全セルロースで胴軸を製作 / Montblanc L139G

モンブラン L139Gの胴軸の製作を依頼されました。キャップ&本体ともセルロイド製です。お預かりの点検の際、年式の割には胴軸の状態が良かったので、何故最初から製作を希望されるのかちょっと不思議でした。もちろん、破損していなくてもご依頼自体は自由ですが。

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吸入ユニットと胴軸の連結部。表側からも胴軸の一部が、僅かに退色しているのが見えます。

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テレスコープユニットを後ろから取り外した胴軸。写真では分かりづらいですが、小さなクラックが縦に無数ありました。これらのクラックが修理依頼の理由と納得。

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胴軸の製作に入ります。でもその前に、オリジナルのインクビューの色を把握する必要があります。長年のインク滓等の付着により、インクビューはほぼ真っ黒。まずは内面を研磨して洗浄、それでも滓は落ちません。已む無く少し削り、ようやく元の色が浮かび上がって確認することができました。これでも新品当時の色はより明るい感じだった筈で、そこも考慮に入れます。実物は赤でも赤茶でもなく、紅茶に近い色でした。

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素材的にオリジナルに近い透明、黒の各セルロース樹脂を削って作ります。仮装着の首軸はオリジナル。

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表裏を磨き、ピストンシール交換を終えた吸入ユニットを取り付けて吸入・排出の試験を行います。

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一旦インクビューの透明部分だけを取外し、染色を行います。上のネジ部分も今度は黒く染色して、ようやく胴軸が完成しました。この辺りややこしいので整理しますと、インクビューの下が元からの黒いセルロース、上の外ネジは黒く染色した部分になります。※下は破損したオリジナルの胴軸

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後は染色したセルロース樹脂の膨張が収縮するまで、(乾燥のため)丸一日置きます。首軸、吸入ユニットのすべてのパーツを取り付けて、修理が完了しました。

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特にテレスコープ吸入部の外枠&尾栓と合わせて、作った胴軸が同化して見えるのが黒セルロースの特徴です。

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以前はインクビューに透明アクリル+染色、それ以外をエボナイトで作っていました。その後ひび割れ等の諸事情でアクリルを廃止、透明セルロース&染色+エボナイトに切り替えました。機能的にはそれで対応出来ていた訳ですが、すべてセルロース材にすることで、よりオリジナルの雰囲気を活かした修理対応に辿り着けました。見た目だけではなく、実際に手で触れても、素材の持つ保湿性も手伝ってオリジナルとほぼ同じ質感も再現できました。

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