修理日誌 割れたキャップチューブの製作 / PELIKAN 100N

ペリカン100N のキャップをお直ししました。写真はまだ修理する前の一枚。

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キャップの縁からリングの少し上辺りまでクラックが出来てしまっています。このモデルは接着で補修しても、(写真のように)尻軸に挿すと再び傷口が開いてしまうため、依頼者様には最初からキャップチューブ製作の方法をお勧めしました。

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クリップ、天ビスの他、装飾リングも移殖するため、まずは破損したキャップを削ってリングを取り外します。

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新たにキャップチューブを拵えて、リング以外のパーツを仮付けして出来の具合をみます。以前はエボナイトを使っていましたが、今回は(今年から新たに導入した)黒のセルロース樹脂から作りました。オリジナルがセルロイド材で作られているため、同じセルロース系樹脂を使えば、質感や手触りなども、本来の姿に近付けられるのが理由です。初~前期の#100などはエボナイト(キャップ)製ですので、それはやはりオリジナルに合わせてエボナイトで作ります。

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キャップリング溝彫り専用の刃物、剣(けん)キシャゲでリングと同じ幅に溝を設けます。この作業は主に動力を止めて、轆轤の足踏みで行っています。

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溝を彫り終えたら、いよいよリングの取り付けに入ります。そこでリング”圧入”のための専用治具を久々に引っ張り出します。写真では多分分からないと思いますが、この治具は浅めの内部の穴が2段になっています。上の段がリングを載せるためのもので、下の段は取付けで叩き込む際、最終的にキャップの縁が収まるように設けたスペースとなります。大体Φ25mm前後の太さのエボナイト棒から作る、至ってシンプルな道具です。日本に於いては射出成型での万年筆製造以前は、基本この方法で1本1本リングを取り付けていました。当然、リングの外径が1mmでも違えば、都度専用の治具が必要になってきます。

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リングの圧入作業(叩き込み)開始。足踏みで少し回転させては治具の底をトンカチで何度か叩く。リングは傾いた状態で少しずつ収まるべき溝に段々近づくので、僅かに右、左という要領で回転させて叩き続けます。回転させずに1ヵ所を集中的に叩くと、リングが変形若しくはブチ切れてしまうという訳です。

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無事決めた位置に収まりました。余談ですが溝幅を正確に彫らないと、リングの上下に隙間が生じてカッコ悪くなってしまいます。また、少しでも深く掘ってしまうと、取り付けてもリングがくるくる動いて固定されません。

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キャップの完成。この後、天ビスとクリップを一旦取り外して、表面研磨します。

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研磨洗浄が終わり、これで作業は終了となります。

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納品後お客さんからは「何十年も昔に製造された他の部品の中に完全に溶け込んでいます」とのご感想をいただきました。今後も、このように材料を使い分けて対応していきたいと思います。

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