万年筆製作日誌2本

オーダー頂いていた万年筆を2本製作しました。今回の2本は個人のお客さん(2名)からの依頼の物です。すべてエボナイト製。

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ペン先ユニットをお預かりし、形や配色、寸法は皆注文主様のデザインでした。頂いたスケッチを基に、削りました。特に目を引くのが、ベージュのエボナイトを上下2個のカナワで挟んだデザイン。

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お預かりのペン先ユニットの樹脂製カバーを外し、やはりエボナイトで首軸カバーを作ります。胴軸側とこの位置で切る(分ける)のは、オリジナルのユニットに合わせたからです。

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このストレート軸のデザインは、昔のウォーターマンやパーカーを参考にされたそうです。キャップ、胴軸とも外径Φ14.2mmとやや太めですが、材料の軽さもあり中々安定感があり、気持ちの良い握り心地でした。

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もう1本は、PILOT エラボーの樹脂軸をベースにエボナイトで製作しました。オリジナルとほぼ同じデザイン&寸法でキャップと胴軸の外径をやや太めに、そしてCON-70をブラインドキャップを設けて操作出来るようにとのご注文でした。

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ネジや内部の加工を終え、これから外径を削って形を整えます。

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ブラインドキャップ側を作ります。

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ネジ切り。

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キャップ側の製作です。

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クリップを取り付けて、削りは完成。

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研磨が終わったところ。

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ご注文通りのブラインドキャップを開けての、吸入操作。

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軸の色やクリップに合わせ、オリジナルのロジウムメッキを研磨で取り除き、14K本来の色になりました。

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首軸製作 / PARKER 45

パーカー45の修理依頼で、首軸表面が割れインクで手が汚れるという症状です。パーカー45に共通して見られる、経年によるプラスティックの痩せが原因です。

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ルーペで覗かなくても、縦に大きなクラックがあることが分かります。また痩せの進行が著しいので、本来の形より先端がかなり細く変形している上、ぐにゃぐにゃに波打った状態です。ここまでになると、傷口の接着ではまず直りません。またインク滲出とは別に、流石にこの形状では嵌合式のキャップが収まらないスカスカの状態。

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結論、首軸のカバー部をオリジナル通りに製作するしか方法はありません。しかし形だけ同じに作っても、別の大きな問題があります。この万年筆は首軸の中にコレクターというパーツが埋め込まれています。コレクターとはペン芯を装着しカートリッジやコンバーターと繋ぐ、心臓部のようなパーツです。しかも、45のコレクターはインク溜まりの役目を持つ、無数のフィンが付いた部分と一体となっています。従ってカートリッジとの接続箇所まで作っても、フィンのあるコレクターがなければ、簡単にインクがペン先からボタ落ちしてしまい、本来の性能を発揮出来ません。その為、コレクターの流用は必須です。

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↑ コレクターを取り出すには、首軸全体を削る必要があります。外側を削りつつ、なかのパーツには絶対傷をを付けないで進めなければなりません。少しでも刃物が当たれば、フィンはいとも簡単に吹き飛んでしまいます。 ↓ 無事取り出せました。

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洗浄を終えたコレクターとペン先ユニット。この2点が首軸の中にすっぽり納まっていたのですね。

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首軸を製作します。ペン先ユニットはもちろん、コレクターを収められるように、内部もピッタリに穴開け加工を施します。

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胴軸接続側のネジを切り、その上にリングがピッタリ収まるスペースを設けます。

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オリジナルの胴軸との、ネジの締り具合のチェック。軽い力で安定して開閉できればOK。

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今度は反対にチャッキングし、首軸表面の削り、ネジ切りを行います。

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ペン先をユニットを仮付け。

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表面全体をテーパ状に削り、痩せる前のオリジナルと同じ形まで仕上げます。途中キャップを何度も被せて、締り具合を微調整。仕上げの研磨を計算に入れて、僅かにきつめにします。ペーパー研磨後に丁度良い締り具合になるために。

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先ほどのコレクターを中に取り付け、完成しました。

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首軸リング製作 / WATERMAN EXCLUSIVE

「万年筆のペン先根本辺りからインクが漏れ、手が汚れる」という修理のご依頼です。ウォーターマンのエクスクルーシヴというスリムなストレート軸です。

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首軸先端のメタル部分が腐食して金メッキが剥がれ、一部内部がむき出しになっていました。ここで嵌合式のキャップを受け、パチンと閉まる機能的にも重要な部分です。

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取り外して、パーツの寸法やネジのピッチを測ります。

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以前2回に渡ってご紹介しましたパーカー75と同じ要領で、真鍮で同じ形に製作して対処します。無垢の真鍮棒から削り出して同じ形に作ります。

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製作が終わりました。難しいのが、真ん中の溝です。途中キャップで何度も合わせを行いました。溝の位置や形、深さが合っていないと上手くキャップに収まりません。パチッと言う感じで閉まれば成功です。

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後は表面に金メッキを施して、修理完了となります。EXCLUSIVEは1980年代のシリーズで、年式の問題で流石にメーカーでは修理を受けられなかったため、持ち主様は今回のご依頼まで数年間使えずにいたそうです。

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モンブランのカートリッジ式 首軸修理 / Montblanc No 221

モンブランのカートリッジ式万年筆で、グリップ部分の内部が折れて使えないと言うご相談がありました。歴代モンブランで日本でもポピュラーな通称3ケタ(1970年代)シリーズの1つです。このシリーズで破損するのは、ほぼ首軸表面のひび割れか今回のコネクターパーツです。首軸側と(インクを交換する時に開ける)胴軸側を繋ぐ、大切な部品です。ここが折れれば握って書く事が出来ません。送られて来た時点で、真っ二つに破損したこのアクリルパーツは、上部が首軸内部に残ったままになっていました。

首軸フード内に残った方も取り出したところ。

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接着ではお直し出来ないため、同じ透明アクリル材から削り出して製作します。

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ネジを切ったところで、オリジナルのフードを付けてネジの締まり具合を確かめます。

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ネクターが完成しました。この小さなパーツにかなりの機能が集約されるので、見た目以上に製作は困難でした。首軸フード部と胴軸をネジできっちり繋げられるのはもちろん、カートリッジ&コンバーターを定位置でオリジナルと違和感ないように取り付けられ、且つインクが通るので漏れないようにもしなければなりません。

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首軸に取り付けて、インクを吸入してインク漏れしないかをチェックします。ところで見えているネジは、カートリッジ式にはとても珍しい4条ネジ(いわゆる早ネジ)。この小さなコネクターパーツに多条ネジを切るのも、やはり大変です。

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オリジナル程の透明感はありませんが、何とか丈夫に日常使用に耐えられるようにはなってくれたようです。機会があれば、同じ3ケタシリーズのフード部が破損した例(修理)をご紹介したいと思います。

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ヤリ製作・取付け / PILOT CUSTOM いぶし銀

 パイロットの40数年前の初代エリート系の万年筆で、コンバーターを取り付けるためのパーツが破損して使えなくなっていました。同社の万年筆は”ヤリ”と呼ばれる、半円状の樋のような物が付いたパーツで、カートリッジやコンバーターを取り付けられるようになっています。依頼主の方はメーカーに修理に出したところ、この型式のパーツ在庫が終了して受け付けられなかったそうです。

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お客さんは1970年代に新品で購入して以来ずっと愛用されてきたのですが、ヤリの欠損で止む無く付けペン状態で使われていたそうです。首軸を裏側から見ても、ヤリがないのでペン芯の底がむき出しで、宙ぶらりん状態です。

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オリジナルは透明アクリルですが、再び長くお使いいただけるよう強度を鑑み、エボナイトで製作しました。ネジ一体のヤリです。荒削りを終えたところで、ここから更にこまかいバリを研磨仕上げします。

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コンバーターに丁度良いフィット感で取り付けられることを確認出来たら、パーツ製作は完了。

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出来たヤリパーツを工具で、首軸内部にネジ回して取り付けます。コンバーターを再び装着し、修理完了です。

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インクビューのみの製作 / SOENNECKEN

同じメーカー製のアンティーク万年筆2本をまとめて依頼されました。割れたインク窓の修復(製作)と、吸入機構の修理(サック交換)です。ドイツのゾーネケンで、1935年頃の製品。2本とも同じ吸入方式です。即ち外観はペリカンのようなインクビューがありますが、ピストン式ではなくボタン吸入式という珍しい物です。ウォーターマンにも似たインクビュー付きの吸入式がありましたが、あちらはレバー式でした。

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2本ともインクビューに目立つクラックが数か所あり、接着では綺麗になりません。

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ご覧のようにインクビューは胴軸とネジで接合されており、この部分の製作で胴軸内部全体を作る必要はありません。ブルーセルロイド(イタリア製)の方がラインゴルト、手前のブラックセルロイド軸はプレジデントと言うシリーズです。 ※写っているラテックスのサックは元から付いていたもので、これらをシリコンサックに付け替えます。

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インク窓と胴軸を切り離したら、今度は首軸も取り外します。案の定、1本は取り外しの段階でさらに崩壊が進みました。外ネジが首軸側に持って行かれてしまいました。どの道、修理は外観以上に急を要していたという事になりますね。

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採寸・記録が済んだら、まずはインク窓の製作に取り掛かります。透明アクリルを使います。

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オリジナルの胴軸と、ネジがぴったり合い、且つつなぎ目からインクが滲出しないよう丁寧に削ります。これには、刃物をよく研いでいるか否かでインクの食い止めに掛かって来ます。

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製作の傷を取り、一応切削作業の方は終了。次に塗装に入ります。

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オリジナルかそれよりも幾らか明るい色で染色します。経年の汚れ、インクの汚れ等で(特定のメーカーに限らず)現状はやや色が濃くなっているのが普通です。従って新品当時の色を想像し、仕上げてゆきます。

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サックを交換取り付けし、インクビュー/胴軸の接着剤の乾燥を待ちます。後日吸入テストを行い、インクの滲出無く基準の量を吸入できてようやく完了となります。

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パーカータイプの回転メカをモンブランに応用できました! / Montblanc turbo

モンブランの1970-80年代のターボというシリーズのツイスト式ボールペンです。落としてしまった際に、キャップチューブと胴軸側が分離破損してしまったとのことです。一番下のグレー+メタルのパーツは、リフィルを繰り出す最も重要な部分です。これはお預かり後に引き抜いて取り出した状態です。

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本来の位置に装着して見て、外れてしまった上に回転機能が働かない理由が分かりました。カバー部の樹脂の割れが著しく、スカスカで全く接続出来なくなっていました。回転するのは先端のメタルのみで、割れたカバー部分は本来固定されて動かないのが正常です。ところがこの状態では、ストッパーにならず回転つまみと一緒に空回りしてしまいます。

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そこでパーカータイプの回転メカ(パーカー純正ではありません)を移殖して取り付ける事にします。モンブランとパーカーではリフィルの形もサイズも異なりますが、この種の構造のボールペンではある位置で伸縮の機能を果たしてくれれば良い訳で、ストロークもほぼ同じです。また上部の回転つまみも、キャップチューブ内の窪みにピッタリ収まる事を確認しました。問題は形の異なるこの他社製のメカを、ボールペン先端が決まった位置に出し入れできるように持って行けるかです。つまり、メカをその丁度良い位置にどうやって固定させるかという事になります。 ※写真は移殖する新品のパーツ

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寸法を測って、メカを固定させる位置を決めたら作業に入ります。まず、オリジナルのメタルパーツを留める胴軸上部を切り落とします。

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残った胴軸側のリフィル挿入口の内側にネジを切りました。

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次に回転メカと胴軸を繋ぐためのパーツを樹脂で製作します。

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先にネジを切った胴軸側に装着するためのネジを切ります。

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胴軸と製作した接続パーツを取り付けます。

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一旦リフィルがスムーズに入るかチェック。

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リフィルに蓋をするように、製作した接続パーツと新品の回転メカをネジで締めて固定します。

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この仮付け段階で回転つまみ(上の写真右側)を指で回して、写真のようにリフィルが適当な位置に出て留まる・収納出来ることを確認しました。

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キャップチューブを圧入して、完成です。下の3つのパーツは、すべて不要となった物です。

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