エンドビスの紛失で・・・・・・。 / Sailor 旧銘木万年筆

セーラーの(旧)銘木シリーズの万年筆で、胴軸のエンドビスが紛失してしまっています。メーカー側のパーツ在庫終了とのことで、ご相談を受けました。胴軸ボトムの本来ある筈のエンド部がありません。

f:id:hikkigukobo:20220217230629j:plain

 

胴軸の底から: エンド部がないとポッカリと開いた穴がむき出しに・・・・・・。

f:id:hikkigukobo:20220217232343j:plain

 

これは単に見栄えの問題ではなく、インナー軸と胴軸を中で固定する重要なパーツなため、このままではペンとして使うことが出来ません。実は私もこの状態を目にしたことは過去にもありまして、実際インク交換で首軸を外す際に、ビスとナットが緩んでやはり同じように外れてしまいました。きっと同じ経験をされた(持ち主の)方も少なくないと思います。

f:id:hikkigukobo:20220217232637j:plain

 

ここは接着で済ませる訳にもゆかず、(パーツがない以上)同じパーツを作って対応するしかありません。同じモデルから取り外したエンドビスを見本に、製作作業に取り掛かります。写真左はオリジナル、右は真鍮材から削り出した、途中の物。ヘッドがまだ少し厚く、側面にテーパーを設けていません。

f:id:hikkigukobo:20220217233836j:plain

 

仕上げを残してほぼ出来上がりました。 ※左の1個だけがオリジナルの見本

一見なんてことのないビスに見えますが、難しいのはネジ脚元の窪み。木の胴軸ボトムの、一段出た端面が収まるスペースです。旋盤では難しくないのかも知れませんが、手に切削刃物を持って削る轆轤ではやや無茶な作業でした。

ナットも作りました。いえ、正確にはこれも作るしかありませんでした💦 このネジに合う六角ナットはホームセンターで手に入ったのですが、問題は外径! 若干太いため、インナー軸に入れると途中で閊えてしまい、外から差し込んだエンドビスのネジ脚まで届かないのです。では届くようにネジ脚をもう少し長く作れば? そうすると今度はコンバーターが奥まで入らなくなってしまいます。オリジナルのビス&ナットが付いた正常な状態でも、中のコンバーターとナットとの距離は僅か1mmしかありません。因みにこのナットのサイズはΦ5.0, h=1.7mm。

f:id:hikkigukobo:20220217233957j:plain

 

表面に金メッキを施して、ビスが出来上がりました(左の2個)。

f:id:hikkigukobo:20220217233910j:plain

 

作ったエンドビス、ナットで胴軸とインナー軸を再び固定でき、本来の外観になりました。もちろん、首軸にコンバーターを付けて収まることは確認済です。

f:id:hikkigukobo:20220218000044j:plain

 

パーツ製作見本用の同モデル(黒檀)と。

f:id:hikkigukobo:20220218000143j:plain

f:id:hikkigukobo:20220218000246j:plain

f:id:hikkigukobo:20220218000305j:plain

 

 

 

 

全セルロースで胴軸を製作 / Montblanc L139G

モンブラン L139Gの胴軸の製作を依頼されました。キャップ&本体ともセルロイド製です。お預かりの点検の際、年式の割には胴軸の状態が良かったので、何故最初から製作を希望されるのかちょっと不思議でした。もちろん、破損していなくてもご依頼自体は自由ですが。

f:id:hikkigukobo:20220129234706j:plain

 

吸入ユニットと胴軸の連結部。表側からも胴軸の一部が、僅かに退色しているのが見えます。

f:id:hikkigukobo:20220130002158j:plain

 

テレスコープユニットを後ろから取り外した胴軸。写真では分かりづらいですが、小さなクラックが縦に無数ありました。これらのクラックが修理依頼の理由と納得。

f:id:hikkigukobo:20220130001542j:plain

 

胴軸の製作に入ります。でもその前に、オリジナルのインクビューの色を把握する必要があります。長年のインク滓等の付着により、インクビューはほぼ真っ黒。まずは内面を研磨して洗浄、それでも滓は落ちません。已む無く少し削り、ようやく元の色が浮かび上がって確認することができました。これでも新品当時の色はより明るい感じだった筈で、そこも考慮に入れます。実物は赤でも赤茶でもなく、紅茶に近い色でした。

f:id:hikkigukobo:20220130001600j:plain

 

素材的にオリジナルに近い透明、黒の各セルロース樹脂を削って作ります。仮装着の首軸はオリジナル。

f:id:hikkigukobo:20220130001620j:plain

 

表裏を磨き、ピストンシール交換を終えた吸入ユニットを取り付けて吸入・排出の試験を行います。

f:id:hikkigukobo:20220130001632j:plain

 

一旦インクビューの透明部分だけを取外し、染色を行います。上のネジ部分も今度は黒く染色して、ようやく胴軸が完成しました。この辺りややこしいので整理しますと、インクビューの下が元からの黒いセルロース、上の外ネジは黒く染色した部分になります。※下は破損したオリジナルの胴軸

f:id:hikkigukobo:20220130001655j:plain

 

後は染色したセルロース樹脂の膨張が収縮するまで、(乾燥のため)丸一日置きます。首軸、吸入ユニットのすべてのパーツを取り付けて、修理が完了しました。

f:id:hikkigukobo:20220130001715j:plain

 

特にテレスコープ吸入部の外枠&尾栓と合わせて、作った胴軸が同化して見えるのが黒セルロースの特徴です。

f:id:hikkigukobo:20220130001741j:plain

 

以前はインクビューに透明アクリル+染色、それ以外をエボナイトで作っていました。その後ひび割れ等の諸事情でアクリルを廃止、透明セルロース&染色+エボナイトに切り替えました。機能的にはそれで対応出来ていた訳ですが、すべてセルロース材にすることで、よりオリジナルの雰囲気を活かした修理対応に辿り着けました。見た目だけではなく、実際に手で触れても、素材の持つ保湿性も手伝ってオリジナルとほぼ同じ質感も再現できました。

f:id:hikkigukobo:20220130001754j:plain









 

 

 

繰り出し式ペンシル修理② / PARKER DUOFOLD Centennial

ノブを回転させても芯が出ない状態のペンシルをお直ししました。パーカー・デュオフォールド(復刻)の発売初期にあった0.9mm回転繰り出し式です。お預かり・点検して、芯の出し入れができない原因はすぐ分かりました。

f:id:hikkigukobo:20211223230722j:plain

 

内部螺旋チューブユニットと回転ノブを繋ぐカバーチューブ=ファンネルの先端が大きくひび割れていました。ここにクラックが生じたことにより、螺旋チューブユニットを固定できずに空回りしてしまいます。螺旋が動か(回転)なければ、芯を装着したリードキャリアーも当然動きません。パーカーに限らず、繰り出し式ペンシル内のチューブ先端は、その薄い金属軸ゆえひび割れを起こして固定できなくなってしまうことがあります。ここは接着剤ではまず止まりません。他、工具でかしめたり、ロウ付け溶接などの方法もありますが、どちらも安定して固定させるには難しいです。※モデルによってはそれで直る場合もあります。ただし今回のペンシルはかしめでは効果がありませんでした。さらに応急処置的な手段として、布テープで止めてしまう方法もあります。ともあれ、今回は代替パーツを作って本体に取り付ける、確実な方法をご紹介します。

f:id:hikkigukobo:20211223230737j:plain

 

内部の螺旋パイプを一旦取り外します。プロペリングロッド自体は機能(回転で上下に移動)していることを確認しました。

f:id:hikkigukobo:20211223230756j:plain

 

ここから加工の作業に入ります。まずクラックのあるチューブ先端部を切断します。

f:id:hikkigukobo:20211223230811j:plain

 

次に代替部分の製作。真鍮丸棒をくり抜き、切削。螺旋チューブが収まる内径に加工します。

f:id:hikkigukobo:20211223230837j:plain

 

代替部ができ上ったら、チューブ本体に接着で取り付けます。

f:id:hikkigukobo:20211223230905j:plain

 

螺旋チューブを含むメカ本体に圧入で取り付けます。この時点でチューブを回して、芯繰り出し・収納が行えることを確認します。大切なことは、後ろから引っ張ても容易には抜けない加減で穴の内面を加工すること。少しでも緩いと(芯補充や消しゴム使用に)頭部の回転つまみを引き抜く際、チューブ自体も一緒に抜けてしまいます。

f:id:hikkigukobo:20211223230931j:plain

 

ボディ、回転ノブを取り付けて修理は完了しました。

f:id:hikkigukobo:20211223230949j:plain

 

インクタンクの製作②  / AURORA Jubilaeum

以前にも採り上げたアウロラのピストン吸入式の、それも全く同じ壊れ方をした万年筆の修理を依頼されました。限定品のユビレウムというモデルです。ボディのデザインが異なるだけで(前回の)オプティマ型と内部構造はすべて同じ。と思いきや、外観のインク窓の大きさが違うだけでなく、リングを取り付ける位置から内部の寸法等もすべて微妙に異なる別設計であることに気付きました。当然、オプティマ型修理当時に作成したパーツ図面も流用できず、またゼロから計測し直さなければなりません。蛇足ながら透明インクタンクの形が違うのであって、吸入機構のパーツや、ペン先ユニット等は同じです。

f:id:hikkigukobo:20211217231215j:plain

 

このメーカーの吸入式に共通の症状、インク窓の首軸との境目で真っ二つに破断してしまっています。

f:id:hikkigukobo:20211217231243j:plain

 

f:id:hikkigukobo:20211217231434j:plain

 

ペン先ユニットを取り外した状態。穴の脇に破断した透明アクリル材の残りが見えます。

f:id:hikkigukobo:20211217231818j:plain

 

首軸&胴軸内に残った、透明アクリル材をすべて削り終えました。ここで一旦作業を中断し、それぞれの内径や深さ、形状、ネジ位置・ピッチを計測し、それらを元に逆算するかたちでインクタンクの図面を起こします。

f:id:hikkigukobo:20211217231840j:plain

 

図面を元に作ったインクタンク。上が予備、下がオリジナルの色に合わせて染色した物になります。ボディから僅かに見えるインク窓を挟む格好で雄ネジが見えますね。オリジナルも、胴軸・首軸の双方をネジ+接着で固定されていました。更に上のネジの裏側には、ペン先ソケットを止める雌ネジも切ってあります。この1体のパーツに、3か所もネジが設けられているのです。

f:id:hikkigukobo:20211217232128j:plain

 

まずは胴軸側に接着で取り付けます。

f:id:hikkigukobo:20211217232511j:plain

 

最後に首軸側にも取り付けて完成しました。

f:id:hikkigukobo:20211217232554j:plain

 

接着が乾燥したら、水やインクを吸入してテストを行い、無事修理は終わりました。吸入量はオプティマと全く同じでした。前述のように、オプティマ型と同じ構造という先入観(勘違い)から思わぬ時間を要してしまいました。それでも、今回(も)作成した図面及び修理記録で、結果的にアウロラ修理対応の新たなレパートリーが増えて良かったです。それにしても同じメーカーでインクタンクの設計が若干違っても、壊れ方は全く同じなのですね。

f:id:hikkigukobo:20211217232638j:plain




 

万年筆のインナーキャップ修理 / Montblanc #144

キャップがしっかり嵌合しない、というご相談の万年筆をお預かりいたしました。モンブラン144の一昔前のモデルです。首軸リングの腐食もやや進行した状態だったため、当初は嵌合が甘い(全く抵抗なし)のはこれが原因だと思いました。しかしキャップ内を幾ら洗浄しても、金属片が続けて出て来る点に違和感を覚えました。インナーキャップを取り外して見たら、樹脂製ではなく金属製で、しかもご覧のように腐食だらけの状態でした。言う間でもなくここまで進行してしまうと嵌合はおろか、インク機密の機能も果たせる筈もありません。

f:id:hikkigukobo:20211208111435j:plain

 

年式は違いますが、同じ144の後年~現行共通の樹脂製インナーキャップを見本に、パーツを拵えて対応することにしました。

f:id:hikkigukobo:20211208112724j:plain

 

樹脂を削って、作りました。最も神経を使うのが、首軸リングが収まる内径の調節です。一番手前に来る穴ですね。若干キツイ(硬い)うちは良いのですが、ちょっとでも削り過ぎると、緩くなって元の木阿弥。最初から作り直しです。嵌合式にも様々なタイプがありますが、このモデルの場合”パチン”というより、”スッ”といった感触が正常です。

f:id:hikkigukobo:20211208112906j:plain

 

オリジナルとほぼ遜色ない収まり具合に仕上がったら、削りは完了。

f:id:hikkigukobo:20211208113415j:plain

 

今回のメタル製インナーキャップを覗けば、樹脂の本体カバーとメタルのネジ受けの2体構造ですが、直接ネジ切りを行います。ペン先が収まる空間とネジ穴は貫通していないので、気密に影響は与えません。天ビスがきっちり閉まることを確認したら、出来上がったインナーキャップをキャップチューブに取り付けて修理完了となります。

f:id:hikkigukobo:20211208113526j:plain

 

インク漏れの原因は・・・ / WATERMAN PRÉFACE

「筆記中にどこからかインクが漏れていて、手が汚れる」という万年筆の修理を依頼されました。ウォーターマンのプレファスでした。

f:id:hikkigukobo:20211117232911j:plain

 

お預かりして点検してみると、確かにインクが指に付着します。金色のリングと、キャップ受けに当たるフランジとの隙間からでした。ルーペで見てもクラックらしき物が見当たらないので、ねじが緩んでフランジが浮き上がり、そこから入ったインクが原因と当初は疑いました。

f:id:hikkigukobo:20211117233248j:plain

 

ところがねじ回して動く筈のソケットがすっぽ抜けて、写真のような状態で現れました! 明らかに、首軸内部でねじを残してソケットが破断しています。インクが首軸内側/ソケット側面を伝って漏れる原因はこれだったのです。

f:id:hikkigukobo:20211117233304j:plain

 

工具を作って、内部に残った穿刺チューブ一体の破断したネジをよくやく取り出せました。

f:id:hikkigukobo:20211117233327j:plain

 

この円周状の破断面を接着しても、ねじ着脱の力に耐えられる筈もなく、このユニット全体をそっくり同じに作るしかなさそうです。

f:id:hikkigukobo:20211117233344j:plain

 

エボナイトを削って、ニブソケットが出来上がりました。

f:id:hikkigukobo:20211117233401j:plain

 

いわゆる接着留めはやらず、作ったソケット側面にシーリング材を塗って、首軸に取り付けます。コンバーターを装着、インク吸入・排出の操作を行って、お預かり時のようにインクが滲出しなければOK。

修理完了です。

f:id:hikkigukobo:20211117233416j:plain

 

繰り出し式ペンシル修理 / Alfred Dunhill AD2000

繰り出し式ペンシルの、全ユニット交換&コネクター製作という大修理を行いましたので、その記録を採り上げます。回転繰り出し式とは100年以上前に発明されたシャープペンシル黎明期の方式で、キャップチューブ側を回して芯を出し、反対に回して収納を行う機能です。この最も古い方式(当時はポピュラー)は極少数派ですが、高級品、とりわけ太軸を中心に今でも販売されています。

今回お直ししたモデルはダンヒルAD2000(ゴールドプレイト・バーリィ)のペンシルです。芯は0.9mm仕様。回しても芯が出ない上、収納された芯が取り外せません。繰り出し式は先端の口金から芯を装着させるため、一般的なノック式ペンシルのように予備芯で後ろから押し出すことができません。従って繰出し式の故障は本当に大変です! 内部の繰出しユニットを取り外せるモデルであれば、らせんの脇から詰まり芯を見ながら1つずつ外すやり方があります。しかしこのペンシルのようにユニットが接着固定されている物は、分解せずに先端から芯より少し細い針金で、新調に内部の芯を粉砕することから始めます。轆轤を使って、針金を回しながら芯をほぼ粉砕しましたが、回しても一向に動かず、空回りするのみです。

f:id:hikkigukobo:20211020221611j:plain

 

結局、完全に内部を分解するしか方法がなく、しかもオリジナルのユニットを壊す形でしか手段がありませんでした。依頼主のお客さんに了承を得た上で、その作業を決行。それはオリジナルと同じユニットの在庫があり、元に戻せない場合はそれと付け替えるという最終手段があったからこそでした。

キャップチューブを抜いて最初に現れる消しゴムを外し、メタルファンネルの奥に最初に見える栓(青矢印)の頭が、唯一目視できるパーツです。これを専用に拵えた工具で慎重に引き抜き、ユニットの凡そ7割のパーツを取り外せました。この時点で黒い樹脂のカバーまで抜けましたが、肝心の口金型のコネクター等はどうしても外れません。雄ネジ(赤矢印)が、胴軸先端の内部で接着固定されていたから。余談ですが、今回繰り出し式特有のらせんは見えません。黒いカバーの内部がらせんになっています。

f:id:hikkigukobo:20211020230707j:plain


同じく専用に拵えた工具で、力任せに捻ること数十分、ようやくコネクターの接着が溶けて内部ユニット全てのパーツが現れました。ガイド溝にある黒い部品は、芯の押出と収納を行うリードキャリアーです。やはりここに折り重なるように、折れた短い芯が3個ほどありました。 ※写真は芯の残骸を除去後

f:id:hikkigukobo:20211020232639j:plain

 

先端の穴は芯を保持する部分。損傷して、もう芯を安定保持できない状態でした。

注)最初に芯粉砕で決して精密ドリルを使わないのは、このリードキャリアーを一発で壊してしまう危険があるため。

f:id:hikkigukobo:20211020233025j:plain

 

ついでにリードキャリアーの上部も。本来真っ直ぐな細い棒が、つんのめったように曲がって浮きがっています。これは”追い出し”( expel part ) 部で、芯交換の際に短くなった残り芯を、文字通り完全に外に追い出す装置。繰出し式ペンシルを芯のない状態で回し切ると、口金から僅かに飛び出す細い物がこれです。以上がこのペンシルの故障の原因です。どの道、ユニットごと交換するので今回はリードキャリアーを直す訳ではありません。また近年(~現行)ではこんな小さなパーツなのに樹脂ゆえ、かなり華奢です。コストダウンとしか考えられません。そういう点では昔のリードキャリアーは主に金属製のため、遥かに丈夫ですね。

f:id:hikkigukobo:20211020233200j:plain

 

これから取り付ける、新品の代替ユニットがコチラ。これを胴軸にそのままセットすれば、修理完了! ・・・・・・とはならず、もう一つの難関があります。

f:id:hikkigukobo:20211020234127j:plain

 

ほぼ全て同じ設計なのに、先ほど取り外した金色のコネクターだけが異なるため、装着することができません。写真からは分かり辛いですが、取外しによりコネクターと(リードキャリアーを収める)サポートパイプ一体のパーツが変形破損して、これはもう使えません。新ユニットのコネクターを同じ形に削って同じ位置にネジを切る方法も試しましたが、流石に追加工は叶いませんでした。

f:id:hikkigukobo:20211020234259j:plain

 

勿体ないですが、代替ユニットのコネクターを削り取って、一旦サポートパイプを単体状態にしました。次に無垢の真鍮材から削って、オリジナルと同じ形にコネクターを作り、サポートパイプを埋め込んで完成しました(下)。

f:id:hikkigukobo:20211020235159j:plain

 

整理のため、並べて記念撮影。

新品の繰り出しユニット(上)、破損したオリジナル(中)、今回作った代替のコネクター(下)。

f:id:hikkigukobo:20211020235726j:plain

 

胴軸に完成したユニットを接着取付けして、ようやく修理が完了しました。胴軸から出るコネクター先端は、長さにして1.6mm。取り付ける前に、先端部分は18Kメッキを施してあります。

f:id:hikkigukobo:20211021000044j:plain

 

この通り回し続ければ、スルスル~と出ます。

f:id:hikkigukobo:20211021000352j:plain

これと(ほぼ)同じ設計の繰り出しユニットは、他にもモンブラン・マイスターシュテュックNo.167や、デルタ・ドルチェヴィータ・ミディアム等にも使われています。ただしこれらはコネクターも同じ物が使えるため、修理の時はそこまで大変ではありませんでした。今回のダンヒルAD2000の方が、その分作業内容も大がかりでした。因みに繰り出し式と、同じ回転で芯が出る”ツイスト式”とは全く似て非なる物です。ツイスト式がノック式と同じ要領でカチッ、カチッとステップを踏むのに対し、繰り出し式は無段階です。