首軸製作 / PARKER 75

これまでパーカー75の首軸リング製作の修理は2度ばかりご紹介して参りました。しかしインク漏れや付着のもう一つの原因は、グリップ部である首軸そのものの変形や破損です。75の首軸破損、特にクラックの場合は他の万年筆のように接着で直ることはほとんどないと言えます。そうなりますと、パーツを入手して首軸ごと交換が一番手っ取り早いのですが、廃盤になって20年は経つモデル故、メーカーも対応していません。それに中古パーツ単体の入手も簡単ではありません。

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見事に大きなクラックでパックリ割れて、内部のコレクターのフィン(インク溜まり)が丸見えの状態です。これは樹脂の経年痩せにより自然に発生したひびです。まず接着では塞げません。

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ペン先ペン芯一体ユニット、前述のコレクターそしてリングを再利用して首軸本体を製作する方法を採ります。取り外せるパーツはすべて外し、コレクターは削って取り出すしかありません。基本的な作業の流れは、以前ご紹介したパーカー45とほぼ同じです。

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これがコレクターという重要なパーツ。ペン先ペン芯ユニットを中で固定し、ある程度の量のインクを保持し、更にカートリッジ&コンバーターの取付け口とも一体となっています。
※正確にはペン先ユニットを固定するのは、コレクターの更に上にあるブッシュです。

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カートリッジの取付け口=穿刺チューブ側から。余談ですが、パーカー75が幾ら水洗いしても、なかなか首軸内部のインクを落とし切れない理由は、ペン芯と別体のこのコレクターが入っているからです。内部で一旦フィン全体に溜まったインクは、水の吸入・排出では届きにくい部分もあるようです。

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首軸の製作に入ります。リング受けの外ネジ部分を切りました(手前)。

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リングを仮締め。

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ここからが45にはない指の当たる窪み加工。轆轤では加工できない形状で、丸い砥石を回転させて窪みを3か所彫ります。回転砥石に対し、首軸を手で持って当てるので、最も神経を使う作業です。当て方を間違えると、窪みを均等な3分割に出来ません。例えば窪み2か所の位置が近すぎると、残りの1ヵ所だけ離れた歪な形になってしまいます。折角轆轤でここまで削り出したのがパアに・・・・・・。

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作った首軸を磨き、洗浄し終えたらすべてのパーツを取り付けて組み立てます。

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セッティング完了。

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モニターインクを入れ、数日様子を見て安定して筆記が出来、かつインク漏れがないことを確認出来たらようやく完成(修理完了)となります。首軸がエボナイトなので、オリジナルより丈夫になりました。

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