修理日誌 吸入式万年筆のパッキン製作 OMAS 556/S, Ogiva Cocktail, PELIKAN 400

吸入式、とりわけモンブランペリカンでお馴染みのピストン吸入式は相も変わらず万年筆好きに人気の方式です。簡単な操作で大量のインクを充填出来て、水洗いもやはり簡単であることがその主な理由だと思います。またこの機能を持つというだけでも、ペン字体の魅力がぐっと上がるのでしょう。

しかしピストン式の最大の泣き所は、パッキンの収縮や摩耗により吸入不良を起こすか、胴軸内壁とパッキン接地面の隙間からインクが更に奥へ回り込み、最悪胴軸の尾部から漏れること。またホンの一部を除いてほとんどドイツを始め、イタリア等高級な外国製品に展開されている方式ゆえ、修理費が高いか廃盤やメーカー/代理店の撤退でサービスを受けられなくなると、万年筆として使えないといった様々な事情で未だ使用環境には問題があります。

当然こういったピストン式のパッキン交換の依頼も、弊所の重要な仕事の一つです。今回は2通りの修理を採り上げました。

1例目)Oリングを使い、それを取り付けるパーツを作って機能させる方法です。ご依頼のペンは、オマスの1970年代のモデル、556/S。サイズ的にはペリカン400を長くしたぐらいのスリムな物ですが、インクタンクが大きく、見た目の割には大量のインクを吸入します。が、全く吸入しません。

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同社の後年~末期の製品がペリカン等と同じパッキン一体型であるのに対し、黒いゴムパッキンを平ネジで留める作りで、これはオマスに限らず、コルクパッキンを使った戦前からある方式です。

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当初、写真にあるピストンロッド上部に設けられた突起脇にOリングとスペーサーを取り付け、更により低頭のネジ蓋を作って吸入を試みました。しかしそうするとオリジナルよりかなり短くなるため、ピストンが突き当たる所まで上がらず空気も大量に吸い込み、使えませんでした。結果、横着はダメというものでした。

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オリジナルと同じ長さ(=ストローク)になるよう、修理方法を変更してパーツの設計をやり直します。ピストンロッドには手を加えず、スペーサーと2段型の平ネジを作りました。

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成型のパッキンに近い機能で吸入・排出をより効率良く出来るよう、Oリング外側を切削して二重線&外径調節を施します。これだけの加工でも、吸入量に差が出るんです。

※写真では上側を削り過ぎてしまったため、やり直してあります💦

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2例目)パッキン一体型で製作する方法。つまりオリジナルと同じ方式です。モデルはペリカン400の1950年代の初期型。これは現行のM400 やモンブラン等にも通じますが、ピストンロッドや螺旋棒、及びそれらのパッキン取付けヘッドの構造からOリングの使用が出来ない物を指します。Oリング単体を取り付けられない、若しくはOリングをマウントさせるパーツを作っても、その取付けスペースがない等です。

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そこで他のパーツ類は作らず、軟性樹脂の切削でパッキンを作って取り付ける方法です。一見最もシンプルなようで、かなり難しいです。弾力性がある素材は切削には不向きだからです。そもそもオリジナルでは当然成型で、こんなパーツを切削なんてアホなことはやってられません。修理だから已む無く取る方法なのでした。ピストンロッドに付いている方が拵えたパッキン。見てくれは褒められた物ではありませんが、この後の仕上げと潤滑剤塗布でしっかり機能しました。

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同じ方法でお直ししたオマス・オジヴァ カクテル。

分かり辛いですが、作った方は取り付けて胴軸内に透けて見えます。

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