魔改造のツケ インク止め式➡カートリッジ式➡インク止め式

カートリッジ式に改造された”元インク止め式”万年筆を、再びインク止め式に戻すという、文章にするとかなりややこしい(実際にも)作業を行いました。それも3本!

 

こちらの1本は作業経過をほとんど撮りませんでしたが、まずはご覧いただきましょう。

 

ご覧の通り、ヨーロッパタイプのカートリッジが装着されています。それも何とも形容しがたい無理やり感が見て取れますね。

 

カートリッジに直に取り付けられていたのは、どうやらプラチナが昔販売していた変換アダプターのようです。即ちプラチナ製万年筆に、ヨーロッパタイプのカートリッジが使えるというツールです。それを更に止め式の首軸に取り付けるべく、どこかのカートリッジの上をカットした物にアダプターを嵌め込み(これが割とピッタリ)、パテで首軸に固定されていました。幸い接着剤ではないため、ほとんどは指やへらでこすってパテの残滓を取り除けました。しかし痕が残っては商品にならないので、取れきれなかった残りは轆轤を使い刃物で削り取りました。

 

コルク室のパッキン(樹脂)を交換し、中芯を作って取り付ければ止め式の再生の完了です。


次は同じ改造をされた残り(同じ形の)2本の再生作業に入ります。詳細は先ほどの1本と同じですが、こちらは各工程の写真を撮りましたので、より分かりやすく解説ができます。これは酒井栄助氏作のバランス型。どちらも同じ改造を受けています。

[コルク室破壊痕]

止め式をご存知の方には、一見コルク室の固定リングとコルクを取り外しただけのように見えるかと・・・・・・。実際は雌ネジごと荒々しく削られ、大穴が貫通してしまってます。

 

[コルク室の再生]

ここを再生しないことには止め式に戻せません。そこで埋め込むエボナイト材の外径に合わせた内径に掘り進め、材料を接着して埋めます。

 

埋め込んだら材料カット。

 

ここからは止め式製作と同じ要領の作業になります。ヒラギリという刃物で、パッキンの外径に合わせた加工、そしてネジ切りを行います。

 

パッキンの取付け、スペーサー一体の留めリングの製作。

 

[尻軸(ナナコ)の再生]

これまた厄介! 中芯が取り外されているのは仕方ないとして(あればカートリッジのスペースなし)、この状態では中芯を取り付けられません。右はもげた中芯の残骸が残ったまま。

 

残骸のエボナイトを削り取り、そして中芯規格の左ネジ切りを行います。ネジ山が復活しているのが見えると思います。

 

[中芯作り]

工房秘蔵の新品の中芯です。ヘッドもネジもないプレーン状態の中芯の姿です♬

昔は中芯も専門の業者さんがいらっしゃいまして、それを各万年筆製作所やお店に数百本単位で売っていたのです。私はその当時を経験していないので、これは轆轤の師匠から聞いた話です。太さ1分(いちぶ)=約3.03mmのエボナイトの中に、ピアノ線が埋め込まれた物です。

 

(逆)ネジ切り、遮蔽ヘッド作り。

 

中芯の出来上がり。

 

再生した尻軸に中芯を取付け、閉め切った状態でヘッドが首軸の穴にぴったり当たるまで調整を繰り返します。

 

これで3本すべての改造万年筆が、再びインク止め式の姿に戻りました。


この3本はあるお店さんからのご依頼でして、折角仕入れてもあの魔改造状態ではなかなか売り物になりませんよね。ご尤も。
実は同様のカートリッジ(それもヨーロッパタイプ)式改造の個体を見たのは初めてではなく、過去にも2度ばかりありました。どうも愛好家の改造ではなく、一昔前の骨董屋の類の仕事だったように思います。或いは胴軸加工の一部は外注? ここまでご覧頂いて想像つくかと思いますが、この再生作業は、万年筆を半分作ってしまうぐらいの手間が掛かります。果たしてこれを修理と言えるのか、何だかモヤモヤします。余談ですがかなり前に、パーカー・デュオフォールド・ビッグレッド魔改造品を見た時はたまげました。あのボタンフィラーが、インク止め式にされていたのですから!
ともあれ、改造の痕跡が分からないぐらいには仕上げた積りです。無事に売れますように。