今回はメーカー不詳の多面体(正八面体)軸の万年筆をお直ししました。恐らく1940~50年代のドイツ製と思われます。元はインクビューを持つ回転吸入式の万年筆ですが、胴軸の外ネジを僅かに残した部分でポッキリ折れてしまっています。お客さんによると、久しぶりに使おうとキャップを開けたら、こうなってしまったそうです。
結論としましては、今回は胴内軸&キャップ内軸の製作、そして吸入機構のパッキン交換修理という多岐に渡るものでした。
ペン先を含む折れた首軸がそっくりキャップ内部に持ってかれた状態です。胴軸外ネジとキャップ内のネジが噛み合ったまま折れたので、真っすぐ引っこ抜く訳にもゆかず、取り出せません。回して外そうにも、破断面からはしっかり”掴む”スペースもなく、どうしたものかしばらく思案に暮れました。この状態では元のペン先も見えず、ましてや首軸の形や寸法も把握出来ません。
一計を案じて辛うじて残った首軸底穴を利用しることにしました。つまり円柱状の樹脂から治具を削って作り、丸穴内面にきっちり合わせて固定し、後は回して外すやり方です。
取れました!
取外しに40分近くかかりました。この外ネジは元々胴軸の一部です。ネジを上手く削り取れば、首軸は無事で流用可能ということになります。
吸入機構を取外し、破損したセルロイド製の(内)胴軸を出来るだけ綺麗に洗浄します。もちろんこれはもう使えませんが、これから作る胴軸を最後に染色する際、オリジナルの色を把握するためです。うっすら見える何本かの湾曲線は、ひび割れによるもの。
昔の接着剤があまり強力でなかったことも手伝って、綺麗に取り外せました。オリジナルに近いセルロース系の透明樹脂を削ってネジ切りも行い、破損する前の寸法に作りました。
吸入機構の半製作とパッキン交換の内容は省きましたが、内径も実際に新しいパッキンを付けて、水の吸入・排出の動作確認済です。首軸・胴軸・外筒を仮取付けしてネジの締りや圧入具合の最終チェック。
次にキャップの修理に入ります。元のキャップ内軸のネジ切り直しをしても、作った胴軸にはきつくてなかなか噛み合いませんでした。ここで初めて破損の原因が分かりました。問題は折れた胴軸よりも、キャップ内の樹脂が極端に痩せたことです。内径が異常に狭まったことにより、胴軸外ネジに異常な負荷が掛かかります。結果、キャップを回して外す際に、胴軸側のセルロイドが耐えられず崩壊したと確信します。なお、オリジナルの材料はセルでもエボでもない樹脂でした。
キャップ縁の欠損もありますし、内部をすべて削り取って新たに作ってしまいます。
キャップ内軸が出来上がり、やはり先に作った胴軸とのネジ合わせを行います。
胴、キャップの内部をすべて削り取った状態で記念撮影(笑)
キャップの内軸を外筒と接着し、クリップと天ビスも取り付けてキャップ本体の修理が終わりました。
最後に胴軸を染色し、ペン先とペン芯を取り付けて修理はすべて完了しました。
依頼されたのは冗談好きなお得意様で、「メディチ(モンブラン)のプロトタイプだから是非とも直して使いたい」と仰ってました。