エス・テー・デュポン クラシックの万年筆はたまに修理依頼が来ます。デュポンのクラシックは世代違いで2タイプあり、今回採り上げたのはいずれも1970~80年代のファースト・エディションです。
症状は明快、経年で樹脂の首軸に大きな亀裂が出来やすいこと。一般的にカートリッジ(両用)式の万年筆の首軸は、①ペン先とペン芯を固定し、カートリッジ/コンバーターに繋ぐソケットが間に入る二重構造、②ソケットがなくペン先とペン芯を直に首軸に装着する単体構造の2種類があります。
今回のクラシックは②にあたる単体構造ゆえ、一旦クラックが発生するとペン芯に貯蔵されたインクがそのまま表面に滲み出て、指やキャップ内部を汚してしまいます。
またこのクラシックの首軸は非常に薄く、過去接着を試みたものの、ペン先とペン芯を差し込むとすぐ傷口が開いて元通りになってしまいました。結論、首軸をすべてオリジナルと同じ形に作るしかありません。
轆轤での切削はとりあえずここまで。上が製作途中の物で、この時点で首穴は水平にカットされたままです。下は破損したオリジナルの首軸。
外形削りの最後に、ペン芯裏側の形状に沿ってグラインダーで削って”縁”を設けます。削り過ぎないよう、少し削ってはペン芯を入れて具合を見て、ピッタリになるまで何度かこれを繰り返します。ちょっとでも削り過ぎると一発でアウトなので、この作業は轆轤より緊張します。
難しい首軸の形状が終わったら、”内部”パーツを別に作り、取り付けます。この小さなパーツは穿刺チューブといい、ペン芯の真下に設置、そのままカートリッジやコンバーターを差し込む口(連結)になります。オリジナルは首軸と一体成型で作られていますが、棒材からの切削だと一体物では出来ないため、熟慮の末このように分けて作る方法としました。
ところで穿刺チューブを作りにあたり、差し込み口の外形(パイプ状)も変更してしまいます。このクラシックのI型はペリカンの旧規格のカートリッジ、コンバーター用に作られているため、厳密には現行のヨーロッパタイプには合いません。当時のデュポンオリジナルのコンバーター(ペリカン再初期型と同じ)がない場合、こちらの方がチューブ外径が細いため、現行を取り付けても緩くて簡単に外れるかインク漏れを起こしてしまいがちです。
見えにくいかも知れませんが、ツバ外周は細ネジを切りました。先に首軸内部に切って置いたネジに接着して取り付けます。
首軸を作るついでに、入手可能な現行ヨーロッパ規格にしてしまうことにより、一石二鳥にしてしまおう! という訳です。
出来上がった首軸にペン先とペン芯を装着して、修理完了となります。
正面から。
余談ですが、前述のカートリッジ式にソケットを使うか否かはデザインやコストと言った様々な事情がありますが、ソケットを持つ二重構造は少なくとも内径にある程度のスペースが要求されます。デュポンのクラシックは非常にスリムなデザインゆえ、設計上一体構造にするしかなかったようです。