胴軸の一部継足し修理 / PELIKAN M640 Polar Lights

ペリカン万年筆の割と近年のモデルをお直ししました。メタルの胴軸内側=樹脂製インナーバレルが水平亀裂により、分離破損していました。ピストン吸入機構が分離した方の軸にネジ留めされているため、すべて一緒に外れてしまっていました。

ある日インクを吸わせようとしたら尻軸が空回りして、そのまま(写真のような状態で)ピストンごと外れてしまい、使えなくなってしまったそうです。

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本体から分離しただけでなく、縦にもクラックがありました。

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加工作業前の胴軸をボトム側から覗く。

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まず胴軸本体側から加工します。破断面を綺麗に面取りするためです。万年筆ろくろ用のミツバネという刃物を使います。エンドミルのように、切削面を平らに仕上げるためです。

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削って出て来たスクラップ。

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破断面を綺麗に整えました。これから作る継足し部分と安定して接着するためです。

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胴軸下部の継足し部分を削って作ります。材料となる透明樹脂はクラックの起こりにくい特殊な物です。※非石油系

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必要な長さに切断、ネジ切りを行いました。因みに左ネジという、これまたペリカン独自の特殊な規格でした。
左は破損したオリジナル。

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接着・接合しました。当然、破損する前はこのような状態だったことになりますね。

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ピストン吸入機構を組み直して、修理が完了しました。この限定品M640 『ポーラー・ライト』はドイツ本国にも今回の必要パーツがもうないらしく、お客様によると日本の代理店で受けられなかったとのことです。

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割れたボールペンのボディ / DELTA Marina Piccola

デルタのマリナ ピッコラのボールペン。
床に落としてボディの先端が割れたしまった物で、分離した破片も紛失してしまいました。

メーカーがないため、輸入代理店でも修理は受け付けられなかったそうです。

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残念ながらこれに近い色の材料はありませんでしたが、依頼主様は工房に持ち込まれた際にダークブルーのアクリル材を選ばれました。結果その材料を削って接合し、お直しすることが出来ました。なお、オリジナルも同じアクリル材です。

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ピストン吸入式 ~すっぽ抜ける!?~ / PELIKAN 101N Tortoise Shell

「旧式ペリカンの吸入が上手く出来ない」という修理のご依頼を受けました。パッキンの収縮等でインクを十分に吸入しない、或いは機構の不具合で回転ノブが回らない・・・等々大体予想はつきます。ペリカンの1940年代のNo.101N トータス・シェル・ブラウンです。

さて届いた万年筆を点検すると、予想とは全く違う状態でした。パッキンの収縮+変形で吸入能力を失っているのに加え、ピストンを吸入位置まで上げようとする(排出位置)と、回転が止まらずそのままノブが螺旋棒ごと抜けてしまいました。ノブ受けの雄ネジが半分近くも欠損してしまっていました。当然ノブが噛み合う箇所は僅かで、とても吸入動作に必要な分を支えられません。

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そこで欠けたネジをそっくりそのまま作って接合することにしました。お客さんには、再生する箇所のみ色が黒になることを了承頂きました。

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破損個所をすべて切り落とします。そして接合するのりしろ箇所を5mm弱削って窪みの段を設けます。

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オリジナルパーツとは別に、接合する部分を作ります。ピストンガイドがスムーズに通るだけの内径を空け、ネジを切ります。

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ノブを被せてスムーズにネジで開閉出来る事を確認したら接合し、接着が乾くまで一旦放置します。その間、収縮したパッキンを作りました。

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翌日、新たに作ったパッキンを装着し、すべてのパーツを組み直して作業は終了。吸入・排出を行う際、ノブががっちり安定していることを確認して修理完了です。

写真はノブを排出の回転が止まる位置まで開き切った状態です。

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ウォーターマンCF用コンバーター① 修理編 / WATERMAN CF Converter

今回はコンバーターの修理をご紹介します。コンバーターも消耗品と言えるので、修理して使えるようにする機会(ご依頼)はとても稀です。しかし今回のウォーターマンCF用のように、現在入手出来ないとか、廃盤規格の場合は修理して使えるようにせざるを得ません。CFとはウォーターマンの1980年代以前のカートリッジ/コンバーターの規格で、まず80年代にコンバーターの製造販売が終了、CFカートリッジも90年代末にカタログから消えました。因みにオリジナルのコンバーターを中古等で入手出来たとしても、ゴムサックの中押し式のため、残念ながらほとんどは経年により使えません。

 

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これでもすべて新品(デッドストック)

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取付け口(コネクタ)、サック、プレスバーを取り外しました。

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上のように綺麗に取り外せなかった例。取付け口を壊してでも分解します。どの道、無傷でもこのコネクタは使わないため問題ありません。ここはメタルの枠をゴムで覆う形で作られています。

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こちらは樹脂で新調したコネクタ。実は全く同じ寸法ではなく、サック取付け箇所はやや細めに削って作りました。オリジナルと同じ外径にすると、サックを取付け後、コンバーター本体に収まらないのです。

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腐らないシリコン製のサックを装着!

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サックの接着剤が乾燥したら、万年筆に取り付けて完了です。このCFのショートサイズのコンバーターで約0.5cc吸入しました。今日の一般的なヨーロッパタイプの8割程度になるのでしょうか。

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こちらはCFの中~大型万年筆用のコンバーター。こちらも同様にシリコンサックに交換しました。 ※モデルはジェントルマンのMKⅠ。

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中型サイズのコンバーターを同じように修理して使えるようにします。

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取り外したコネクタ。万年筆側の穿刺チューブに挿してもスカスカで安定しないため、こちらも同じ形に作る必要があります。

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サックをカットして仮付け。まだ接着剤は塗布していません。

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水で吸入量を確認します。

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工房在庫の物を含め、数本まとめて直しました。

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CF規格の万年筆をお持ちでお困りの方、又は今後入手予定の方は当工房へご相談ください。メタルのボディ、プレスバーのパーツが無事であれば十分直して使えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレスコープ式尾栓の製作 / Montblanc MEISTERSTÜCK 136

テレスコープ吸入機構を持つ、モンブラン136の尾栓製作のご依頼です。
尾栓が完全に欠損した状態でのお預かりでした。

(通常では外れない)尾栓が無いため、写真のように尾栓を留めるネジが完全に露出した状態になっています。ここはまず見る事が出来ません。

またこの尾栓と本体を繋ぐネジが左ネジ(=逆ネジ)であることにより、二段伸縮のテレスコープの凝った動作を可能としています。

修理の要は特殊な左ネジを切り、テレスコープの空回り、所謂”遊び”のストロークを丁度良い位置で止まるよう計算しながら削り込む、やや難しい作業をこなせるかです。

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尾栓の内部の削りが終わり、仮締めを行いました。

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エンドの傘型部分を設け、本来あった縦縞のローレット装飾を入れました。オリジナルより若干ピッチは粗いですが、少しでも雰囲気を再現すべく設けました。欠損したオリジナルも尾栓のみエボナイトだった可能性が高く、刃物傷除去の中(ちゅう)仕上げに留め、敢えて艶出し研磨は行いませんでした。

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この開いた位置で、ピストンシールの頭が胴軸内の頂点に当たります。

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納品後、依頼主様から以下の写真を頂きました。

対になる同じデザインのクリップを持つペンシルと並べた一枚が、良く似合います。

お客さんのご依頼は、あくまで使えるようになればOKという内容でした。しかし、外形も出来る限りオリジナルに近付けられたのは、たまたま以前修理でお預かりしたNo.136の寸法図面を作っておいたからです。確かその時はキャップを作るご依頼だったかと記憶しています。

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キャップネジ受け部の修復 / Delta Parthenope Old Napoli, DOLCEVITA Mini

胴軸の外ネジ(雄ネジ)が一部欠けた万年筆をお直ししました。今回2本とも”とば口”が同じ破損状態のデルタを採り上げました。
1本目はオールドナポリ
首軸を閉めた時に底面が接するネジの上が、水平状に一部欠損してしまっています。

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樹脂材を継足し、ネジ切りする方法が最も丈夫かつ確実なのでそれを実行します。
メタルの内軸に樹脂が接着されているので、元のネジ部全体を外側から削り取ります。

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継足し用の材料を削り、ネジを切ります。

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新たに継ぎ足すネジ部が完成したら、先ほど一部を削り取った胴軸に接着で取り付けます。

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接着乾燥後、表面を磨いて完成しました。

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2本目はかなり小柄なドルチェヴィータ・ミニです。前述のように、オールドナポリと同じ(破損)状態でした。

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元の破損部分を削り取ります。

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新しい材料にネジ切りをして、胴軸に接着・研磨を行い完了。

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見た目は全く同じ修理に見えますが、ボディサイズがやや異なり、ネジの規格も違います。従って、使うネジ切り工具であるクシガマも別の物を使いました。
(かなりマニアックな)余談ですが、オールドナポリの方は万年筆には一般的なピッチの0.7(mm)でしたが、こちらのドルチェヴィータ・ミニは0.5(mm)+3条ネジ!

オーナー様にとってこのような破損は悲劇でしょうが、破損個所がこちらでも何とかなる黒の樹脂だったのが幸いでした。

※依頼者様は各々別の方です。

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ソケット製作その2 / KAWECO Sport , OMAS

以前もご紹介しましたペン先とペン芯を固定するソケット。
主にピストン式の万年筆に採用されているパーツで、今回は2例を採り上げます。

 

①カヴェコ・スポーツの限定品

ソケット破損というより、紛失の状態でお預かりしました。困ったことに、破損したオリジナルパーツがない=想像で作るしかありません。

写真のように、ばらばらな状態で送られて来ました。

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胴軸内ネジのピッチ(規格)を確認し、内径、高さを決めて製作に入ります。ペン先&ペン芯に出来上がったソケットを差し込み、胴軸に仮付けして見ます。この際、ソケットの端面が首軸の端面より少し下がった位置でネジが閉め終わること、そしてペン先が首軸より何処まで顔を出した状態で収まるかも、長年の経験で決めます。

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ネジの締り具合、ペン先&ペン芯の差し込み具合(適度な保持力)、握って筆記する際にペン先が紙面に当たる位置等が上手くバランスされていることを確認出来たら、完成です。

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②オマス  パラゴン

こちらはソケットが割れたため、ペン先とペン芯がぐらついて固定出来ません。
破損したオリジナルパーツがあるとはいえ、痩せも著しく首軸に取り付けようとしても全く安定しない状態でした。またインク汚れにも見える青い変色は、洗浄しても一向に落ちませんでした。この樹脂素材が知りたいところです。

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痩せた分、外径を少し太めに削って作ります。なお、オマスのソケットのネジはかなり細かく、前述のカヴェコやペリカンとはネジのピッチが異なります。

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出来ました。右がクラック有のオリジナル。底部もぼろぼろ。よく見ると、ネジ山も何か所か崩れています。

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しっかり固定出来たら完成です。

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