モンブラン/スターウォーカーのボールペン修理は何度か採り上げましたが、今回ご紹介するのは軸の真ん中から上がすっぽ抜けて、そのまま元に戻らない破損です。こういった修理依頼は何度かお受けしているため、ご相談の時点ですぐピンと来ます。”カム”の破損だと。
通常はリフィル交換の際、後軸を回してリフィルが現れる訳ですから、下の写真のようにリフィルカバーが露わになる事自体あり得ないのです。
現物をお預かりして症状を確認&リフィルを抜いて後軸を振ると、破損したパーツの小さな破片が降って来ました。案の定、工具で天冠を留めるビスと一体のカム本体を取り外すと、このような状態でした。分離破損した左側がカムというパーツで、左下の筒状の物が外側に突起(1ヵ所)を持つシリンダーになります。このパイプ状のシリンダーがリフィル(芯)上部を覆って、上下に作動します。ともあれ、この主要なカムがブチ切れている以上、リフィルの収納・繰り出しは不可能な上、前軸に固定する事も出来ません。
下の写真の左側がカム部分で、右側が本来天冠留めビスと繋がっていた破損個所になります。(丸囲いの中の)平たい”側板”が、リフィルカバー内側に設けられたレールを水平に回転する、言わば車輪の役目を果たします。そしてこの突起こそ、後軸が抜けないストッパーの役目も兼ねた一人二役です。
この修理は、件のカムパーツを同じ形に作り、天冠の留めビスに接着する作業になります。
作業開始。留めビス側に残った樹脂の破断面を綺麗に削り取り、これから作るカムを接着するため、内径を広げます。
エボナイト材でカム本体のベースを作りました。轆轤で出来るのは、ここまで。
後はフライスとハンドグラインダーで更にオリジナルと同じ形まで持って行きます。
側板を設け、シリンダーの突起が伸縮で2つの位置で噛み合うよう、180度対面位置に溝を彫ります。
一旦、先に加工しておいた天ビス留めにカムを仮付けします。
シリンダーが滑らかに半回転動作が出来るよう、溝の表面をきれいに仕上げたら、シリンダーに被せます。こちらが収納状態。
繰り出し=筆記位置の状態。
前軸、リフィル、リフィルカバーのすべてを(仮)組立てし、後端のつまみを指で回転させてリフィルの出や収納位置を確認します。動作が滑らかに、位置も問題ないことを確認したら、今度はカムを接着します。
リフィルが標準の位置に出て固定されました。最後に後軸を再び装着して修理は完了しました。
ツイスト式のボールペンは、各社回転メカのパーツが違っても、基本構造自体はどれも同じと見て良いでしょう。ただモンブランの場合、今回のようにカムを作って対応出来るタイプと、回転メカがアッセンブリーで分解出来ないタイプがあります。後者の場合は、(過去にご紹介済)他社製回転メカを移殖させるためにペン本体の内部を改造加工する必要があります。
※クロスタイプ、ウォーターマンはまた違った独自規格です。