ボールペンの修理② WATERMAN Laureat

ボールペンの修理で多いのが、落として破損してしまったケースです。特に外国製の高級品ほど、落とした時の破損率は高いです。本体の材質に重いメタルが使われるのがほとんどで、幾らメタルのボディが頑丈でも、破損するのは決まって内部の樹脂パーツです。中でも重さや衝撃に弱い、肉薄な接続ねじ部がやられてしまいます。今回ご依頼のボールペンは、ウォーターマンの20年ぐらい前のモデルで、『ロレア』というシリーズ。メーカーからパーツ在庫終了で断られた物です。胴軸と口金を繋ぐ樹脂製の前軸が折れてしまっています。

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ねじの上に接着された物で、本来開かない部分です。(黒い樹脂の)グリップ側の折れて分離したねじが胴軸内に残ったままです。

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胴軸からやっと、その残り部分を取り出しました。

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2つに分離した破損パーツを片手で抑えながら、全体の形やねじのピッチ(間隔や規格)を計測し、本来のサイズも割り出します。それを終えてから、同じパーツを製作する作業に入ります。写真は削ってアールを付け、口金受けのねじを切り終えたところ。

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口金をねじ回して無事収まったところで、更に口金と面一(つらいち)になるように外形を僅かに削りながら整えます。当然、この後の研磨でコンマ単位で減る分も計算に入れます。

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胴軸に収まるよう雄ねじを切り終え、破損する前の形に復元できました。もちろん内径も、オリジナル通りに・・・・・・いえ、多少肉厚にしました。再び落とされた時のため、ついでに強度も上げます。

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表面を研磨して刃物傷を取り除いて光沢も出し、最後によく水洗いします。再び取り付けて、芯の出具合・引っ込み具合を見ます。この時点でばねが曲がっていたり、引っ掛かり気味だったら、それも交換してしまいます。

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完成。材質の違いも手伝ってオリジナルの新品時より、丈夫になりました。繰り返しますが、くれぐれも落とさないように(重いペンは尚)注意してお使いください。余談ですが、古いボールペンは破損しなくても自然摩耗でねじが緩くなって、外れてしまうケースもあります。※非接着の場合

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キャップ縁部分の修復 Montblanc 149 1950s

アンティーク万年筆によく見られる、キャップ縁(へり)部分のクラック修復依頼です。このモンブラン No.149の最初のシリーズ(1950年代)は、ボディがすべてセルロイドで作られている事と経年の劣化により、特にこの部分が割れやすいのです。

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ハの字に大きく割れて広がっているので、もはや接着は無理です。やはり他の材料を一から削って、継ぎ足す方法を採ります。数年前に全く同じ修理(もちろん同じモデル)を行った経験があり、今回もその方法で進めます。前回成功しているとは言え、非常に緊張を伴います。と言いますのも、キャップのクラック補修はたまに依頼されるのですが、同じ修理でもこの万年筆は最も難しいです。リングが大小合わせて3つという、非常に複雑且つリスクが大きいケースです。さて問題はどこで切断して、どこまでオリジナルの素材、どこから継ぎ足すかです。裏側からも覗いて、クラックが一番下のリングの少し上で止まっている事を確認。真ん中のMONTBLANC刻印がある太いリングの、真ん中を境にする事に決めました。糊代も兼ねて、ここが安定するからです。

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削り作業開始。縁と一番下のリングより僅か下部分を切断しました。切断、削り、リング取り外し・・・と慎重に順を追って進めます。ちょっとでも油断すると、回転の遠心力でパーンッ!と、キャップ本体がバラバラになる恐れがあります。内ねじの下に見えるくすんだメタルはインナーバンドです。

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真ん中のリング下すれすれまで削ったところで、この一番太いリングを取り外します。前述のインナーバンドも取り外します。このインナーが抵抗となり、収縮を抑える役目を果たしていました。尤も作られた当時はどこまで経年劣化対応だったのか疑問です。単に外からの衝撃を緩和するための物だったとも考えられます。ただ、ねじが硬くなるのを多少なりとも防いでいる事は確かでしょう。

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太いリングの裏側半分まで削ったところで、削りは一旦終了。

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一方こちらはキャップ本体に見えますが、これは継ぎ足し材用に轆轤にセットして、途中まで削ったエボナイトです。

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リングを仮付けし、それを載せる土台の合わせ具合を見ます。軽く押し込むぐらいのきつさを残します。文字が逆さになっているのが分かりますか? 本体側と逆だからです。

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今度はキャップ本体との合わせ具合を見ます。内部にインナーバンドも入れています。本番の接着の時は、インナーバンド表面と、リング土台の溝の両方に接着剤を塗布し、二重に安定させます。因みにオリジナルのリングは(後述のように)非接着です。

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接着乾燥後1日置いて、更に一番下の細いリング(糸輪)用の溝を彫りました。この時点で、まだ縁部分はストレートです。

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縁をオリジナル通りの形に削り(アール付け)、作った専用治具でリングを叩き込み(圧入)ました。さて見た目は完成ですが、この後内部(ねじから下)の内径調節をします。キャップを閉める際に胴軸をこすらずスムーズにするためと、胴軸の後ろ側に挿す際にも、ぐらつかず安定して収まるようにするためです。

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継ぎ足した部分とキャップ表面を磨いて完成。一緒に写っているのは、最初にカットしたオリジナルのキャップ縁と、交換した胴軸のコルクです。

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この修理の大変なところは、肉薄で接着箇所がほとんどないことです。その制約の中でも安定した修復を施さなければなりません。こればかりは、数をこなして身に染み込ませるのが一番みたいです。

PARKER 75 首軸リングの修理

パーカー75 の首軸からのインク漏れを直します。「書いていると、どうしても手がインクで汚れる」とお問い合わせがあった時、”ああ、後期のFRANCEモデルかな”と思ったら、意外や前~中期型のUSAモデルでした。パーカー75 は樹脂の首軸先端にメタルのリングが付いているのがデザイン上の特徴です。ここのリングがインクの腐食に割と弱く、亀裂(酷い場合は穴)を起こしてしまうケースが結構あります。コストダウンからかデザインの作りからか、後期型のFRANCEタイプにこの症状は集中します。ところが前述の通り、頑丈な(筈の)USAタイプでした。写真では最も目立つクラックが映っていますが、反対側にも2か所確認出来ました。

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リングを取り外した首軸本体。クラックが3か所もある上、メタルの材質は薄く、おまけにねじの力で取り付ける時再び傷口が開いてしまう事は明らかです。

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という事で、リングを作ってしまいます。材料はインクの酸に強いエボナイトを使います。ベース材に内ねじを切って、首軸を仮閉め。ねじの閉まり具合を調節します。ここはまず外す必要がない所ですから、きつめにします。因みに材料の一本線は、カットするために付けた印です。

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一応、削りが完成しました。左は取り外したオリジナルのリング。

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完全に出来上がったように見えますが、キャップとの合わせ=微調整という大切な作業が残っています。この万年筆は嵌合式で、パチンと嵌って留まる構造です。それはキャップ内部にあるバネの窪み個所と、リングの先端の微妙に広がった個所(ツバ)が上手く”抜けて”収まる構造です。ここのツバの外径がちょっとでも広いと閉まりが硬く(更に僅かに削る)、逆にちょっとでも削り過ぎるとカパカパに緩くなってアウト! 一から作り直しです。

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オリジナルと同じ感触でキャップを開け閉め出来る事を確認したら、修理完了です。因みに前述のFRANCEタイプはこちら☟

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ご参考までに真鍮で製作したリングが以下の2枚です。こちらの方が幾らか割高ですが、ご予算に応じてどちらでもお作り致します。

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パーカー75 の同じ症状の修理は、年に3件くらいは来ます。オリジナルのリングがインクの腐食に弱いと書いて、75をお使いの方は不安に思われるかも知れません。ですが、インクが固まったまま長期間放置せず、綺麗に水洗いしてから保管すれば充分長持ちします。またインクを入れてお使いの場合も、色が濃くなる前の頻度でインク補給をするかたまに水洗いをすればそう心配ないと思います。

 

クリップの矯正 Orobianco L'uniqus

多機能ペン(2色ボール・ペンシル)のクリップが開きすぎ、挟めなくなったという修理のご依頼です。オロビアンコというブランド。

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真横から見るとこんな感じ。何の事はないように見えますが、事はそう単純ではありません。クリップを曲げ戻して直そうにも、クリップが外れません。結果、元に戻せない状態です。お客さんによるとメーカーに問い合わせたところ、直すのではなくペンの上半分を総とっかえになるという返答を受けたとのことです。人から贈られて愛着がある1本故、それも嫌なので当工房に依頼されました。

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クリップを留めている蓋ねじ部分が、消しゴムを入れるコネクトパーツと一体になっています。確かにこれは難しいですね。ペンチで摘むにも、クリップの付け根が邪魔して上手く出来ません。ゴム板で回そうとしても、ビクともしませんでした。少し嫌な予感がしました。工具を上手く引っ掛けられないどころか、もしかして製造組立段階で接着されているかも知れないからです。

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考えた末、消しゴムが入っていた穴に金属棒をきつく噛ませて引っこ抜く方法で進めることにしました。ぴったりの芯棒がなかったので、近いサイズの真鍮を穴にぎっちり入るよう削りました。

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きつくセットして真鍮棒側、ペン本体側の両方にゴム板を当てて力いっぱい回そうとしました。けど、さっぱり効果がありませんでした。手でやるのを諦め、芯棒側を轆轤にチャッキングして、動力(モーター)を使わず足踏みでグッ、グッと少しずつ回したらやっと反応があり緩み始めました。車の運転で言えば、ロー(1速)で意図的にバッと飛び出す感じです。

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悪い予感は的中しました。外れたコネクトパーツの内ねじ部には、接着剤の跡がはっきり認められました。これでは、ちょっとやそっとでは外れない訳です。つまり最初から修理やメンテナンスを考えられていない作りだったんですね。それは別にこのペンに限った事ではなく、価格帯によってここをどうするか(製造・販売コスト上)微妙なのが実情のようです。個人的には、それでもいざと言う時のために、なるべく外せるように作って頂きたいものです。

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無事クリップの広がりを矯正し、外したパーツも締め直して修理完了です。当たり前の話ですが、クリップのバネの能力にも限度があります。皆様も愛用のペンのクリップを過信して、厚手の衣服のポケットなどに挟まないようにして下さい。”開いて戻らなくなった”なんてまだいい方で、最悪折れてしまう事も・・・。

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インク漏れ複数個所 Montblanc - Marcel Proust

モンブランの1999年発売の作家シリーズ、マルセル・プルーストの万年筆です。「過去に首軸が割れてインク漏れした物を、応急処置で表面に漆塗りして貰い、それが再びインク漏れするようになってしまいました。こことは別に後ろからのインク漏れもあります。」と言うのがご依頼の内容です。首軸くびれ全体が、鈍くざらついて見えるのが漆塗りされたと分かります。

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ところがお預かりした時点で、本来のクラック箇所とは別の、外ねじ部分から複数ひび割れ&漏れがありました。一旦インクを抜いて、水を吸入して確認した結果です。後に触れますが、後ろの尻軸側からのインク漏れも(お客さんの)ご説明通り確認出来ました。と言う訳でこれは大掛かりな修理になりそうです。一計を案じて、内部の構造を把握した上で「首軸製作・接着」、そして「吸入機構のガスケット外形調節、又は交換」という方法を採ります。

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首軸を切断(何だか嫌な表現だな・・・)すべく、芯棒にセットすると、漆塗りされる前のものらしきクラックが現れました。

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胴軸内部の樹脂と首軸は、一体成型のようです。

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エボナイトを首軸の形に削り、ねじ切り。もちろんこの間、キャップねじと何度も合わせながら行います。

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ペン先をソケットごと仮付けして、これまたねじの具合を見ていきます。

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今回拘ったのは、首軸の”より正確な”復元です。ご依頼のプルーストをお預かりした時、首軸の形に違和感を覚えました。とにかく漏れを喰い止めるため止むを得なかったのだろうと思いますが、漆がかなり厚く塗られたせいか、形がかなり違って見えました。その塗られる前のオリジナルの実物がないため、ネットで画像検索してあれこれ参考にしました。お客さんからは何も言われていませんでしたが、折角作るならなるたけ形もオリジナルと同じように再現したいという衝動に駆られました。と言う事情で、数値的にはどこまで正確に出来たかは分かりませんが。以上、余談でした。

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磨きを終えて、首軸が完成しました。

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ところが新たな問題発生! ・・・というか問題に気付きました。写真では省略しますが、ピストンのガスケットの外径調節をしても後ろからのインク漏れが止まりませんでした。十分な量を吸入するのに。変に思ったら、何とガスケットの脇からではなく、シルバーの外筒とプラスティックの内筒の間から漏れていたのです。これはガスケットより上のインクタンク部の樹脂部分に穴かひび割れが発生していた事を意味します。 ※写真は胴軸反対側の、吸入機構を取り外した状態です。水を排出(=ピストンを上に上げる)すると、こちらからみるみる水が染み出して来ます。この万年筆はインク窓が無いだけに、外観からは確認しようがありません。

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修理方法を変更して、シルバーの外筒のみを残して、内部の樹脂をすべて削り取ってしまいました。当然外筒と同じ長さ分の樹脂が接着されていた訳ですが、出て来た写真の樹脂は一部です。見事な穴が2か所は確認出来ました。

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折角作った首軸も破棄して、胴軸と首軸のすべてを一から作り直す羽目になってしまいました。一体ではなく、首と胴は別に作ってねじ+接着です。過去の記事でも買きましたが、難しいのは同じ形に作るよりも、吸入機構の正確なシーリングに対応出来るように仕上げる事です。

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シルバーの外筒を被せて、ようやく完成の実感が湧きました。ここで気を付けなければいけないのは、接着する位置です。オリジナル通り、"Marcel Proust" のサイン刻印とペン先表面が一直線上に来なければなりません。キャップのクリップ位置も同様です。

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尻軸キャップ受けのねじから下は、オリジナルパーツです。結論:漆は表面被膜になっても、少なくともインク漏れ防止の接着剤にはならないようです。

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インク止め式 コルク交換② 酒井軸バランス型

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前に旧規格のインク止め式万年筆の修理をご紹介しました。

hikkigukobo.hatenablog.com

今回はその時の予告通り、一般的なインク止め式のコルク交換の修理をご紹介します。モデルとなる依頼品は、酒井栄助氏(作)の最も代表的なバランス型黒塗り軸になります。エボナイトで削り出して、塗師による漆塗りが施されています。インク止め式の修理依頼の9割は、シーリングコルク劣化によるインク漏れです。

 ご覧のように、尾栓(尻軸)を開けると、中芯を介してインクが漏れ出し手が汚れてしまいます。通常、コルク室内部にあるコルクでインク漏れを防ぎます。ここが経年と摩耗によって抵抗が弱まり、遂にはインクを堰き止められなくなってしまいます。

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作業に入ります。まず初めに尻軸を外し、そして中芯を取り出します。

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中芯を外したら、コルク室の蓋を開けて、中のコルクを掻き出します。真ん中の黒く、ボロボロになった物が摩耗したコルクです。インクを吸って黒く変色しています。(つまりコルク室にコルクが入っているのが、普通のインク止め式です。コルク室がダミーでその先に特大コルクが入れられているのが、前回ご紹介の旧/別規格のインク止め式です。)

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ここからが従来の同じコルクを詰め替える方法とは違う、独自の交換作業になります。コルクの代わりにやはりOリングを使う訳ですが、最も近いサイズ(外径)でも、コルク室の内径Φ6.0mm(二分=にぶ)を超えて収まりません。そこで若干、削って内径を広げます。+0.2mmです。当然、元からの内ネジもさらってしまう事になります。

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内径広げ加工が終わったら、そのさらったネジを復元する意味でネジを切り直します。何のネジかって? コルク室のネジ蓋用です。

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そしてOリングを取り付けます。本体に押し込む前に、Oリングに潤滑油を塗布します。

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Oリングを奥まで押し込んだところ。テカテカ光っているのは、潤滑油です。

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前回のご説明と被りますが、スペーサーとネジ蓋一体の特殊な蓋を作ります。当然内径を広げているので、元の蓋は緩くてもう使えません。土管のような形の蓋表面に、マイナスドライバーの溝を設けます。通常規格のインク止め式は、高さ8-10mm程度あるコルクを入れて、残りの約2㎜はネジ蓋の厚さになります。先にコルクと一緒に取り外した元の蓋がそうです。つまりOリングを取り付けた後の、残りの深さに合わせて、このスペーサー一体の蓋を作る訳です。

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このOリングはコルクとは比べ物にならない程長く持つ筈なので、取り外すためのドライバー溝は要らないと思いますが、万が一の時のためです。ともあれ、ぴったり蓋が閉まりました。

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シーリングの作業が済んだら、今度は中芯を元通り取り付けます。写真は首軸を外した、胴軸上側から挿し込んでいるところです。

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先に埋めたOリングの中を通し、尾栓を取り付けます。ここは一発で終わらず、何度か尾栓との繋ぎを繰り返します。取り付けた尾栓と胴軸を回して閉める際、ちょうど中芯先端部が首軸の底穴に当たって止まる状態にする必要があるからです。中芯が長過ぎると、尾栓が完全に閉じる前に先に首軸(底)に当たって、胴軸と尾栓の間に隙間ができてしまいます。反対に中芯が短くて、首軸に中芯ヘッドが当たる前に尾栓が胴軸に閉じ切るとします。すると今度はインクを遮蔽できず、常にインクがペン芯側に回ってしまいます。これでは『インク止め』になりません。

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首軸・中芯・尾栓が丁度よい位置に収まったら、最後にインク代わりの水を胴軸に満タンに入れます。

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最後に”圧(あつ)”の試験を行います。首軸をきっちりと閉め、ペン先とペン芯を抜いた首穴を指で強く抑え、その状態で尾栓を抜き差しして何処からも水が漏れないかチェックします。Oリングでシーリングした個所はもちろん、首軸と胴軸の境目からも漏れては、失格です。万年筆を使っている途中で、手を汚すことになるからです。どちらからも漏れがない事を確認したら、ペン先とペン芯を取り付け・調整して修理は完了です。

以上がインク止め式のコルク交換作業の流れです。

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嵌合リングの製作① Waterman Lady Agathe

ウォーターマンのレディ アガサという一昔前の小型万年筆。カートリッジ交換で首軸を胴軸に取り付ける時、収まりが悪いとのご依頼です。

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それもその筈、本来ここには金属製の嵌合リングがある筈が見事にありません。1990年代のシリーズで、現在のウォーターマン&輸入代理店はパーツ製造終了の理由で、修理を受け付けないそうです。こういうケースで難しいのが、ここを製作しようにも見本となる現物がないこと。例え破損していても、普通はオリジナルの現物を見ながらその形通りに作る訳ですが、それも叶いません。それに何度か手掛けた事があるペンなら問題ありませんが、レディ アガサの修理は初めてでした。

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ちゃんと機能してくれれば、オリジナルと多少違っても構いませんという事で、お引き受けしました。早速古いカタログ写真やウェブサイト(感謝!)を参考にして形を確認し、製作に入ります。首軸と胴軸の外径から、ベース材がΦ10mmもあれば足ります。加工が容易で腐食しない真鍮材から削り出します。

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外形と寸法がオリジナルに大分近づいた(想像)ところで、削り終了です。

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ベース材から切り離したら、バリ取りを行います。

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首軸に仮付けして、胴軸に上手く収まるか、キャップの嵌り具合はどうかをチェックします。胴軸に捻じ込むと、違和感なくストッパーの機能を果たしてくれました。キャップの収まり具合も問題なしです。

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この後リングを一旦外して仕上げ研磨を行い、首軸を含めた全体を洗浄すれば完了です。今回は一部ジュエリー作りに近い作業でした。古いモンブランの嵌合式キャップのモデル等、この修理方法は結構応用が利きます。

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