直すついでのカスタマイズ / Montblanc Oscar Wilde

オスカー・ワイルドの各パーツを使って、胴軸をエボナイトで作って欲しいというご依頼がありました。お預かり時の状態がコチラ。 ※吸入ユニットは弊所で取り外し

胴軸を作って付け替える作業の積りでおりましたが、実際はもっと大がかりな修理を前提としたカスタマイズになることが判明。ざっくり理由を説明しますと、この万年筆は首軸と(ペン先とペン芯を直に取り付ける)ソケットがない状態で、おまけに胴軸内部も著しく破損していました。つまりお話を頂いた時は、破損品とは思っていなかったのです。最も悩ましいのが、(紛失パーツのない)普通の破損品であれば現物を形・寸法見本に利用できますが、今回のようなケースでは想像で作らなければならないことです。

 

首軸はカタログやネット写真を元に形に起こし、胴軸、ソケット、インクタンク、ソケットも完成させました。ソケットもやはり想像で、いえ、機能優先の独自設計で作らざるを得ませんでした💦

作った各パーツ

 

インクタンク内面を研磨、吸入器を仮付けして吸入・排出のテストを済ませてから、胴軸に接着で取り付けます。胴軸と首軸も研磨仕上げを行います。

 

ソケット、首軸の順に組み立てます。

 

修理完了とともに、オスカー・ワイルドのブラック版が出来上がりました(^▽^)/。

 

オプティマ3本まとめて~ / AURORA OPTIMA

インクタンク破損のアウロラオプティマの修理依頼が3本も重なってしまったため、まとめてお直しした記録をご紹介します。

・マーレ(限定) Marle

・ジュエリーコレクション/シルバーキャップ(限定) Jewelry Collection  No.G11

・バーガンディ  Burgundy

破損個所は各々多少異なりますが、インクビューのクラック破損によるインク漏れという症状は一致しています。

 

マーレとバーガンディ。

 

ジュエリーコレクションもインク漏れがする上、更に首軸にも大きくクラックが入っていました。なお、過去にメーカー及び他業者による修理を受けているとのことですが、それが応急招致的なものだったのか再びインク滲出が起きたとのことです。

 

インクタンク全体を胴軸から取り外すための加工を行います。接着で作られているため、胴軸を壊さないよう、透明材のみを削る要領です。

 

首軸内部にもインクタンクの一部が残っているため、ねじを壊さないよう慎重に削り取ります。

 

インクタンクの製作。

 

同じ方法でバーガンディの胴軸を加工します。

 

出来上がったインクタンクに首軸と吸入部品を仮装着して、水で吸入・排出のテストを行います。

 

ジュエリーコレクションのみ、首軸の製作が必要でした。写真は完成したところで、傷取り&艶出し研磨前です。

 

困ったことに、(前の業者さんによって)ペン先とペン芯をセットするソケットが接着されていました。再利用するための取外しが出来ず、一部が分離破損してしまいました。已む無く、ソケットも作って対応しました。 ※写真下

 

左が破損したオリジナル、右が作った方でソケットは未装着。

 

胴軸からインクタンクを削り取りました。

 

出来上がったパーツ、インクタンクを仮付けした状態。

 

インクタンクをオリジナルに近い色に染色処理を行い、組み立てに入ります。ジュエリーコレクションのみ、少し色合いが異なりました。

 

修理完了! バーガンディはインクビューと首軸の間のリングがない(破損時の紛失?)ため、その厚みの分、インクタンクの寸法を長く作ってあります。

 

前述のように真ん中のジュエリーコレクションのみ、首軸もノンオリジナルとなります。


















 

 

ピストン式万年筆のシールパッキン製作

ピストン(回転)吸入式万年筆の故障で最も悩ましいのが、吸入不良や後ろからのインク漏れでしょう。インクを吸入・排出する原理は、注射器とほぼ同じ。シリンダー内のシーリング・パッキン、すなわちシールが胴軸内面にぴったり密着して一定の真空を生み出すことにより、安定したインクの吸入・保持が可能となります。しかしパッキンも摩擦による摩耗や材質の経年劣化といった理由で、いずれシーリングが機能しなくなるものです。またパッキンだけでなく、胴軸も材質によっては経年劣化を起こし変形してしまいます。これらが吸入不良やインク漏れの原因となります。

写真の万年筆は修理前のペリカン#100。インクビュー内の黒いシールが、ほぼ胴軸に接していない状態です。そのため、尾栓を回してピストンを上下させてもほとんど抵抗感がなく、全く吸入できません。

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ピストン式のパッキン交換修理の場合、当工房では主に2つの方法を採ります。1つは既成のシリコン製のOリングを使う方法。この方法が最も効率良く、修理費も割と低く抑えられるのですが、対応できないケースもたまにあります。それはピストンロッドがOリングを取り付けられないような形状だったり、取り付けるスペースがない場合です。初期のピストン式 (1930年代~) はどちらかというと、メーカーを問わず元々コルクシールの仕様で、Oリングで代用できる物がほとんど。対する、後年の非コルク製の成型されたシールのモデルは、Oリングで代用できない場合が少なくありません。その場合は別の方法、シールパッキンその物を作って対応することになります。写真左が取り外したゴム成型のオリジナル、右が今回作った代替品。これは切削するにはちょっと柔らかく、形に起こすのが難しいので見てくれは決して良くありません。しかしインク吸入・保持という機能が優先なため、そこは仕方ないですね。それでも一番手間が掛かり気を抜けないのが、胴軸内面に接する、つまり外径が一番広い箇所の最後の仕上げ。ここを丁寧に行わないと、ぴっちり接して抵抗感があるのに、隙間から後ろにインクが回ってしまうことになります。こうなるとやり直しはまず無理。また一から作り直さなければなりません。

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ピストンロッドに装着。

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胴軸に取り付けて、吸入・排出の操作ができる状態になりました。インクビュー内面に、シール外周がしっかり接していることがお分かりいただけますか? 補足しますと、逆にあまりピッタリし過ぎてもダメ。ピストンの動きが非常に硬くなり、吸入機構その物を痛めてしまう恐れがあります。最も難しいのが、滑らか且つインク漏れを起こさない程度の微調整とも言えます。

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金属製ペンシルの内軸再生 / Montblanc No.1586

修理対象品;モンブラン No.1586  1970年代 ノック式ペンシル 

芯 : 0.92mm

ボディ : 18Kホワイトゴールド無垢

 

キャップチューブを受ける胴軸側のガイドねじが破断してしまっています。

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こちらは今のところ機能していますが、キャップチューブ側の雌ねじも大きくクラックが入ってしまっています。

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キャップチューブ側

 

胴軸・キャップ側の両方の割れた樹脂部分の一部を再生し、オリジナルより丈夫な仕様にしてお直しします。

(胴軸)割れたガイド&ねじ部をカットし、更に数ミリ掘り込み、材料を埋め込みます。そしてオリジナルの形通りに削り、ペンシルユニットがガタつかずに収まるよう、内径も調節します。

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ねじ切りを終えたところ

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今度はキャップチューブ側の内軸を作ります。銀軸チューブ内の割れた樹脂を、ある深さまで削ってさらいます。胴軸側とは順序を変えまして、先にねじを含めた内軸を作り、後からキャップチューブに接着で埋め込みます。

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胴軸とのねじによる開閉具合を見ているところ

 

キャップチューブに埋め込み、こちらの内軸も完成。

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接着の乾燥後、すべてのパーツを元通り取付け、問題なく作動することを確認して修理完了となります。

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今回の破損例から筆記具にとって、如何に樹脂が大切かが分かります。万年筆、ボールペン、ペンシルとも樹脂、金属、趣味的な物では木材など様々な素材で作られた製品があることは周知の通り。しかしながら稼働パーツや部位によっては、まだまだ樹脂でなくては成り立たないのが現状です。

キャップが閉まらない / Delta Limited Edition Antiche Repubbliche Marinare

胴軸ねじ山の崩壊により、キャップが締められない状態の万年筆をお預かりしました。●デルタのレプブリケ・マリナーレf:id:hikkigukobo:20220306220951j:plain

 

2/3以上、ねじ山が剥がれ落ちているため、キャップのネジとは全く嚙み合いません。※太いOリングは、オリジナルにはなかった筈の物です。

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剥がれたネジの数破片は、ご依頼時に同封されていた物。これはデルタ独特の手法の一つですが、ねじ部分は別に削って作り、上から被せる形で接着されていました。ドルチェヴィータを含め、キャップの縁なども同様の工法でこれもまたよく割れてしまいます。オリジナル素材の割れやすさに加えて、2体構造の弱点が露呈した格好と言えそうです。

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寸法を測り、修理方法を決めて作業に入ります。まずはねじのあった凸部分をカットして、端面を整えます。そして雌ねじのある内部を8mmばかり彫り込み、これから作るパーツの接着しろを設ける訳です。

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割れた部分の代替パーツを作りました。後から色付けするため、透明樹脂から削りました。表面にキャップ受けの3条ねじ、そして内側は首軸を着脱するための1条ねじを切りました。

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首軸を仮装着(締め)。素材が透明なためかえって見辛いですが、表面の雄ネジより下は、ネジ無しの接着しろ。

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先ほど加工した胴軸に取付け、収まり具合を確認します。

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一旦取り外して、ボディ色に合わせた染色を行います。

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胴軸に接着取付けして、修理完了。

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ただ取り付けるのではなく、胴軸エンドにキャップを(こちらもねじ)締めて、クリップがペン先と一直線上の位置に来る所で接着・接合します。オリジナルと同じように、リング状にねじを作り、やはり同じ凸部表面に接着する方法もありましたが、強度面の将来的な不安から採用しませんでした。

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エンドビスの紛失で・・・・・・。 / Sailor 旧銘木万年筆

セーラーの(旧)銘木シリーズの万年筆で、胴軸のエンドビスが紛失してしまっています。メーカー側のパーツ在庫終了とのことで、ご相談を受けました。胴軸ボトムの本来ある筈のエンド部がありません。

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胴軸の底から: エンド部がないとポッカリと開いた穴がむき出しに・・・・・・。

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これは単に見栄えの問題ではなく、インナー軸と胴軸を中で固定する重要なパーツなため、このままではペンとして使うことが出来ません。実は私もこの状態を目にしたことは過去にもありまして、実際インク交換で首軸を外す際に、ビスとナットが緩んでやはり同じように外れてしまいました。きっと同じ経験をされた(持ち主の)方も少なくないと思います。

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ここは接着で済ませる訳にもゆかず、(パーツがない以上)同じパーツを作って対応するしかありません。同じモデルから取り外したエンドビスを見本に、製作作業に取り掛かります。写真左はオリジナル、右は真鍮材から削り出した、途中の物。ヘッドがまだ少し厚く、側面にテーパーを設けていません。

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仕上げを残してほぼ出来上がりました。 ※左の1個だけがオリジナルの見本

一見なんてことのないビスに見えますが、難しいのはネジ脚元の窪み。木の胴軸ボトムの、一段出た端面が収まるスペースです。旋盤では難しくないのかも知れませんが、手に切削刃物を持って削る轆轤ではやや無茶な作業でした。

ナットも作りました。いえ、正確にはこれも作るしかありませんでした💦 このネジに合う六角ナットはホームセンターで手に入ったのですが、問題は外径! 若干太いため、インナー軸に入れると途中で閊えてしまい、外から差し込んだエンドビスのネジ脚まで届かないのです。では届くようにネジ脚をもう少し長く作れば? そうすると今度はコンバーターが奥まで入らなくなってしまいます。オリジナルのビス&ナットが付いた正常な状態でも、中のコンバーターとナットとの距離は僅か1mmしかありません。因みにこのナットのサイズはΦ5.0, h=1.7mm。

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表面に金メッキを施して、ビスが出来上がりました(左の2個)。

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作ったエンドビス、ナットで胴軸とインナー軸を再び固定でき、本来の外観になりました。もちろん、首軸にコンバーターを付けて収まることは確認済です。

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パーツ製作見本用の同モデル(黒檀)と。

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全セルロースで胴軸を製作 / Montblanc L139G

モンブラン L139Gの胴軸の製作を依頼されました。キャップ&本体ともセルロイド製です。お預かりの点検の際、年式の割には胴軸の状態が良かったので、何故最初から製作を希望されるのかちょっと不思議でした。もちろん、破損していなくてもご依頼自体は自由ですが。

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吸入ユニットと胴軸の連結部。表側からも胴軸の一部が、僅かに退色しているのが見えます。

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テレスコープユニットを後ろから取り外した胴軸。写真では分かりづらいですが、小さなクラックが縦に無数ありました。これらのクラックが修理依頼の理由と納得。

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胴軸の製作に入ります。でもその前に、オリジナルのインクビューの色を把握する必要があります。長年のインク滓等の付着により、インクビューはほぼ真っ黒。まずは内面を研磨して洗浄、それでも滓は落ちません。已む無く少し削り、ようやく元の色が浮かび上がって確認することができました。これでも新品当時の色はより明るい感じだった筈で、そこも考慮に入れます。実物は赤でも赤茶でもなく、紅茶に近い色でした。

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素材的にオリジナルに近い透明、黒の各セルロース樹脂を削って作ります。仮装着の首軸はオリジナル。

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表裏を磨き、ピストンシール交換を終えた吸入ユニットを取り付けて吸入・排出の試験を行います。

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一旦インクビューの透明部分だけを取外し、染色を行います。上のネジ部分も今度は黒く染色して、ようやく胴軸が完成しました。この辺りややこしいので整理しますと、インクビューの下が元からの黒いセルロース、上の外ネジは黒く染色した部分になります。※下は破損したオリジナルの胴軸

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後は染色したセルロース樹脂の膨張が収縮するまで、(乾燥のため)丸一日置きます。首軸、吸入ユニットのすべてのパーツを取り付けて、修理が完了しました。

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特にテレスコープ吸入部の外枠&尾栓と合わせて、作った胴軸が同化して見えるのが黒セルロースの特徴です。

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以前はインクビューに透明アクリル+染色、それ以外をエボナイトで作っていました。その後ひび割れ等の諸事情でアクリルを廃止、透明セルロース&染色+エボナイトに切り替えました。機能的にはそれで対応出来ていた訳ですが、すべてセルロース材にすることで、よりオリジナルの雰囲気を活かした修理対応に辿り着けました。見た目だけではなく、実際に手で触れても、素材の持つ保湿性も手伝ってオリジナルとほぼ同じ質感も再現できました。

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