キャップネジ受け部の修復 / Delta Parthenope Old Napoli, DOLCEVITA Mini

胴軸の外ネジ(雄ネジ)が一部欠けた万年筆をお直ししました。今回2本とも”とば口”が同じ破損状態のデルタを採り上げました。
1本目はオールドナポリ
首軸を閉めた時に底面が接するネジの上が、水平状に一部欠損してしまっています。

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樹脂材を継足し、ネジ切りする方法が最も丈夫かつ確実なのでそれを実行します。
メタルの内軸に樹脂が接着されているので、元のネジ部全体を外側から削り取ります。

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継足し用の材料を削り、ネジを切ります。

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新たに継ぎ足すネジ部が完成したら、先ほど一部を削り取った胴軸に接着で取り付けます。

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接着乾燥後、表面を磨いて完成しました。

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2本目はかなり小柄なドルチェヴィータ・ミニです。前述のように、オールドナポリと同じ(破損)状態でした。

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元の破損部分を削り取ります。

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新しい材料にネジ切りをして、胴軸に接着・研磨を行い完了。

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見た目は全く同じ修理に見えますが、ボディサイズがやや異なり、ネジの規格も違います。従って、使うネジ切り工具であるクシガマも別の物を使いました。
(かなりマニアックな)余談ですが、オールドナポリの方は万年筆には一般的なピッチの0.7(mm)でしたが、こちらのドルチェヴィータ・ミニは0.5(mm)+3条ネジ!

オーナー様にとってこのような破損は悲劇でしょうが、破損個所がこちらでも何とかなる黒の樹脂だったのが幸いでした。

※依頼者様は各々別の方です。

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ソケット製作その2 / KAWECO Sport , OMAS

以前もご紹介しましたペン先とペン芯を固定するソケット。
主にピストン式の万年筆に採用されているパーツで、今回は2例を採り上げます。

 

①カヴェコ・スポーツの限定品

ソケット破損というより、紛失の状態でお預かりしました。困ったことに、破損したオリジナルパーツがない=想像で作るしかありません。

写真のように、ばらばらな状態で送られて来ました。

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胴軸内ネジのピッチ(規格)を確認し、内径、高さを決めて製作に入ります。ペン先&ペン芯に出来上がったソケットを差し込み、胴軸に仮付けして見ます。この際、ソケットの端面が首軸の端面より少し下がった位置でネジが閉め終わること、そしてペン先が首軸より何処まで顔を出した状態で収まるかも、長年の経験で決めます。

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ネジの締り具合、ペン先&ペン芯の差し込み具合(適度な保持力)、握って筆記する際にペン先が紙面に当たる位置等が上手くバランスされていることを確認出来たら、完成です。

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②オマス  パラゴン

こちらはソケットが割れたため、ペン先とペン芯がぐらついて固定出来ません。
破損したオリジナルパーツがあるとはいえ、痩せも著しく首軸に取り付けようとしても全く安定しない状態でした。またインク汚れにも見える青い変色は、洗浄しても一向に落ちませんでした。この樹脂素材が知りたいところです。

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痩せた分、外径を少し太めに削って作ります。なお、オマスのソケットのネジはかなり細かく、前述のカヴェコやペリカンとはネジのピッチが異なります。

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出来ました。右がクラック有のオリジナル。底部もぼろぼろ。よく見ると、ネジ山も何か所か崩れています。

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しっかり固定出来たら完成です。

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カートリッジ式のインク漏れ / PLATINUM 旧#3776バランス(エボナイトペン芯)

首軸周りからインクが漏れて手が汚れる、という修理のご相談を頂きました。
プラチナ#3776 の旧型で、ペン芯はエボナイト製。年式的にメーカー対応可能な筈です。しかしお客さんが問い合わせたところ、修理可能だけどペン芯も交換が必要で後年のプラスティック芯に替えなければならないそうです。依頼主様はどうしてもオリジナルのエボナイトペン芯のまま使いたいとのことで、弊所へ依頼されました。ここ同じ形状のペン先でも、ペン芯の違いでコネクターも別パーツになるのですね。

 

分解してみて、インク漏れの原因がすぐ分かりました。首軸内部でペン先とペン芯を固定するコネクターにひび割れが数か所ありました。このクラックから漏れたインクが首軸内壁を伝って、装飾リングから外側に出ていたことになります。当然、この辺りを握って書く訳ですから指はインクで汚れます。分解して取り外したら、元々数か所のクラックで崩壊寸前だったので、真っ二つに分断してしまいました。依頼された時点で既に限界だったのです。

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破断したコネクターの寸法を測り、エボナイトで同じ物を作りました。

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シーリング材を塗り、パーツをすべて元通り組み合わせて作業は完了。

後は洗浄してインクを入れ、数日置いてインクが滲出しないかをチェックします。組み立ててしまえば、どこをどう直したかパッと見には分かりません。強いて言えば首軸端面、装飾リングの内側の見えている部分がオリジナルのプラスティックからエボナイトに変わっている点ぐらいです。少なくとも、エボナイトで作ったので内部はオリジナルより丈夫に生まれ変わったことになります。

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紛失した首軸作り / DELTA DOLCEVITA

どのようないきさつか分かりませんが、首軸パーツのみを紛失してしまったという万年筆の首軸製作のご依頼を頂きました。ドルチェヴィータのミディアムです。幸い、ペン先とペン芯はお持ちで一緒にお預かりしました。デルタは近年廃業してしまったメーカーで、日本の代理店もすべてのパーツ供給の停止を余儀なくされたそうです。

例え破損していても、元のパーツがあればそれを見本に作るのが普通ですが、前述の通り今回は想像で作らなければなりません。

元のパーツがないとどこまで忠実に出来るか分かりませんとお伝えしましたところ、「形になって実用できれば何でもかまいません」との事でした。

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当時のカタログがあるので、写真で大体の形は分かります。もう一つ問題が。それは実際の長さ=首寸が写真からは正確には分からないという点です。通常ネジ式のキャップは閉める際、首軸の端面とキャップ内部の段(インナーキャップ等)が当たりストッパーとなります。ゼロから首軸を作る場合、首寸が短いとキャップを回す動作が長くなり、反対に長過ぎると今度は回す時間が短くなりキャップが自然に外れてしまう恐れがあります。つまり不安定に・・・。ところが幸いにも、丁度別の修理依頼で同じデルタの一回り細い万年筆が届きました。首軸のサイズもやはり一回り細いですが、形はほぼ同じようです。そして首軸を仮に取り付けると、キャップの閉まり具合がピッタリでした。つまりこの細軸も、今回の首軸無しのミディアムと首軸の長さは同じなのは間違いありません。ということでこれを実物見本に、製作に取り掛かります。

写真は首穴を空け、胴軸との接続ネジを切り終えたもの。

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このまま一旦胴軸を閉めて、ネジの締り具合を確認します。

きつければ、もう少しネジを切り直します。

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最後に、見本通りの形に削ってくびれを再現し、切削作業は完了しました。

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耐水ペーパー、バフ掛け、水洗いをしてようやく完成。

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ペン先・ペン芯を取付け、インクで筆記して調整。ようやく完了となります。

エボナイトで作ったため、厳密には首軸だけ他と材料が異なります。

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万年筆製作日誌 Conway-Stewart の材料をつかって

コンウェイ・ステュワートの柄で、1本作って欲しい」というご依頼で製作しました。もちろん当工房でオリジナルの材料はないため、お客さんの方で入手して貰っての取り組みとなります。

入手を待って、後日10数センチのコンウェイオリジナルのアクリル材3本をお預かりしました。ご希望の万年筆を作るにはギリギリの量だったので、失敗した時の予備の材料もなく緊張しました。失敗すれば、また入手して頂くしかないですから。

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「出来るだけ太く作ってください」とのご依頼で、外形は材料と同じΦ20.5mmと、かなり巨大なペンに仕上がりました。最初から2個の金リングも希望されてましたが、たまたま材料と同じ外径の在庫があったのは本当に幸運でした。

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製作費の都合でペン先は在庫のスティール製を使いました。これほどのオーダー品なのに意外かも知れませんが、実用重視で特に金ペン先とかには拘りのない方でした。そのため、14K/18Kペン先付のお見積よりもかなり価格も抑えることが出来ました。

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下の艶がない材料は、切り落とした端材です。

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黒くて目立ちませんが、キャップトップとボトムの表面にそれぞれ転がり防止のストッパーを付けました。これは、元々クリップの上に来るクラウンを使いました。

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こちらが依頼主様が用意された図面です。イラストに近い黄色いクラウンも在庫にあるのですが、質感が少々安っぽく、全体のデザイン(実物)を損ねてしまうため、黒の物をお勧めしたいきさつがあります。長旅のお供用の万年筆で、無事出発に間に合いました。その後頂いた連絡で、毎日活躍中だそうです。

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万年筆製作日誌 革巻き用

ちょっとユニークな万年筆軸を受注・製作しました。個人のオーダーで、2本のご注文でした。ご自身で胴軸に革を巻くことを前提としたもので、胴軸表面の大部分は革の貼り付けスペースとしました。写真のように、約1mmの深さでえぐった形です。
上の軸がキャップを後ろに挿した(ネジ留め)状態、下の軸はキャップを閉じた状態。ほとんど違いが分かりませんが・・・。

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以下の写真は納品後にお客さんから送られて来たものです。余程嬉しかったのでしょう、様々なバリエーションを見せて下さいました。なお、すべて本番(接着)ではない仮付けだそうです。 ※すべてお客さんからの解説になります。

 

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色の濃い方が『浅桟革』という漆を塗った革。
白っぽいのはイタリアのアズーラ社の『アラスカ』

 

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『ブッテーロ(革)』

 

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ミネルバボックス(革)』

 

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ヒクイドリ(鳥革)』

 

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 『ブラジリアンローズウッド(ツキ板)』

 

どれも見た目だけでなく、手触りでガラリと印象が変わるのが楽しみの一つと仰ってました。また本番ではより厚みの調節を詰めたり、継ぎ目を目立たなくする作業に時間を費やされます。
当然私は張り合わせ後の実物に触れていない訳ですが、依頼主様の拘りがよく伝わり楽しくなって来ました。
なお、お客さんのご希望で実物は外径Φ15mmのシリンダー型で、長さをギリギリまで短くするため、コンバーターも入らない、カートリッジのみの仕様です。

 

 

 

 

 





 

モンブラン両用式 首軸修理② / Montblanc Classic & 221

以前にもモンブラン3桁シリーズの首軸破損の修理をご紹介しました。

モンブランのカートリッジ式 首軸修理 / Montblanc No 221 - 筆記具工房のブログ

 

今回は2本の修理例をご紹介します。

1本は前回と同様、コネクター部の製作。そしてもう1本はコネクターと首軸フードの両方が破損してしまったため、どちらも製作した例です。

 

クラシックという、正確には3桁シリーズの流れを汲む1980年代のモデルから。
首軸先端に数か所ひび割れがあり、またカートリッジ・コンバーターを接続し胴軸の開閉のためのネジがあるコネクターが真っ二つに破断していました。依頼者様のご希望で、フード部は接着補修ではなく、新たに作ることになりました。2本とも前回との主な違いは、コネクターを透明アクリルではなく、エボナイトを削って作ったことです。

外側からインクは見えなくなりますが、引き換えに強度は確実に上がります。

右側が製作したフードとコネクターです。

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白い窪みの部分に、ペン先とペン芯のユニットを装着します。

フードの形はかなり変わってしまいますが、オリジナルの成形品のような複雑な形には出来ないため、実用優先でこのようなデザインとしました。

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すべて取り付けて完成です。

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2本めはNo.221です。こちらもコレクターが真っ二つに割れてしまっていますが、フードは割れもなく問題ありませんでした。

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クラシックと同じく、コネクター側をエボナイトで削り出しました。

上の突起のある白いパーツは穿刺チューブです。これ1つでペン先ユニットを載せ、反対側はカートリッジ/コンバーターを取り付けます。これはABS材から作りました。

オリジナルはコネクターの中に組み込まれた一体型ですが、これも成型のようには出来ないため、このように2つに分けて作る必要があったのです。

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そしてコネクターと穿刺チューブを接着します。

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これで前述の2つの役目+フード(首軸)にネジ装着出来るので、機能する訳です。

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クランプリングと元のフードを取り付けて、完成しました。

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余談ですが、ほぼ同じ設計(デザイン)のモデルだから、効率良く2本まとめて作業出来ると思ったのですが、”読み”は外れました。つまり3桁シリーズとクラシック(後のジェネレーションを含む)では、見た目がよく似ていても形やネジの規格といったものが異なり、共通パーツはゼロでした。なお、ペン先&ペン芯のユニットは互換性がありました。