PARKER 75 首軸リングの修理

パーカー75 の首軸からのインク漏れを直します。「書いていると、どうしても手がインクで汚れる」とお問い合わせがあった時、”ああ、後期のFRANCEモデルかな”と思ったら、意外や前~中期型のUSAモデルでした。パーカー75 は樹脂の首軸先端にメタルのリングが付いているのがデザイン上の特徴です。ここのリングがインクの腐食に割と弱く、亀裂(酷い場合は穴)を起こしてしまうケースが結構あります。コストダウンからかデザインの作りからか、後期型のFRANCEタイプにこの症状は集中します。ところが前述の通り、頑丈な(筈の)USAタイプでした。写真では最も目立つクラックが映っていますが、反対側にも2か所確認出来ました。

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リングを取り外した首軸本体。クラックが3か所もある上、メタルの材質は薄く、おまけにねじの力で取り付ける時再び傷口が開いてしまう事は明らかです。

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という事で、リングを作ってしまいます。材料はインクの酸に強いエボナイトを使います。ベース材に内ねじを切って、首軸を仮閉め。ねじの閉まり具合を調節します。ここはまず外す必要がない所ですから、きつめにします。因みに材料の一本線は、カットするために付けた印です。

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一応、削りが完成しました。左は取り外したオリジナルのリング。

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完全に出来上がったように見えますが、キャップとの合わせ=微調整という大切な作業が残っています。この万年筆は嵌合式で、パチンと嵌って留まる構造です。それはキャップ内部にあるバネの窪み個所と、リングの先端の微妙に広がった個所(ツバ)が上手く”抜けて”収まる構造です。ここのツバの外径がちょっとでも広いと閉まりが硬く(更に僅かに削る)、逆にちょっとでも削り過ぎるとカパカパに緩くなってアウト! 一から作り直しです。

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オリジナルと同じ感触でキャップを開け閉め出来る事を確認したら、修理完了です。因みに前述のFRANCEタイプはこちら☟

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ご参考までに真鍮で製作したリングが以下の2枚です。こちらの方が幾らか割高ですが、ご予算に応じてどちらでもお作り致します。

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パーカー75 の同じ症状の修理は、年に3件くらいは来ます。オリジナルのリングがインクの腐食に弱いと書いて、75をお使いの方は不安に思われるかも知れません。ですが、インクが固まったまま長期間放置せず、綺麗に水洗いしてから保管すれば充分長持ちします。またインクを入れてお使いの場合も、色が濃くなる前の頻度でインク補給をするかたまに水洗いをすればそう心配ないと思います。