インクビュー付き万年筆の胴軸作り Pelikan 101N Tortoiseshell Brown

ペリカンのアンティーク万年筆(1930年代後半)を直します。胴軸のキャップ受けネジ、丁度書く時指が当たる部分に亀裂が入ってしまった物です。内部のインクが見えるオリジナルの透明軸は、セルロイド製で非常に割れやすい素材なのです。

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見事にネジを縦に割る感じで、大きな亀裂が見られます。この万年筆は吸入式で、ペン先から吸い上げたインクが、直にこのグリーンの透明軸内部に入ります。よってこの亀裂個所からインクが滲み出て、手が汚れてしまいます。残念ながらここを接着しても、内部で力が加わるため、ほとんどの確率でまた傷口が開いてインク漏れを起こしてしまいます。それにここまで外ネジが傷んでいると、接着痕を完全に消す事が出来ません。=見てくれも悪くなる。という訳で、今回は首軸から下の胴軸部分をすべて作ってしまいます。 ※もっとも今回の依頼主様は始めから製作のご注文でした(笑)。

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作業開始。べっ甲柄のスリーヴ、そして首軸を慎重に取り外します。特にスリーヴは非常に薄いため、下手するとあっという間に割れてしまいます。→外れました。

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今回はインクビューも再現しなくてはならないため、透明アクリルを使って削り出します。上はカットしただけの無垢材、下はパイプ状に穴開けした物。当然、まだこの時点では刃物傷で曇って見えます。

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内径を吸入弁がぴったり収まり、且つスムーズに作動するよう傷取りを行います。更に透明度=外からの視認性を上げるため、仕上げの磨きを行います。上(首軸)・下(吸入機構パーツ)用の内ねじ、そしてキャップ受けの4条ねじと合計3か所ものねじを切ります。左側の黒く見える個所は、首軸装着時のひび割れを防ぐために埋めたエボナイト。このように、オリジナル以上に強度を向上させます。最後に水洗いしたのが、下の写真です。透明度の仕上がり具合は、明かりに当てて反対側を見てチェック。

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以上の工程で胴軸が完成。修理として機能的にはこれで充分ですが、ここからが今回のハイライト。破損したオリジナルに少しでも近い雰囲気を出すため、同じグリーンの塗料を使って染色します。★ここでオリジナル軸にもう一度登場して貰いましょう。塗料と水の配合でもう少し濃く出来ますが、恐らくはオリジナルの方が経年とインクでここまで汚れてしまったようで、新品当時はずっと明るい色だった事になります。

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このままスリーヴパーツを被せると、べっ甲柄も表からやや透けて見えてしまうので、やはりオリジナルと同じように膜状のテーピングをします。当然、軸はこの時の厚みを考慮した外径に削っています。

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べっ甲柄スリーヴを被せ、首軸を取り付けて胴軸の製作は終わりました。

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最後に吸入弁を取り付けて、水やインクの吸入・排出のテストを経て終了。

これからも長く愛用していただければと願うばかりです。

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