パーツの寸法は違えど / Montblanc Meisterstück 142

古いモンブランの万年筆の胴軸を2本まとめて作りました。モデルは14Xシリーズ最小の、マイスターシュテュックNo.142。どちらも前期型の、それも胴軸がほぼ同じ壊れ方だったため、効率良く直せました。

 

この万年筆は吸入不良のピストンシールを交換するためには首軸を外して行いますが、セルロイドの経年収縮により、胴軸のネジ側から割れてしまっています。

 

こちらはもう1本の142。

 

割れたネジの一部が欠損してしまっています。

 

同じ原料から製造されている2種類のセルロース樹脂を材料に使います。セルロイドもそうなのですが、無色透明と言ってもアクリル程の透明度ではなく、削る前は若干飴色に近いです。

 

ろくろで削り、ネジ切りを行いほぼ形になりました。当初の飴色から大分白っぽくなっているのが、お分かりでしょうか?

 

オリジナルのインクビューの色に合わせ、透明材は染色を行います。更にネジ山もやはりオリジナルと同じく、黒く塗り終えました。ここが当時のモンブランの高級品としての拘りのようです。内面の研磨を終えた後、吸入器を仮装着して吸入・排出のテストを行います。

 

染色による膨張がおさまるのを(最低)1日待ってから、アウターの黒いスリーヴを取り付けます。最後に表面をバフ掛けして、代替パーツ x2の完成となります。

 

因みにこの2本、同じモデルでありながら胴軸やキャップの長さがそれぞれ約1mm違います。No.144, 146, 149も同様に。製造ロットや時期の違いか正確な理由は知りませんが、それ故に同じモデルでも個々のボディパーツに合わせながら作るしかないのが辛いところです。それに加えて材料の収縮の進行度も、1本1本すべて違うため、ネジの外形&内径も合わせる必要があります。数本まとめての作り置きが出来ず、修理依頼の度に現物と合わせて対応するしかない理由がここにあります。

オリジナルの胴軸を引退させて / PELIKAN 400 Mother of pearl

胴軸が破損したペリカン500のマザー・オブ・パールをベースに、持ち主様のご依頼で首軸を含む胴軸全体をカスタマイズの形で作りました。

写真のように、マザーオブパール(セルロイド)の表面が網の目のようにクラックが入ってしまっており、最初からこの軸を活かした修理ではなく、新規で製作の方向で話が進められました。最終的にご用意できる材料の中から、胴軸/首軸をオレンジ&黒のカラーエボナイト、インクビューを明るいブラウンという組み合わせに決まりました。

 

カラーエボナイトで首軸を作っているところ。写真から、首穴のソケット受けネジを切り終えているのが分かります。

 

胴軸のエンドを除いて、ほぼ削り終えました。この後、少しずつ削ってキャップの収まり具合を調節していきます。

 

インナー兼インクビューを染色、エボナイトも磨きの仕上げを行いました。

 

吸入ユニットを取り付けて、完成。

 

ヴィンテージ万年筆でも持ち主によって付き合い方(考え方)は様々です。今回のように、実用のためにボディを一新しつつ、破損して使えなくなったオリジナル部分はそのまま保管するという考えの方も少なくありません。

キャップ縁の修復 / Montblanc Limited Edition Agatha Christie

モンブランの作家シリーズ(限定版)、アガサ・クリスティーのボールペンのキャップをお直ししました。キャップの縁の一部が、大きく欠損してしまっています。一旦残りの部分も削り取って、同じ黒い樹脂材を使って縁部分を作って接合する方法を採りました。

 

キャップを加工するため、一旦轆轤に取り付けます。装飾リングを傷つけないよう、マスキング。

 

リング下端を境に、縁をすべて水平状に削り取ります。しかし、この端面のみの材料接合では、強度不足となってしまいます。そのため、さらにリングの裏側も一部削ります。

 

リングの裏、下半分を削り取りました。つまりリングの半分も接着しろとして活用して安定させます。次に、これから接合する縁部分を作ります。材料は黒いセルロース

 

接着剤なしの、仮接合。手でグッと押してグラつかないようであれば、接合面の加工は終了。

 

材料の丸棒からカットし、端面のみ削って整えました。

 

控えておいた寸法通りに、削ってオリジナルの形に近付けていきます。

 

刃物傷を研磨、艶出し研磨。縁の修復が完了しました。リングの上下、キャップ本体と縁が違和感がなければ良しとします。

 

新たに使った材料は衝撃に強く割れにくいため、オリジナルより強度は上げられたと思います。写真ではお伝えし難いのですが、一番難しかったのは接合そのものより、作った縁の内面の加工でした。ここは胴軸に取り付ける際、内部のメタルパーツを覆い、且つスムーズに回転(ツイスト)できるよう、何度も削りの微調整を行う必要がありました。内面が少しでも触れればツイストの動作が硬くなり、安定した新の出し入れができません。逆にいたずらに削ると、ただでさえ薄い縁をさらに薄くさせて強度を落としてしまいます。

 

大型のピストンシール製作 / Montblanc Meisterstück 149 1960s

モンブランNo.149のインク漏れを直しました。149のなかでも滅多にお預かりする機会のない、通称”第2世代”、1960年代のモデルになります。オリジナルのピストンシールの経年収縮が原因と見られ、吸入・排出を繰り返すと、徐々にシール裏側にインクが入り込み、最終的に尾栓側から漏れて来てしまう状態でした。シールを熱膨張させたり、加工を試み、やや漏れはおさまりましたが完全には喰い止めることは出来ませんでした。

 

そうなるとパーツ交換か製作しかありません。前述のようにあまり出回らない60年代の149のパーツ入手は難しいので。下のピストンロッドに取り付けられた物が今回作ったシールで、上はオリジナル。

 

無事、漏れることなく直りました。この種の修理では外径を0.1mm太くするだけでも、雲泥の差です。見え辛いですが、中でピストンが上がり切った状態がコチラ。👇

 

ボールペンのキャップを繋ぐ / PARKER 75

キャップチューブの頭をノックして、芯の出し入れを行うキャップスライド式のボールペンをお直しします。そのキャップと軸が内部パーツの破損により分離してしまい、固定出来なくなってしまっています。本来はキャップチューブ内のスライドメカのねじで固定される構造で、芯の交換のときだけ回して開け閉めを行います。破損のボールペンには、ねじが見当たりません。胴軸の繋ぎの部分に残る黒いわっか状の物は、破断したメカの一部。

 

ねじから上を境に分離破断した、キャップスライドメカの一部が軸側に持って行かれてしまった状態です。メカをキャップチューブから取り外しました。薄いパイプ状のパーツが水平破断してしまっているものだから、まず接着は不可能。

 

軸側に残っていたねじを取り外します。

 

ねじ枠部分を別に作り、上側のカバーに接着固定する方法で修理を行います。

 

カバー入口の内側にねじを切り、軸側とのねじの噛み具合を見ながら微調整を繰り返します。

 

メカ本体と接合。

 

切ったねじ。

 

継ぎ足した見てくれは良くありませんが、ここはキャップチューブ内に収まり、例え芯交換のときでも見えないのでこれで十分です。軸側の雄ねじも見えますね。

 

仮付けの状態で、ノックして芯の出る位置を確認。

 

機能的に問題がないことを確認したら、ようやくメカをキャップチューブ内に取り付けて、修理が完了しました。破損前も、キャップ内のこの位置にねじが見えていたことになります。







インク漏れが示すもの / AURORA 88 Luna

インク漏れのするアウロラ88をお直ししました。直したと言っても、例の如くインクビュー一体型のインクタンク全体を作って取り付けたお話です。

この記事を書いている現在、88のインクタンク製作経験は3本になりますが、一番最初に依頼された1本がこの万年筆でした。”88リミテッドエディション ルナ”です。

過去ご紹介したオプティマの記事のようにポッキリ折れたのではなく、「インクビュー周りからインクが漏れているらしく、手が汚れる」というご相談でした。ただお預かり前に頂いた写真から、状態はほぼ察しがついていました。胴軸の上部がマゼンダ調のインクで染まっていますね。

 

お預かりした現物に水を吸入した途端、事前の情報通り残りインクに染まった水が滲み出て来ました。念のため、色の付着した辺りを拭き取りましたが、全く落ちず布にも色が付きませんでした。これは予想通り、インクタンクの見えない部分からひび割れを起こして、そこから滲出したインクが胴軸内側から徐々に染まってしまっていることを示しています。これは内外から接着で止められる構造ではないため、折れていなくてもインクビューから切断して、インクタンクを作って取り付ける方法をとりました。インクビューが破損していなければ、吸入シールの痩せなどでインクが後ろから漏れることはあっても、ここから漏れることはまずありません。

 

インクビューから切断し、胴軸内と首軸内のインクタンクの残り(上下部分)パーツをすべて正確に削り取ります。掘る深さや内径は、やはり記録として残したオプティマの時の図面を元に進めます。インクタンクの透明アクリルと胴軸の材料がきっちり分離できた時点で、付着したインク汚れを今度は内側から磨いて取ります。幸いほぼ落とすことができました。

 

透明セルロース材から削り出し、代替パーツを作ります。

 

何度も胴軸に合わせながら。

 

インクタンクが出来上がりました。次にインクタンクの内面を研磨して仕上げます。吸入を円滑に行えるようにするためと、視認性のために。

 

出来上がったインクタンクを胴軸と首軸それぞれに接着して、完成しました。話は前後してしまうようですが、この1本を終えることでインクタンクの形状がオプティマと完全に同じ(=共用パーツ)であることが分かったのです。もちろん予想通りでしたが、最初から同じだろうと決め付けて掘り進めた結果、サイズが少しでも違っていたら、取り返しのつかないことになってしまいます。ここが加工修理の怖いところです。

 

インク漏れが解消できた上、付着してしまったインクもとれて一石二鳥でした。

 

吸入方式を変更 / PILOT SUPER 500

パーツ在庫終了により、メーカーに修理を断られたパイロット・スーパー500。吸入器と胴軸の破損で、使えない状態でした。写真のように、胴軸がとば口側から破損、一部欠損してしまっています。

 

胴軸を開けると、本来装着されている筈のノブ式の吸入器が外されてありません。当然インクを入れて使うことは出来ません。そこでオリジナルの再現が出来ない代わりに、パイロット現行のカートリッジ/コンバーター仕様への変更というかたちで修理を依頼されました。

 

修理作業に入ります。首軸内部にあるペン芯と、オリジナルの吸入器を取り付ける半透明のスリーヴを取り出しました。このスリーヴはもう使いません。

 

パイロット規格のカートリッジを装着出来るよう、スリーヴ兼用のヤリを拵えました。インクを漏らさず、カートリッジを引っこ抜く際に外れないよう、Oリングも装着します。Oリングの溝彫りの調節が結構神経を使います。溝を少しで深くしてしまうと、インクが滲出してしまいますから。

 

コンバーターを仮装着し、着脱と吸入/排出の塩梅を見ます。

 

作ったヤリ兼用のスリーヴを首軸に取り付けました。スーパー500が他の両用式と同じ装着口になった(あり得ない)瞬間ですね。

 

今度は空のカートリッジ容器を装着。

 

一方の胴軸の代替パーツも完成しました。

 

修理完了です。