ボールペンのキャップを繋ぐ / PARKER 75

キャップチューブの頭をノックして、芯の出し入れを行うキャップスライド式のボールペンをお直しします。そのキャップと軸が内部パーツの破損により分離してしまい、固定出来なくなってしまっています。本来はキャップチューブ内のスライドメカのねじで固定される構造で、芯の交換のときだけ回して開け閉めを行います。破損のボールペンには、ねじが見当たりません。胴軸の繋ぎの部分に残る黒いわっか状の物は、破断したメカの一部。

 

ねじから上を境に分離破断した、キャップスライドメカの一部が軸側に持って行かれてしまった状態です。メカをキャップチューブから取り外しました。薄いパイプ状のパーツが水平破断してしまっているものだから、まず接着は不可能。

 

軸側に残っていたねじを取り外します。

 

ねじ枠部分を別に作り、上側のカバーに接着固定する方法で修理を行います。

 

カバー入口の内側にねじを切り、軸側とのねじの噛み具合を見ながら微調整を繰り返します。

 

メカ本体と接合。

 

切ったねじ。

 

継ぎ足した見てくれは良くありませんが、ここはキャップチューブ内に収まり、例え芯交換のときでも見えないのでこれで十分です。軸側の雄ねじも見えますね。

 

仮付けの状態で、ノックして芯の出る位置を確認。

 

機能的に問題がないことを確認したら、ようやくメカをキャップチューブ内に取り付けて、修理が完了しました。破損前も、キャップ内のこの位置にねじが見えていたことになります。







インク漏れが示すもの / AURORA 88 Luna

インク漏れのするアウロラ88をお直ししました。直したと言っても、例の如くインクビュー一体型のインクタンク全体を作って取り付けたお話です。

この記事を書いている現在、88のインクタンク製作経験は3本になりますが、一番最初に依頼された1本がこの万年筆でした。”88リミテッドエディション ルナ”です。

過去ご紹介したオプティマの記事のようにポッキリ折れたのではなく、「インクビュー周りからインクが漏れているらしく、手が汚れる」というご相談でした。ただお預かり前に頂いた写真から、状態はほぼ察しがついていました。胴軸の上部がマゼンダ調のインクで染まっていますね。

 

お預かりした現物に水を吸入した途端、事前の情報通り残りインクに染まった水が滲み出て来ました。念のため、色の付着した辺りを拭き取りましたが、全く落ちず布にも色が付きませんでした。これは予想通り、インクタンクの見えない部分からひび割れを起こして、そこから滲出したインクが胴軸内側から徐々に染まってしまっていることを示しています。これは内外から接着で止められる構造ではないため、折れていなくてもインクビューから切断して、インクタンクを作って取り付ける方法をとりました。インクビューが破損していなければ、吸入シールの痩せなどでインクが後ろから漏れることはあっても、ここから漏れることはまずありません。

 

インクビューから切断し、胴軸内と首軸内のインクタンクの残り(上下部分)パーツをすべて正確に削り取ります。掘る深さや内径は、やはり記録として残したオプティマの時の図面を元に進めます。インクタンクの透明アクリルと胴軸の材料がきっちり分離できた時点で、付着したインク汚れを今度は内側から磨いて取ります。幸いほぼ落とすことができました。

 

透明セルロース材から削り出し、代替パーツを作ります。

 

何度も胴軸に合わせながら。

 

インクタンクが出来上がりました。次にインクタンクの内面を研磨して仕上げます。吸入を円滑に行えるようにするためと、視認性のために。

 

出来上がったインクタンクを胴軸と首軸それぞれに接着して、完成しました。話は前後してしまうようですが、この1本を終えることでインクタンクの形状がオプティマと完全に同じ(=共用パーツ)であることが分かったのです。もちろん予想通りでしたが、最初から同じだろうと決め付けて掘り進めた結果、サイズが少しでも違っていたら、取り返しのつかないことになってしまいます。ここが加工修理の怖いところです。

 

インク漏れが解消できた上、付着してしまったインクもとれて一石二鳥でした。

 

吸入方式を変更 / PILOT SUPER 500

パーツ在庫終了により、メーカーに修理を断られたパイロット・スーパー500。吸入器と胴軸の破損で、使えない状態でした。写真のように、胴軸がとば口側から破損、一部欠損してしまっています。

 

胴軸を開けると、本来装着されている筈のノブ式の吸入器が外されてありません。当然インクを入れて使うことは出来ません。そこでオリジナルの再現が出来ない代わりに、パイロット現行のカートリッジ/コンバーター仕様への変更というかたちで修理を依頼されました。

 

修理作業に入ります。首軸内部にあるペン芯と、オリジナルの吸入器を取り付ける半透明のスリーヴを取り出しました。このスリーヴはもう使いません。

 

パイロット規格のカートリッジを装着出来るよう、スリーヴ兼用のヤリを拵えました。インクを漏らさず、カートリッジを引っこ抜く際に外れないよう、Oリングも装着します。Oリングの溝彫りの調節が結構神経を使います。溝を少しで深くしてしまうと、インクが滲出してしまいますから。

 

コンバーターを仮装着し、着脱と吸入/排出の塩梅を見ます。

 

作ったヤリ兼用のスリーヴを首軸に取り付けました。スーパー500が他の両用式と同じ装着口になった(あり得ない)瞬間ですね。

 

今度は空のカートリッジ容器を装着。

 

一方の胴軸の代替パーツも完成しました。

 

修理完了です。

 

天ビスの再生 / Montblanc 74

天ビスの破損したモンブラン No.74です。ホワイトスターの再生までは出来ませんが、黒の樹脂で同じ形のパーツを拵えることで、修理対応をしました。すでにトップの半分は欠損しており、見た目だけではなくクリップも固定できない状態でした。

 

セルロース樹脂の棒材を削り、ねじ脚から作ります。

 

キャップチューブ側のねじに合わせ、丁度良い案配で閉められるよう調節します。

 

トップ部分の外形を破損する前のオリジナルと同じになるよう削り込みます。後は傷取りと仕上げの磨きを行い完成。これでもう外れません。

 

直すついでのカスタマイズ② / Montblanc Meisterstück 134

胴軸がひび割れたアンティーク万年筆を、お客さんご自身が入手された材料を使ってボディを作るという、なかなか凝ったご依頼をいただきました。万年筆はモンブランNo.134 で、使う材料は戦前(外国製)のカラーエボナイト。同時にお預かりの材料も製造されたままの物で、センターレス加工すらされていない、デッドストック状態でした。写真右のような棒材をボディ径に近い細さまで削り出したら(左)、美しい模様が現れました。赤茶の斑模様が昔のウォーターマンを髣髴とさせます。恐らくベースのNo.134 より、この(新品)材料の方が古いのでは? 削る前は本当に何色だかよく分からない表面で、端面をまじまじと眺めて、ようやくオレンジの渦巻きであることが分かるぐらいでした。

 

完成したキャップ、胴軸にすべてのパーツを付け替えたら、全く違う姿で蘇りました。

 

インクビューは透明セルロースを削り出し、染色してあります。このやや茶色がかったグレーは(ベースの134の)オリジナルとは異なる色合いで、こちらも依頼者様のご希望でした。

 

こうして生まれ変わった万年筆ですが、使った材料も当時のカラーエボナイトセルロースと、いずれも現在ではほぼ使われない物です。不思議とこれ自体がアンティークの雰囲気を纏っていました。

 

直すついでのカスタマイズ / Montblanc Oscar Wilde

オスカー・ワイルドの各パーツを使って、胴軸をエボナイトで作って欲しいというご依頼がありました。お預かり時の状態がコチラ。 ※吸入ユニットは弊所で取り外し

胴軸を作って付け替える作業の積りでおりましたが、実際はもっと大がかりな修理を前提としたカスタマイズになることが判明。ざっくり理由を説明しますと、この万年筆は首軸と(ペン先とペン芯を直に取り付ける)ソケットがない状態で、おまけに胴軸内部も著しく破損していました。つまりお話を頂いた時は、破損品とは思っていなかったのです。最も悩ましいのが、(紛失パーツのない)普通の破損品であれば現物を形・寸法見本に利用できますが、今回のようなケースでは想像で作らなければならないことです。

 

首軸はカタログやネット写真を元に形に起こし、胴軸、ソケット、インクタンク、ソケットも完成させました。ソケットもやはり想像で、いえ、機能優先の独自設計で作らざるを得ませんでした💦

作った各パーツ

 

インクタンク内面を研磨、吸入器を仮付けして吸入・排出のテストを済ませてから、胴軸に接着で取り付けます。胴軸と首軸も研磨仕上げを行います。

 

ソケット、首軸の順に組み立てます。

 

修理完了とともに、オスカー・ワイルドのブラック版が出来上がりました(^▽^)/。

 

オプティマ3本まとめて~ / AURORA OPTIMA

インクタンク破損のアウロラオプティマの修理依頼が3本も重なってしまったため、まとめてお直しした記録をご紹介します。

・マーレ(限定) Marle

・ジュエリーコレクション/シルバーキャップ(限定) Jewelry Collection  No.G11

・バーガンディ  Burgundy

破損個所は各々多少異なりますが、インクビューのクラック破損によるインク漏れという症状は一致しています。

 

マーレとバーガンディ。

 

ジュエリーコレクションもインク漏れがする上、更に首軸にも大きくクラックが入っていました。なお、過去にメーカー及び他業者による修理を受けているとのことですが、それが応急処置的なものだったのか再びインク滲出が起きたとのことです。

 

インクタンク全体を胴軸から取り外すための加工を行います。接着で作られているため、胴軸を壊さないよう、透明材のみを削る要領です。

 

首軸内部にもインクタンクの一部が残っているため、ねじを壊さないよう慎重に削り取ります。

 

インクタンクの製作。

 

同じ方法でバーガンディの胴軸を加工します。

 

出来上がったインクタンクに首軸と吸入部品を仮装着して、水で吸入・排出のテストを行います。

 

ジュエリーコレクションのみ、首軸の製作が必要でした。写真は完成したところで、傷取り&艶出し研磨前です。

 

困ったことに、(前の業者さんによって)ペン先とペン芯をセットするソケットが接着されていました。再利用するための取外しが出来ず、一部が分離破損してしまいました。已む無く、ソケットも作って対応しました。 ※写真下

 

左が破損したオリジナル、右が作った方でソケットは未装着。

 

胴軸からインクタンクを削り取りました。

 

出来上がったパーツ、インクタンクを仮付けした状態。

 

インクタンクをオリジナルに近い色に染色処理を行い、組み立てに入ります。ジュエリーコレクションのみ、少し色合いが異なりました。

 

修理完了! バーガンディはインクビューと首軸の間のリングがない(破損時の紛失?)ため、その厚みの分、インクタンクの寸法を長く作ってあります。

 

前述のように真ん中のジュエリーコレクションのみ、首軸もノンオリジナルとなります。