オノト プランジャー式の修理 No.1

アンティーク万年筆の中でも、日本で特に人気の高いONOTOの修理依頼です。メーカー自体は1950年代までありましたが、主に愛用(出回っている)されている個体は戦前のモデルばかりです。この複雑なプランジャー式の修理の需要は多く、これまでかなりの本数をこなして参りました。

f:id:hikkigukobo:20170830232824j:plain

故障個所のほぼ9割は、シーリングコルク摩耗による後ろ側からのインク漏れ、またプランジャー吸入の要『弁』の摩耗・破損による吸入不良です。

ところが今回の依頼品は、それ以前の不具合。通常はプランジャーロッドを引っ張れば尻軸が大きくスライドしますが、写真のように固着してこれ以上動きません。

f:id:hikkigukobo:20170830233427j:plain

一旦スライドの不具合は諦め、尾栓から外します。※尤も尾栓を外さないとロッド全体を胴軸から取り外せませんが・・・・・・。さて横から尾栓とロッド後端を貫通して留めてある”留めピン”を外しました。このエボナイト製のピンは外径わずかφ1.2mm!

経年もあり少なくない確率で、外す時に折れてしまいます。堅牢なエボナイトも、あまり細いか薄いとプラスティックより簡単に折れてしまいます。

f:id:hikkigukobo:20170830233832j:plain

再び組み立てる時のために、先に同じエボナイトで作りました。

f:id:hikkigukobo:20170830233957j:plain

やっとロッドを取り外せました。外側から何度も温風を加え、少しずつ根気よく動かしての結果です。力加減によっては、この時点でロッドを破損させてしまう恐れがあります。

やはりオリジナルの弁が腐り、胴軸内で固着していました。

f:id:hikkigukobo:20170830234315j:plain

先ずは朽ちたコルクを取り除き、Oリングのパッキンを埋め込みます。その際に内径をOリングの外形に合わせて若干広げます。内径を広げた上、Oリングはコルクに比べて高さがないので、大きく隙間が生じてしまいます。その隙間を埋めるスペーサーと一体型の蓋を作って、閉めたところ。後年何かがあった時、メンテがしやすいようにマイナスドライバーの溝を掘ります。手前は役目を終えたオリジナルの蓋です。

f:id:hikkigukobo:20170830234849j:plain

腐食していたゴム製の弁を取り外し、シリコンで作った新しい弁を取り付けて加工作業は終了。この後組み直し、水で吸入試験に移ります。”ジュポッ”という快い音でしっかり吸入すること、後ろから水が漏れないことを確認して修理完了です。

 今回のご依頼物は、前述の「ロッドが固着していた」点とピン折れ以外はどこも破損していなかったので、基本作業+αで済みました。いずれ、破損した物やロッドパーツが欠損した状態の修理もご紹介します。