インク漏れ複数個所 Montblanc - Marcel Proust

モンブランの1999年発売の作家シリーズ、マルセル・プルーストの万年筆です。「過去に首軸が割れてインク漏れした物を、応急処置で表面に漆塗りして貰い、それが再びインク漏れするようになってしまいました。こことは別に後ろからのインク漏れもあります。」と言うのがご依頼の内容です。首軸くびれ全体が、鈍くざらついて見えるのが漆塗りされたと分かります。

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ところがお預かりした時点で、本来のクラック箇所とは別の、外ねじ部分から複数ひび割れ&漏れがありました。一旦インクを抜いて、水を吸入して確認した結果です。後に触れますが、後ろの尻軸側からのインク漏れも(お客さんの)ご説明通り確認出来ました。と言う訳でこれは大掛かりな修理になりそうです。一計を案じて、内部の構造を把握した上で「首軸製作・接着」、そして「吸入機構のガスケット外形調節、又は交換」という方法を採ります。

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首軸を切断(何だか嫌な表現だな・・・)すべく、芯棒にセットすると、漆塗りされる前のものらしきクラックが現れました。

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胴軸内部の樹脂と首軸は、一体成型のようです。

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エボナイトを首軸の形に削り、ねじ切り。もちろんこの間、キャップねじと何度も合わせながら行います。

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ペン先をソケットごと仮付けして、これまたねじの具合を見ていきます。

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今回拘ったのは、首軸の”より正確な”復元です。ご依頼のプルーストをお預かりした時、首軸の形に違和感を覚えました。とにかく漏れを喰い止めるため止むを得なかったのだろうと思いますが、漆がかなり厚く塗られたせいか、形がかなり違って見えました。その塗られる前のオリジナルの実物がないため、ネットで画像検索してあれこれ参考にしました。お客さんからは何も言われていませんでしたが、折角作るならなるたけ形もオリジナルと同じように再現したいという衝動に駆られました。と言う事情で、数値的にはどこまで正確に出来たかは分かりませんが。以上、余談でした。

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磨きを終えて、首軸が完成しました。

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ところが新たな問題発生! ・・・というか問題に気付きました。写真では省略しますが、ピストンのガスケットの外径調節をしても後ろからのインク漏れが止まりませんでした。十分な量を吸入するのに。変に思ったら、何とガスケットの脇からではなく、シルバーの外筒とプラスティックの内筒の間から漏れていたのです。これはガスケットより上のインクタンク部の樹脂部分に穴かひび割れが発生していた事を意味します。 ※写真は胴軸反対側の、吸入機構を取り外した状態です。水を排出(=ピストンを上に上げる)すると、こちらからみるみる水が染み出して来ます。この万年筆はインク窓が無いだけに、外観からは確認しようがありません。

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修理方法を変更して、シルバーの外筒のみを残して、内部の樹脂をすべて削り取ってしまいました。当然外筒と同じ長さ分の樹脂が接着されていた訳ですが、出て来た写真の樹脂は一部です。見事な穴が2か所は確認出来ました。

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折角作った首軸も破棄して、胴軸と首軸のすべてを一から作り直す羽目になってしまいました。一体ではなく、首と胴は別に作ってねじ+接着です。過去の記事でも買きましたが、難しいのは同じ形に作るよりも、吸入機構の正確なシーリングに対応出来るように仕上げる事です。

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シルバーの外筒を被せて、ようやく完成の実感が湧きました。ここで気を付けなければいけないのは、接着する位置です。オリジナル通り、"Marcel Proust" のサイン刻印とペン先表面が一直線上に来なければなりません。キャップのクリップ位置も同様です。

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尻軸キャップ受けのねじから下は、オリジナルパーツです。結論:漆は表面被膜になっても、少なくともインク漏れ防止の接着剤にはならないようです。

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