2色ボールペンの修理 / Montblanc Slim line 2 color BP

回転式2色ボールペンをお直ししました。モンブランの80年代のS(スリム)ラインシリーズです。右に回せば青、左が赤、中間のニュートラル部分で芯が引っ込む構造で、多機能ペンの元祖的な物のようです。当然色の組み合わせは自由ですが・・・。

故障の内容は、落っことしたら片側の芯が固定されなくなってしまったというものでした。f:id:hikkigukobo:20190704235811j:plain

 

リフィルのホルダーパイプの先にある、小さな赤いプラスティックのパーツがあります。これが白いカバー先端の溝に引っ掛かって、出した芯を固定する重要な役割を持っています。下の写真は破損していない方のストッパーで、ニュートラル(芯が胴軸内に収まった)状態。

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問題の破損したストッパー。カバーに引っ掛かる突起部分だけが、分離してしまっていました。幾ら回転させても、芯が固定されない訳です。収納の際に勢いよく引っ込むのは、もちろんスプリングの反発力によるものです。この小さなパーツにただでさえ長年の負荷が掛かっている中、落下の衝撃が加わればこのような壊れ方をするのも頷けます。

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一旦応急的に接着はしてみたものの、やはりまたすぐ外れてしまいました。同じパーツ単体の入手が難しいため、エボナイトを削ってストッパーを作ります。予備も含めて2個。細い方の直径は僅かΦ2.3mm、長さにしても5mmぐらいです。この小さい穴に、ホルダーパイプの先端を装着させますが、これも単に入れば良いというものではありません。多少の力では引っこ抜けないように、少々ぴっちりめの内径で空けます。因みに轆轤で削れるのも、ここまで。

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オリジナル通り、突起部分だけを残して周りを削ります。両刀グラインダー、ハンドグラインダーの順に使い、残りは2、3種類の棒やすりで手仕上げになります。

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ちょっと写真では上手く表現できなかったのが残念です。見てくれは綺麗じゃありませんが、きっちり機能してくれればOK。その機能とは、縦溝の入った樹脂の筒に収まり、且つ抵抗なく上下にスライドし、そして前述のカバーの溝でしっかり止まる(=固定)ように出来る事です。更に芯が出た際、破損していない側のリフィルと同じ位置で止まらなければなりません。例えば赤い芯の先端に対し、青の芯が出過ぎる、又は少し奥に引っ込んでいるというのでは機能も見た目も失格だからです。見辛いと思いますが、下の写真は突起が正面を向いた状態です。f:id:hikkigukobo:20190704235934j:plain

 

最初作った方は失敗し、2個目で上手くいきました。こちらはオリジナルのストッパー側。

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制作したストッパーで固定された状態。

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多少緩かった胴軸の内径調節も同時に行い、修理が完了しました。

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中身ほぼすべてを製作 : Montblanc 744

2本のアンティーモンブラン、#744 & #744Nをお直ししました。①744Nは吸入のお直し、②744は当初のご依頼は吸入の修理と首軸の製作でした。お預かり時、胴軸は首軸よりもさらに痩せて、外径も見た目で細くなってしまっているのが分かる程でした。

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当初から首軸の製作を希望されたのは、先端がほぼ一周に渡って大きく傷が付いてしまっていたから。因みにペン先は珍しいO3B。

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修理に取り掛かるためボディ全体を分解したところ、懸念していた予想が的中して胴軸の先端部分、リングの真下から縦に大きくクラックが発生してしまいました。お客さんにご連絡して、胴軸も製作することになりました。

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セルロイドの首軸がかなり痩せていたため、内径も狭くなっていたこともあり、ニブホルダーの取り出しにかなり時間が掛かってしまいました。結果ニブホルダーの先端も大きく傷が付いてしまいました。これらも取り掛かる前からの予想通りでした。状態によっては外れないケースもあるからです。

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エボナイトを削って首軸の製作を行います。側面のアール付けはこれから。

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側面(グリップ)の削り落とし。取り外したオリジナルを測りながら削りますが、収縮してしまっている現状から、新品時の外径を予想して少し太めに作ります。

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首軸とホルダーの削りが完了。当然、首軸内部にもホルダー受けのネジを切ってあります。注意点は、そのネジを切る位置。完成して取り付ける際に、ホルダー先端がオリジナルと同じ深さで止まるようにしなければならないからです。

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胴軸製作の写真は省略しました。アクリルを削って、外観は完成。仮付けの首軸も、もちろん新たに製作した方になります。

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金張りの胴軸(外筒)も仮付けして、収まり具合を確認。

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パッキン及び上下のナットを製作して仮取付け。そして水をインクに見立てて、吸入の確認。この時点でまだ空気が多めに入ってしまうので、微調整を繰り返します。

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胴軸を研磨・染色して完成しました。オリジナルはダークブラウンの透明でしたが、お客さんのご希望でアンバー系にしました。元々メタルのボディやペン先その他のパーツ類の状態が良好だったこともあり、とても実用的なお直しが出来ました。アンティークペンの場合、オリジナルコンディションか実用かは依頼される方によって異なります。今回は実用優先でのご依頼でした。それにしても弊所でも首軸と胴軸の両方を作る機会って、滅多にありません。

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万年筆製作日誌 ~適当に作ったオーソドックスモデル~

過去製作した万年筆で、今回は手作り万年筆としては低予算での製作例を採り上げます。

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首軸を含めた金ペン先ユニットは国産メーカーからの流用で、キャップ、胴軸を製作したカタチになります。クリップ、キャップリングは当工房の在庫を使いました。

 

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形状がシガータイプの方は胴軸に少し膨らみを持たせ、フラットエンドタイプは外ネジから下は、スマートな形にしました。更に大したアイディアではありませんが、天ビス、又はボトム側にも同色の樹脂を接合することでアクセントとしました。これだけで、年齢・性別問わず親しみが増すと考えたからです。 

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胴軸の一部を少し太くする、或いは長さを変えるだけで握って書いた感じはベースモデルとここまで変わるのか、という印象を与えてくれます。

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 今回の2本はあくまで一例で、材料をご用意いただく場合でも応用できます。

 

 

分断したペンシル / Montegrappa 300

モンテグラッパのツイスト式ペンシルです。写真の胴軸とペンシルメカを収めるカバー、ここを繋ぐネジの脚から破断してしまっていました。お預かり時、この千切れたネジはカバー内部に残っていて外れない状態でした。このわっか状になった破断面を接着することはまず出来ないため、破損前と同じ形に一部作って接合する方法を採りました。

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胴軸側をセットして、削っていきます。これから作るネジ部分のパーツを取り付けられるように加工する訳です。

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ここに削って設けた段で、茶筒のように接続して糊代(のりしろ)とします。

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今回は非常に肉薄+ネジを切らなければならないので、ベース材には樹脂を使わず、同じ真鍮から削り出す事にしました。

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枠部分が完成。これから本体に取り付けてから、ネジ切りです。

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カバーを取り付けられるように、ネジ切り完了。

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ペンシルのユニットを装着します。

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この黒い樹脂の突起をノックすると、カチカチと普通に芯が出ます。これだけだとノック式ですが、カバー部先端の転子を右に捻るとやはり芯が出る仕組みです。話は反れますが、これは回転式ボールペンのメカと共用することによってコストを下げた結果でもあったようです。実際、モンブランのクラシックシリーズのペンシルもまったく同じツイスト式です。

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後はキャップスリーヴに真っすぐ押し込んで完了となります。

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万年筆の胴軸製作(モンブラン) / Montblanc Ⅲ Jade Green

アンティーク・モンブランの胴軸製作の修理です。非常に貴重なジェイドグリーンのセルロイドボディで、何でもこの状態で海外から入手されたとか。

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ただ現物をよく見ると、丁度インク窓と色柄の境目で水平に破断しています。不幸中の幸いか、ジェイドグリーンのセルロイド箇所には、ヒビ割れ一つありませんでした。

過去のペリカン100 / 100N の修理の時と同じく、色柄の部分を上手く取り外して、これから製作する胴軸に被せる修理を最初から検討していました。しかしモンブランのこの型式を手掛けるのは初めてで、ペリカンの時と同じ要領で出来るかやって見るまで分かりませんでした。しかし破断面からも、グリーンの外筒と内部の透明セルの境界ははっきり分かります。

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作業開始。接着を解いて透明セルを取り外せそうにないため、やはり中を削り取って外筒を無傷で取り出す作戦です。つまり内部の透明セルはすべて削って無くなってしまう訳です。

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写真では省略していますが、いきなり内部の透明セルロイドと同じ外径の刃物を当てる訳ではなく、細い刃物(錐)から少しづつ太いものに変えていきます。それもちょっと削っては刃物を水に浸けて冷やし、またちょっと削るということの繰り返し。切削の衝撃で全体をバリバリっと割ってしまったら一巻の終わりです。またまめに刃物を冷やさないと、薄くて脆いセルロイドの外筒を内部から膨張&変形させてしまいます。

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無事、外筒だけを綺麗に分離させることが出来ました。これで一番難しい作業は終わりです。後は透明アクリルで、オリジナルのインクビューを兼ねた胴軸本体を製作します。

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先に取り出したジェイドグリーンの外筒を被せ、全体の雰囲気を確認します。一旦ここでピストンユニット一式を仮付けして、水の吸入・排出試験を行います。

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次に破損したオリジナルのカラーを再現するかたちで、染色します。染色液の色の配合が一度で上手くいくとは限らないので、この作業も時間を必要とします。透明アクリルの端材を使って、何度も染色します。それで納得のゆく色が出来て、最後に製作した胴軸を染色するのです。破損していたとはいえ、この万年筆は年式の割には非常に綺麗な状態でした。普通、インクと経年でこんな透明度の高い軸は滅多に出てきません。

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再び外筒を被せ、接着して一晩置きます。後はすべてのパーツを取付け、ペン先の調整を行ってようやく作業終了となります。

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実は昨春(2018年4月)の修理で、記録写真を撮ってそのままだった事をすっかり忘れていました。

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インク止め式の胴軸修理(製作)

胴軸が真っ二つに折れた、インク止め式の万年筆を依頼されました。ネジより少し下が完全に破断してしまっています。

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ここは接着では今後の耐久性を保証できないため、依頼主様と相談した末、胴軸部分だけを製作して対応することに決まりました。

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採寸後、同じ素材のエボナイトを切削して復元完了。

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もちろん、パッキンユニットを含めての製作してあります。少しでも修理(製作)代を軽くすべく、尾栓(尻軸)はオリジナルを流用しました。

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修理完了です。この塗りは元々お客さん自身が専門の人に塗って貰ったそうで、納品後同じ塗師に胴軸部分の塗り直しを依頼されるそうです。従って削り出した胴軸の表面も、漆を塗られる前提の仕上げとしてあります。いわゆる中仕上げでして、これをピカピカに仕上げてしまうと、漆が”滑る”のです。ある程度のザラツキが必要になります。今回胴軸のみの製作と言っても、話はそう単純ではありません。直接スポイトで入れるアイドロッパー式でもある訳ですから、カートリッジ式等の胴軸よりあらゆる面で”精度”が求められます。首軸との接合箇所である、面の挽き合わせ。ここはやはりインク止め製作と同様にインクが内側から滲み出ないように細心の注意で削ります。大工仕事で例えれば、カンナで裏が透けるぐらいなクズを出す要領です。そしてネジで留める中芯の位置合わせ・・・等々。

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ボールペン口金製作 / Pelikan K320 Orange

軸の先端が割れたペリカンの小型ボールペンで、金属の口金(くちがね)も紛失してしまっています。百貨店経由でメーカーから修理不能と断られたそうです。つまり同じ色のパーツそのものをストックしていないのだと思います。

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近年のカラフルなレジンは衝撃に弱く、同じモデルでもどうしても黒などのAS樹脂等より割れやすいきらいがあります。特に小さければ肉薄ゆえ、より衝撃に不利な訳です。依頼されたボールペンは、回転の芯出し入れの機能は壊れていませんでしたが、1cm程先が無くなって宙ぶらりんな状態でした。

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まずは完全な平面が出るまで、=傷の一番深い部分まで削って整えます。そしてこれから作る口金を内部で受けるための、凹状のスペースを設けます。

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ご依頼を受けた時は、エボナイト等の樹脂で切削・接合して対応する積りでした。しかし、このカラフルなオレンジ色を見て気が変わりました。お客さんからは了承を得ていたとはいえ、オレンジの先っぽが”黒”というのはもう少し何とかしたいと思い直したからです。そこでなるべくオリジナルに近づけるべく、真鍮で製作することに変更しました。当然この小さなパーツでも、樹脂と金属では後者の方が加工難易度が高く時間もかかります。

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胴軸にぴったり収まるところまで削ったら、反対側にチャッキングし直します。見本用に同じ形のペンがある訳でもないので、ウェブの写真を見てほぼ想像で再現するしかありません。

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完成後、センター(穴の位置)がずれていたらカッコ悪いので、リフィル先端の穴は最後に開けます。使用するドリルは0.05mm単位のサイズ違いの規格で、例えば2.35mmの次は2.40mmという具合です。このドリル選びがリフィル先端脇のスペースを、つまり安定した書き味を左右します。当然狭いほど安定する訳ですが、ぴったり過ぎると芯の出し入れが硬くなってしまいます。

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口金の削りが終わったら仮装着して収まり具合、芯を出した時の見た目の位置を確認します。

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後は金メッキ処理、接着で完了となります。

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