モンブランNo.144 テレスコープ デモンストレーター仕様!?

f:id:hikkigukobo:20170823232820j:plain

モンブランの1950年代のNo.144です。これをご依頼により、透明アクリル材から削り出し、製作しました。元の軸は特に破損していませんでしたが、経年で著しく痩せていました。「いつ破損するか不安なので、いっそ胴軸ごと新たに作って欲しい。そしてどうせ作るなら、デモンストレーターのような全体が透明な軸を作れますか?」というお客さんからのご依頼内容でした。

オリジナルの胴軸と今回作った胴軸のショットがこれです。

f:id:hikkigukobo:20170811233432j:plain

痩せに加え、黒い表面塗装の退色もやや進んでいるようです。

この類の万年筆の場合、単に胴軸だけ同じ形に作れば良いという訳ではなく、内部の細かい吸入機構のパーツを”正確に吸入するように”移し替えます。当然その機会にパーツの洗浄やグリースアップも行います。何十年と言う長い年月、密封されていたのですから。同時に傷んだコルクパッキンをシリコン製パッキンに交換、更にスペーサーやナット等、合計3つのパーツも新たに拵えなければなりませんでした。

f:id:hikkigukobo:20170811234658j:plain

ピストン吸入式の胴軸製作で最も難しいのは、ネジ切を含めた外径加工よりも内径の方です。特に仕上げ。内部の穴開け後、刃物傷を取りつつ内径を上から下まで”均一に”処理しなければならないからです。ここが狂うと、後ろのノブを回転させてピストンを動かす際に、動きが重い個所と軽い個所に別れてしまいます。そんな状態で吸入と排出を繰り返すと、大概インクが弁より後ろに回ってしまうか、少ししか吸入できません。

f:id:hikkigukobo:20170823233235j:plain

水の吸入テストが済んだら、実際にインクを入れて更にピストンを上下させて絶対にインクが後ろに回らないかチェックします。写真では何色か分かり難いですが、ブルーインクが入っています。後は1~2日置いて様子を見て、完了となります。

 デモンストレーター仕様での製作は非常に珍しいケースです。ほとんどの方は、オリジナルに近い外観での修理を望まれます。例えば今回のような吸入式を作るにしても、黒い材料+透明アクリルにオリジナルと同系統の着色が普通です。或いは一旦アクリルで作ってから、インクビューと黒に塗り分けるという方法も。なかなか大変でしたが、お客さんのそんな遊び心で私も良い経験と技術習得ができました。