節します。丁度良い硬さで開閉出来るようになったら、リフィルを入れて芯の出具合を確認して修理完了です。

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ペン先変形の修正 / Montblanc Noblesse

万年筆の修理で特に重要な作業の一つが、折れたり曲がったりしたペン先の修正。今回は一般的な、板金作業を採り上げます。「万年筆を落としてしまい、ペン先が曲がって書けなくなった」というご依頼は必ずあります。このような事故は、残念ながら少なくありません。万年筆って、残酷な事にほぼペン先から落ちる物なのです。まして柔らかい金ペン先ともなると、フローリングの床に落としても大きく変形してしまう例も。お直しするのは、モンブランの1970年代の細身万年筆ノブレス。

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ペン先を取り外し、破損具合をよく見てから修理方法を検討します。軽微な変形なら、専用のやっとこ等で掴みながら曲げ直しただけで直る事もあります。字幅でいえば極細は結構難易度が高く、板金はほぼ必須です。

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作業開始。やっとこで30分くらいかけて矯正したら、ほぼ形は戻りました。しかしこれはあくまで”見た目”で、ここから板金作業に入ります。やはり専用の槌(つち)を使って表から、裏から叩いて修正していきます。いたずらにカンカン叩くのではなく、ちょっと叩いたらすぐルーペで確認し、また叩いては確認の繰り返しで慎重に進めます。鉛の槌は小さい割には重く、ちょっとでも叩く力が大きいと余計変形させてしまうことも。またペンポイントに軽く当たってしまっただけで、それが飛んでしまう悲劇もあり得ます。

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裏側も横方向の歪みや段差が目立たなくなって来ました。

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まだ修正作業による細かい傷も残っていますが、ペン芯とともに一旦万年筆本体に取り付けて、試し書きを行います。普通のペン先調整と違い、変形する前の書き味を知りません。従って事前に依頼者様から聞いておいた書き癖や、インク出等をご希望に合わせ、それを想像しながら試し書きと指や爪による調整を繰り返します。

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ほぼ問題ないレベルまで修正出来た事を確認したら、再度ペン先とペン芯を取り外し、ペーパーで傷の荒削りをします。

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次にバフ掛けをして表面傷が分からなくなるまで仕上げます。最後に研磨剤を落とすために水洗いをし、もう一度インクを付けて試し書きをしてようやく完了となります。現在ほとんどのメーカーは、アフターサービス対象の万年筆でも基本的に変形したペン先の直しはやりません。交換になります。

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締付けリングの製作② Montblanc 644N

モンブラン 644N (1950s) のキャップ受けリングを、オリジナルと同じ形に作って下さい、と言うご依頼を受けました。アンティーク・モンブランに詳しい方、このモデルがお好きな方は、写真で少し違和感を覚えるかと思います。そう、胴軸と首軸の間のクランプリングの形が明らかにオリジナルと異なります。おまけにリングの外形が両脇の軸より細いのです。嵌合式のキャップを適度な抵抗で受ける役割のリングがこれでは、しっくり行かないのもご尤も。

 

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取り外すと、やっぱり変。クランプリングを紛失した以前の持ち主が何か代用にと、これを取り付けたことは明らかです。

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このパーツのみの入手は容易ではありません。という訳で、ウェブで検索したオリジナルの写真を元に、真鍮から削り出して作ってしまいます。やることは前回の当記事

ジュエリーも作ります Waterman Lady Agathe - 筆記具工房のブログ

と基本的に同じです。

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一応、形通りに削り出しました。取り付けて違和感がなければ形は成功。

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キャップを被せて、適度な閉まり具合であることを確認出来たら、完了です。このリングは、単にキャップ受けの一部であるだけではなく、ジュエリーのようなデザイン上のアクセントにもなっています。オリジナルに戻したいお気持ちは頷けます。

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万年筆製作日誌① 国産現行カートリッジ式のボディ作り

筆記具工房では修理だけではなく、一部業者様向けに試作を含めた製作も行っております。今回ご紹介するのは、個人のお客さんからの依頼で作りました、万年筆のキャップと胴軸です。国産メーカーの中型サイズ万年筆をベースに、少し太い軸をエボナイトで製作して欲しい、というものでした。他クリップ無しで、キャップ・胴軸ともオリジナルと同じ長さで。

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今回の写真はブログ用ではなく、お客さんに途中経過を見て頂くために撮ったものです。上と下の2枚は不格好なストッパー(転がり防止)が付いていますが、これはクリップ無しに対応するこちらの一つの提案でした。最終的にはストッパーも無しで選ばれました。

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今回の製作依頼の目玉は、コンバーター用のブラインドキャップを設ける事。「胴軸の後ろを外して、ボタンフィラーのようにコンバーター操作で吸入する軸は可能でしょうか?」と相談されました。ブラインドキャップを設けるのは、過去インク止め式やボタンフィラーの製作でさんざんやって来たので慣れてはいます。気を付けた事と言えば、コンバーターの脇のスペースを可能な限り狭くした点です。

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吸入する時、コンバーターが左右にグラつかないようにするため。でもあまりきつめにするとコンバーターを取り換える時、外しにくく傷も付けてしまうのでそこは適当に。

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胴軸を磨いて完成しました。ご注文はストッパーも無しのシンプルな仕様です。これもお客さんのご希望で、ブラインドキャップの表面に溝を設けていないので、閉じた状態では外側からは分かりません。

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納品(発送)前に改めて握って見ると、樹脂製の一般に売られている万年筆よりも太い軸だけあって、その安定感に「これはいいな~」と実感しました。依頼主様のアイディアに、また一つ勉強(+技術習得)になりました。もちろんオリジナル万年筆製作の場合は、首軸を含めた全製作やクリップ、キャップバンドの有無など選択は色々ございます。

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回転式ペンシルの修理 Montblanc Meisterstück 165

当ブログでは初めてペンシル(メカニカルペンシル)の修理を掲載します。モンブランの20年以上前の回転式ペンシル(ツイストメカニズム)で、キャップチューブ側を右に少し回転させると芯が出る仕組みです。ところが、胴軸とキャップチューブを繋ぐネジが緩んで空回りしてしまい、芯を出せません。調べたところ、幸い内部のメカは故障しておらず、前述の緩みが原因でした。

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胴軸側の雌ネジの摩耗がかなり進行しており、ネジが全く噛み合いません。内部を削って樹脂材を埋め込み、再び穴を空けてネジの切り直しする方法を考えました。そうすれば、オリジナルの胴軸をそのまま流用できます。しかし、内径を広げるための刃物(平ギリ)を当てると、熱膨張で胴軸の外側が変形してしまいました。結局、胴軸をゼロから手作りする事になりました。

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材料となるエボナイトで中身だけ完成しました。口金受けのネジ、ペンシルメカユニットが入るスペース、そしてキャップチューブと繋げるネジを切りました。

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今度はオリジナルと同じ形に、外形を削っていきます。

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ほぼ同じ形に削れたところで、一旦すべてのペンシルのパーツを仮付けして、細かい部分までチェックします。握った感触はどうか、ツイストアクションで芯がステップ動作で出るか・・・・・・etc ペン芯を補充する際の、キャップチューブを左回しで接続ネジごと取り外せる事も確認します。

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こうして外観がオリジナル通りであること、すべての動作が問題なく行える点を確認出来たら、胴軸を磨いて修理完了になります。

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ペン先研ぎ出し・調整 細字化 B → F / PELIKAN 100

普段修理を中心に採り上げて参りましたが、ペン先の調整も決して少なくない大切な業務の1つです(と言うよりも、シャッターチャンスがなかなか無いのです。まして、持込みのお客さんの前で一々写真を撮るのも憚られます) 実際、最近はペン先調整のご依頼も増えています。”ちょっと引っ掛かる”、”前より書きづらくなって来た”等々。今回はお預かりの調整依頼です。しかもこのお客さんへの研ぎ出し調整は昨年もありましたので、書き癖やご要望は把握しています。

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ペリカンのアンティークで、字幅は恐らくM。長年使われたようで、実際このペンで文字を書くと、Bくらいに太くなっています。因みにアンティークに多い、ペン先が柔らかく撓るものは研ぎ出し調整の難易度も高いです。「これを手帳用に使いたいのでFぐらいに細くして欲しい。自分の筆記角度に合わせ、インク出はやや渋めで・・・云々」とメールで具体的なご指示をいただき、更に万年筆を握ったご自身の手も写真添付してくださいました。後ろの字は工房に届いて現状の太さをチェックするために書いたものです。

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ペンポイントの研ぎ出し作業に入ります。写真は荒削りの第2段回。砥石が回転している写真で見辛いですが、研ぎ出す字幅に合わせた溝を設けてあります。余談ですが、専用の物が売っている訳でもないので、これらは自分で彫った溝です。※先端に人工ダイヤが埋め込まれた工具を使用。また砥石も場所によって、表面の粗さが異なります。もちろん、超鋼やより硬い砥石等を使って(自分なりに)仕事しやすいよう仕上げる訳です。

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まだ途中ですが、1枚。

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ペンポイントがまだまだ大きく見えますが、ルーペを外した目線では結構小さくなっています。

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一旦表面を仕上げポリッシャーでさらい、試し書きに入ります。

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上の線や数字が研ぎ出す前、下が研磨後になります。お客さんの握り角度や筆圧を想定した書き方で、まあまあのタッチ&滑りにはなりました。ちょっとまだ太いのと、インク出をもう少し絞る必要があります。再び研磨レースに向かい、試し書きを繰り返します。

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一応「ここまで」と自分で判断したところで研磨・調整作業は終了です。しかし納品までには、ペン先全体の表面磨きや洗浄が待っています。削った粉塵で、表面まで細かい傷が結構付着してしまうのです。金磨きクロスでも取り切れない今回のような場合は、バフ掛けを行います。ペン先をマスキングすればその工程も省けるかと言えば、そうでありそうでない場合もあります。バフ掛けの様子は、また次の機会にご紹介します。

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ボールペンの修理② WATERMAN Laureat

ボールペンの修理で多いのが、落として破損してしまったケースです。特に外国製の高級品ほど、落とした時の破損率は高いです。本体の材質に重いメタルが使われるのがほとんどで、幾らメタルのボディが頑丈でも、破損するのは決まって内部の樹脂パーツです。中でも重さや衝撃に弱い、肉薄な接続ねじ部がやられてしまいます。今回ご依頼のボールペンは、ウォーターマンの20年ぐらい前のモデルで、『ロレア』というシリーズ。メーカーからパーツ在庫終了で断られた物です。胴軸と口金を繋ぐ樹脂製の前軸が折れてしまっています。

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ねじの上に接着された物で、本来開かない部分です。(黒い樹脂の)グリップ側の折れて分離したねじが胴軸内に残ったままです。

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胴軸からやっと、その残り部分を取り出しました。

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2つに分離した破損パーツを片手で抑えながら、全体の形やねじのピッチ(間隔や規格)を計測し、本来のサイズも割り出します。それを終えてから、同じパーツを製作する作業に入ります。写真は削ってアールを付け、口金受けのねじを切り終えたところ。

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口金をねじ回して無事収まったところで、更に口金と面一(つらいち)になるように外形を僅かに削りながら整えます。当然、この後の研磨でコンマ単位で減る分も計算に入れます。

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胴軸に収まるよう雄ねじを切り終え、破損する前の形に復元できました。もちろん内径も、オリジナル通りに・・・・・・いえ、多少肉厚にしました。再び落とされた時のため、ついでに強度も上げます。

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表面を研磨して刃物傷を取り除いて光沢も出し、最後によく水洗いします。再び取り付けて、芯の出具合・引っ込み具合を見ます。この時点でばねが曲がっていたり、引っ掛かり気味だったら、それも交換してしまいます。

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完成。材質の違いも手伝ってオリジナルの新品時より、丈夫になりました。繰り返しますが、くれぐれも落とさないように(重いペンは尚)注意してお使いください。余談ですが、古いボールペンは破損しなくても自然摩耗でねじが緩くなって、外れてしまうケースもあります。※非接着の場合

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