ペン先変形の修正 / Montblanc Noblesse

万年筆の修理で特に重要な作業の一つが、折れたり曲がったりしたペン先の修正。今回は一般的な、板金作業を採り上げます。「万年筆を落としてしまい、ペン先が曲がって書けなくなった」というご依頼は必ずあります。このような事故は、残念ながら少なくありません。万年筆って、残酷な事にほぼペン先から落ちる物なのです。まして柔らかい金ペン先ともなると、フローリングの床に落としても大きく変形してしまう例も。お直しするのは、モンブランの1970年代の細身万年筆ノブレス。

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ペン先を取り外し、破損具合をよく見てから修理方法を検討します。軽微な変形なら、専用のやっとこ等で掴みながら曲げ直しただけで直る事もあります。字幅でいえば極細は結構難易度が高く、板金はほぼ必須です。

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作業開始。やっとこで30分くらいかけて矯正したら、ほぼ形は戻りました。しかしこれはあくまで”見た目”で、ここから板金作業に入ります。やはり専用の槌(つち)を使って表から、裏から叩いて修正していきます。いたずらにカンカン叩くのではなく、ちょっと叩いたらすぐルーペで確認し、また叩いては確認の繰り返しで慎重に進めます。鉛の槌は小さい割には重く、ちょっとでも叩く力が大きいと余計変形させてしまうことも。またペンポイントに軽く当たってしまっただけで、それが飛んでしまう悲劇もあり得ます。

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裏側も横方向の歪みや段差が目立たなくなって来ました。

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まだ修正作業による細かい傷も残っていますが、ペン芯とともに一旦万年筆本体に取り付けて、試し書きを行います。普通のペン先調整と違い、変形する前の書き味を知りません。従って事前に依頼者様から聞いておいた書き癖や、インク出等をご希望に合わせ、それを想像しながら試し書きと指や爪による調整を繰り返します。

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ほぼ問題ないレベルまで修正出来た事を確認したら、再度ペン先とペン芯を取り外し、ペーパーで傷の荒削りをします。

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次にバフ掛けをして表面傷が分からなくなるまで仕上げます。最後に研磨剤を落とすために水洗いをし、もう一度インクを付けて試し書きをしてようやく完了となります。現在ほとんどのメーカーは、アフターサービス対象の万年筆でも基本的に変形したペン先の直しはやりません。交換になります。

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