万年筆製作日誌 Conway-Stewart の材料をつかって

コンウェイ・ステュワートの柄で、1本作って欲しい」というご依頼で製作しました。もちろん当工房でオリジナルの材料はないため、お客さんの方で入手して貰っての取り組みとなります。

入手を待って、後日10数センチのコンウェイオリジナルのアクリル材3本をお預かりしました。ご希望の万年筆を作るにはギリギリの量だったので、失敗した時の予備の材料もなく緊張しました。失敗すれば、また入手して頂くしかないですから。

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「出来るだけ太く作ってください」とのご依頼で、外形は材料と同じΦ20.5mmと、かなり巨大なペンに仕上がりました。最初から2個の金リングも希望されてましたが、たまたま材料と同じ外径の在庫があったのは本当に幸運でした。

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製作費の都合でペン先は在庫のスティール製を使いました。これほどのオーダー品なのに意外かも知れませんが、実用重視で特に金ペン先とかには拘りのない方でした。そのため、14K/18Kペン先付のお見積よりもかなり価格も抑えることが出来ました。

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下の艶がない材料は、切り落とした端材です。

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黒くて目立ちませんが、キャップトップとボトムの表面にそれぞれ転がり防止のストッパーを付けました。これは、元々クリップの上に来るクラウンを使いました。

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こちらが依頼主様が用意された図面です。イラストに近い黄色いクラウンも在庫にあるのですが、質感が少々安っぽく、全体のデザイン(実物)を損ねてしまうため、黒の物をお勧めしたいきさつがあります。長旅のお供用の万年筆で、無事出発に間に合いました。その後頂いた連絡で、毎日活躍中だそうです。

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万年筆製作日誌 革巻き用

ちょっとユニークな万年筆軸を受注・製作しました。個人のオーダーで、2本のご注文でした。ご自身で胴軸に革を巻くことを前提としたもので、胴軸表面の大部分は革の貼り付けスペースとしました。写真のように、約1mmの深さでえぐった形です。
上の軸がキャップを後ろに挿した(ネジ留め)状態、下の軸はキャップを閉じた状態。ほとんど違いが分かりませんが・・・。

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以下の写真は納品後にお客さんから送られて来たものです。余程嬉しかったのでしょう、様々なバリエーションを見せて下さいました。なお、すべて本番(接着)ではない仮付けだそうです。 ※すべてお客さんからの解説になります。

 

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色の濃い方が『浅桟革』という漆を塗った革。
白っぽいのはイタリアのアズーラ社の『アラスカ』

 

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『ブッテーロ(革)』

 

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ミネルバボックス(革)』

 

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ヒクイドリ(鳥革)』

 

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 『ブラジリアンローズウッド(ツキ板)』

 

どれも見た目だけでなく、手触りでガラリと印象が変わるのが楽しみの一つと仰ってました。また本番ではより厚みの調節を詰めたり、継ぎ目を目立たなくする作業に時間を費やされます。
当然私は張り合わせ後の実物に触れていない訳ですが、依頼主様の拘りがよく伝わり楽しくなって来ました。
なお、お客さんのご希望で実物は外径Φ15mmのシリンダー型で、長さをギリギリまで短くするため、コンバーターも入らない、カートリッジのみの仕様です。

 

 

 

 

 





 

モンブラン両用式 首軸修理② / Montblanc Classic & 221

以前にもモンブラン3桁シリーズの首軸破損の修理をご紹介しました。

モンブランのカートリッジ式 首軸修理 / Montblanc No 221 - 筆記具工房のブログ

 

今回は2本の修理例をご紹介します。

1本は前回と同様、コネクター部の製作。そしてもう1本はコネクターと首軸フードの両方が破損してしまったため、どちらも製作した例です。

 

クラシックという、正確には3桁シリーズの流れを汲む1980年代のモデルから。
首軸先端に数か所ひび割れがあり、またカートリッジ・コンバーターを接続し胴軸の開閉のためのネジがあるコネクターが真っ二つに破断していました。依頼者様のご希望で、フード部は接着補修ではなく、新たに作ることになりました。2本とも前回との主な違いは、コネクターを透明アクリルではなく、エボナイトを削って作ったことです。

外側からインクは見えなくなりますが、引き換えに強度は確実に上がります。

右側が製作したフードとコネクターです。

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白い窪みの部分に、ペン先とペン芯のユニットを装着します。

フードの形はかなり変わってしまいますが、オリジナルの成形品のような複雑な形には出来ないため、実用優先でこのようなデザインとしました。

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すべて取り付けて完成です。

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2本めはNo.221です。こちらもコレクターが真っ二つに割れてしまっていますが、フードは割れもなく問題ありませんでした。

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クラシックと同じく、コネクター側をエボナイトで削り出しました。

上の突起のある白いパーツは穿刺チューブです。これ1つでペン先ユニットを載せ、反対側はカートリッジ/コンバーターを取り付けます。これはABS材から作りました。

オリジナルはコネクターの中に組み込まれた一体型ですが、これも成型のようには出来ないため、このように2つに分けて作る必要があったのです。

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そしてコネクターと穿刺チューブを接着します。

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これで前述の2つの役目+フード(首軸)にネジ装着出来るので、機能する訳です。

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クランプリングと元のフードを取り付けて、完成しました。

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余談ですが、ほぼ同じ設計(デザイン)のモデルだから、効率良く2本まとめて作業出来ると思ったのですが、”読み”は外れました。つまり3桁シリーズとクラシック(後のジェネレーションを含む)では、見た目がよく似ていても形やネジの規格といったものが異なり、共通パーツはゼロでした。なお、ペン先&ペン芯のユニットは互換性がありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボールペン口金破損 / Montblanc Starwalker

ボールペンを落として、口金部分が分離破損してしまいました。
モンブランのスターウォーカー(メタルラバーライン)です。このモデルは特にここの部分が衝撃に弱いらしく、皆同じ壊れ方でたまに修理依頼があります。

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正確にはメタルの口金そのものが破損したのではなく、グリップと繋ぐ内部のネジ部分が折れて、折れた残骸がそのまま口金側に持っていかれてます。

修理はまず、口金に残ったネジ樹脂の残骸を完全に取り除くところから始めます。元々接着されていたので、口金内のネジを壊さずに綺麗に取り除くのが時間を要します。

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本体グリップ側。この先端に本来ある筈のネジがほとんど残っていません。

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ネジの残滓を残らず削り取った後、材料を埋め込むための穴を開けます。
開けた穴の内径は約Φ5.0mm。
そして外径5mmのエボナイト材を埋め込み、接着します。

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本来の長さを予想計測し、その長さに材料をカット、口金に収まるようネジを切りました。そして芯(リフィル)が出る穴も空けます。その際、反対側からももう少し太い径で途中まで穴開けを行います。リフィル先端が出るだけでなく、丁度良い位置で止まる”段”の役目の穴です。

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ネジが完成したら、先ほど残滓を削り取った口金を回して取付けます。

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リフィル、本体チューブを組み直します。そして普通通りに本体を回転させて芯が出たらOKです。この後一旦また外し、口金とネジを接着したら修理完了となります。

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同じスターウォーカーでも、現行モデルと今回の初~中期モデルは内部構造が違うのでしょか? メーカーからパーツ無しを理由に修理を断られたとのことです。従って、現行品の修理の場合はまずメーカーにご相談ください。

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万年筆製作日誌 / PILOT エリート E-300

1960年代の国産万年筆のボディ製作を依頼されました。どこも壊れている訳ではありませんが、「書き味、持ったバランスは申し分ありませんが、アルマイトの嵌合式キャップが如何にもチープです」という事でした。2本の製作依頼で、ベースとなる同じモデルのキャップカラー違いを2本お預かり致しました。

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より詳細なご希望は①オリジナルとほぼ同じ全長、キャップを後ろに挿した時も同じ ②材料はエボナイト ③クリップは出来れば2種類 ④上下フラットエンド
削りと仕上げ研磨が終わりました。胴軸の形、外径はオリジナルとほぼ同じなので、写真からは質感の違いが伝わりにくいかも知れません。一方、キャップはネジ式のように一回り太く、かなり安定した感じになりました。外径の比やバランスは、一般的なネジキャップの万年筆に似ています。

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下がオリジナルのまま、上は胴&キャップとも製作したボディを装着した物です。ご注文通り、後ろに挿した状態でオリジナルとほぼ同じ全長にしました。胴軸側面の削りを繰り返しながらで、この調節が結構難しいです。

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2本とも出来立てのボディを装着。ネジの開閉ではなく、板バネを取り付ける嵌合式の製作依頼はとても稀です。さて実際に握ってみると、滑らず軸が少し太くなった分、安定感はかなり向上した印象です。

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同じ軸を2本まとめての製作だったため、お値引きしました。

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キャップ装飾リング製作 / Montblanc L139

キャップの縁が欠けた大型アンティーク・セルロイド製万年筆の、外形復元修理をご紹介します。実は写真を撮る前に作業に取り掛かってしまい、ご依頼時の姿をお見せすることが出来ませんでした。したがって、下のような状態からのスタートです。言い換えれば、記事用か記録用以外、普段いちいち写真を撮ったりはしません。

キャップ縁が割れて一部欠損した状態から、一番下のリングを取り出すために削り取ります。その時の切削の衝撃で、残念ながら切れてしまいました。切れた細い銀製のリングは元から脆かった訳ではなく、ただでさえ経年で外径が広がり、指でくるくる回ってしまう程変形・金属疲労を起こしていました。

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参考までに同じ症状のキャップを。取り掛かる前の139は正にこんな感じでした。これは同じモンブランの124 という更に古いモデルです。もちろん、ご依頼の内容も同じです。

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削り取ったセルロイドの縁部分を作る前に、リングを同じサイズに製作します。銀がないので、お客さんに相談して別素材の真鍮で対応する事にしました。先ずは同じ内径に内側から切削加工、カットしました。念のため、予備も作ります。

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外形も変形する前の予想サイズに削ります。そしてオリジナルの銀に近付けるべく、ロジウムメッキをおこないました。

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非常に肉薄なため、取り扱いに注意しないと指でつまみ上げる際に、簡単につぶれてしまいます。

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樹脂を削って2つのパーツを作ります。①糊代を含めた縁部分全体 ②細い・太いリングの間に入る黒いリング
オリジナルはこうした分割パーツではなく、セルロイド単体のキャップチューブに溝加工して、3個のリングを嵌め込んでいたようです。

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縁を床に置いてますので、キャップを立てたのと同じ状態なのです。そこに製作したリング、中間のエボナイトリングを取り付けたら、縁パーツは完成。内側の段は、キャップ本体に接合する際の、糊代になります。

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縁表面の樹脂を磨いて、キャップチューブ本体に接着して修復作業は完了しました。
一番上の細いリングは、オリジナルの銀のままです。このようなコントラストだから、似た色のロジウムメッキを施す必要があったのです。
写真では省きますが、キャップ(縁)内側の切削微調整が大切です。外径だけ完成しても、この内径の最終加工を行わないと胴軸後ろに安定して挿さらない上、開閉の際に、胴軸のネジ下をすぐに傷付けてしまいます。折角作った縁を壊さないように内側から削る、最後の大仕事になります。

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ペリカン ペン先がグラついたら / PELIKAN 140, 400NN

アンティークのペリカン万年筆を入手されたばかりの方から、吸入の不具合と並んでよくご相談を受けるのが、ペン先のグラつき。ペン先とペン芯を固定する役目のソケットが取り付けられているのですが、 #120, 140, 400NNの後期型はここが割れていることがよくあります。#100時代からソケットも元々エボナイト製だったのですが、コストダウンからか前述のモデルは、途中~1960年代の製造中止までプレキシグラス製に切り替わりました。透明なこの素材は、ソケットのような付加の掛かる箇所には不向きで、割れやすい欠点があります。この状態ですと、例えば①筆記の際、すぐペン先が上下左右にずれてしまう、②ペン先とペン芯の間に大きく隙間が生じ、書きづらいどころかすぐインク切れを起こしてしまう、③ペン先とペン芯がやたら奥まで入ってしまう、反対にスポッと簡単に抜けてしまう等です。
※傷口を見えやすくするため、芯棒で広げたところ #140のユニットです。

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当工房ではソケットをオリジナルと同じ形にエボナイトで制作・取り付けることで対処しています。下の3個が制作した分。
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ちょっと難しいのは、最後の内径調整です。ペン先とペン芯を、オリジナルと同じぐらいの抵抗感を感じる加減でキリという刃物で削ります。まだ硬い分にはやり直せばいいのですが、ちょっとでも緩くしてしまったらアウト。丁度良い抵抗感になったところで、セッティングして胴軸に取付けて完了です。

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こちらは400NN。

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海外の販売サイトでも交換用パーツとして非純正品が売られていますが、素材はプラスティックです。大概1個からのパーツ販売なので、送料を除いた単価は弊所より安いです。ただ弊所は修理扱いとして取付け・調整まで行って基本料金内で収めております。アンティーク吸入式のペリカンで、ペン先グラつきの違和感を感じたら、首軸を真上から覗いて見て下さい。ペン先外側のソケット壁のクラック有無で簡単に分かります。