万年筆の胴軸製作(モンブラン) / Montblanc Ⅲ Jade Green

アンティーク・モンブランの胴軸製作の修理です。非常に貴重なジェイドグリーンのセルロイドボディで、何でもこの状態で海外から入手されたとか。

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ただ現物をよく見ると、丁度インク窓と色柄の境目で水平に破断しています。不幸中の幸いか、ジェイドグリーンのセルロイド箇所には、ヒビ割れ一つありませんでした。

過去のペリカン100 / 100N の修理の時と同じく、色柄の部分を上手く取り外して、これから製作する胴軸に被せる修理を最初から検討していました。しかしモンブランのこの型式を手掛けるのは初めてで、ペリカンの時と同じ要領で出来るかやって見るまで分かりませんでした。しかし破断面からも、グリーンの外筒と内部の透明セルの境界ははっきり分かります。

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作業開始。接着を解いて透明セルを取り外せそうにないため、やはり中を削り取って外筒を無傷で取り出す作戦です。つまり内部の透明セルはすべて削って無くなってしまう訳です。

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写真では省略していますが、いきなり内部の透明セルロイドと同じ外径の刃物を当てる訳ではなく、細い刃物(錐)から少しづつ太いものに変えていきます。それもちょっと削っては刃物を水に浸けて冷やし、またちょっと削るということの繰り返し。切削の衝撃で全体をバリバリっと割ってしまったら一巻の終わりです。またまめに刃物を冷やさないと、薄くて脆いセルロイドの外筒を内部から膨張&変形させてしまいます。

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無事、外筒だけを綺麗に分離させることが出来ました。これで一番難しい作業は終わりです。後は透明アクリルで、オリジナルのインクビューを兼ねた胴軸本体を製作します。

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先に取り出したジェイドグリーンの外筒を被せ、全体の雰囲気を確認します。一旦ここでピストンユニット一式を仮付けして、水の吸入・排出試験を行います。

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次に破損したオリジナルのカラーを再現するかたちで、染色します。染色液の色の配合が一度で上手くいくとは限らないので、この作業も時間を必要とします。透明アクリルの端材を使って、何度も染色します。それで納得のゆく色が出来て、最後に製作した胴軸を染色するのです。破損していたとはいえ、この万年筆は年式の割には非常に綺麗な状態でした。普通、インクと経年でこんな透明度の高い軸は滅多に出てきません。

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再び外筒を被せ、接着して一晩置きます。後はすべてのパーツを取付け、ペン先の調整を行ってようやく作業終了となります。

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実は昨春(2018年4月)の修理で、記録写真を撮ってそのままだった事をすっかり忘れていました。

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