セイフティ(安全操出し式)万年筆の修理をご紹介します。アウロラの18金張りのボディのペンダント型です。セイフティとは初期の万年筆の1つで、スポイントでインクを入れる方式です。要修理箇所は①軸内部の主要メカである螺旋部の破損(折れています)、②螺旋とニブキャリアーを繋ぐクロスピンの欠損、③パッキンホルダー内にあるシーリングコルクの交換、④インクが胴軸とパッキンホルダーの繋ぎ目から滲み出る場合は、挽き合わせをする・・・と多岐に渡ります。
余談ですが、ご覧のようにかなり小型な万年筆です。尤もセイフティ式その物が小型万年筆に向いた方式とも言え、各社数多くのショートタイプがセイフティ方式で作られました。この万年筆も、ペンダント型です。
それでは作業に入ります。胴軸を開けてペン先ユニット、螺旋部を取り出します。螺旋部がポッキリ折れています。これでは、ペン先を繰り出しする事が出来ず、使えません。接着箇所が僅かな上、”繰り出し”という動作の力が加わる構造上、まず接着は無理です。かりに接着しても、すぐまた外れてしまいます。という訳でこのような修理の場合、螺旋部をそっくりそのまま作って直す事になります。。
外径、内径、全長を測り同じ寸法にエボナイトで製作します。でも轆轤で出来るのは、僅かここまでです。この角度に螺旋溝を彫る事は、轆轤では出来ません。そしてここからは地道な手作業が待っています。
位置決めに印を付けた個所すべてに、ドリルで穴を空けます。そして次にハンドグラインダーで削りながら、穴と穴を繋いでいきます。
ここからは本当の手作業です。荒削りの終わった螺旋部に、ヤスリでよりオリジナルに近い形に整えていきます。この作業が最も時間を要します。
無事、螺旋部が完成しました。ペン先ユニットが滑らかに上下するように、実際には最後の方に、ペーパー等で仕上げ磨きを行います。ところで前述のようにこの万年筆にはニブキャリアーと螺旋部を繋ぐクロスピンが欠損しています。
クロスピンを削り出して作ります。
胴軸下端の溝に、作ったピンが入るか確かめます。写真のようにピンが左右の溝に入り、これで真っすぐ上下に動いて、ペン先が繰り出されるのです。
ニブキャリアー、螺旋部が繋がりました。
正常な状態で、胴軸と首軸を取り払うとこんな姿になります。
エンドノブを外してパッキンホルダーの中にある古いコルクを取り出し、新しいパッキンとスペーサーを埋め込みます。インク止め式やプランジャーと同じく、ここでインクが後ろに回らないようになっています。手前は、取り出した古いコルク。
すべてのパーツを元通りに組み直します。写真はペン先が完全に中に引っ込んでいる状態です。ここからいよいよペン先繰り出しのチェックです。
尾栓をゆっくり回して、スルスル~とペン先が顔を出し始めました。
ペン先が定位置まで出て止まりました。今度は実際にインクをスポイントで充填し、胴軸とパッキンホルダーの繋ぎ部分からインクが漏れないかをチェックします。滲み出た場合は、インク止め式の修理の要領で、双方の面を綺麗に刃物で削って食い止めます。カンナで裏が透けるような削り節を出すのに似ています。
修理が完了しました。