万年筆の胴軸ねじ再生 / PILOT CUSTOM LEGANCE 2

胴軸のねじ受けの痛みが進行し、首軸もキャップも固定出来ない万年筆の修理を依頼されました。パイロット カスタムレガンス2というモデルです。

 

ねじ表面を垂直に大きな亀裂が! 他、ねじ山を含む樹脂全体が収縮してしまっています。接着では機能的なお直しができないため、柄の本体を活かしつつねじ部分だけを作って対応することにしました。

 

轆轤で慎重に少しずつ削り込んだところ、抜けるように黒いねじの樹脂全体が綺麗に外れました。これは決して接合が甘い訳ではなく、如何に回転+切削の力が強いかを証明しているようなもの。レガンス、レガンス2とも素材と構造は同じようですが、外れ方はケースバイケースです。

 

新にエボナイトを削って代用の取付け口を拵えます。削りの段階で首軸とキャップ双方の、ねじの噛み具合を確認しながら作業を進めます。

 

接着・固定が終わり、修理完了です。

 

余談ですが、ペン先・ペン芯がない状態でのお預かりでした。

カートリッジ式万年筆 インクが出ない意外な原因

「インクが出ない」というご相談の万年筆をお預かりしました。一口にインクが出ないと言っても、ご存知様々な要因がありますよね。カートリッジ式の場合は、単純にインク詰りやペン先の変形、ペン芯との乖離などでしょうか。後日現物を目にすると、セーラーの少し古い14Kペン先のスタンダードタイプ(1970年代)でした。

写真は一昔前の国産万年筆”あるある状態”で、ねじコネクタが胴軸側へ持って行かれてます。本来コネクタは首軸側になければなりません。ま、これでも使えますが。以上余談でした。

 

さてカートリッジを取り外すと、何とポリ容器の栓が開いておらず、代わりに細かい樹脂片がバラバラと。これを見た時点で、原因のすべてが分かりました。即ちカートリッジ容器の栓を突き破る、穿刺チューブ(ヤリ)が破損しているため、インクが元から供給されない訳です。これは予想以上に厄介な状態でした。

 

当初は穿刺チューブだけを作って、ねじ一体の本体に取り付ける方法も検討しました。しかしそれは無理と判断、結局同じパーツ全体を作ることで対処することにしました。

※写真はエボナイトを削って、9割がた完成した物

 

反対側から。凸型の端面はOリング状のラバーブッシュの取付け口になります。後で壊れたオリジナルパーツから付け替えます。

 

破損したオリジナルと。何かが足りません。そう、工具の溝(2ヵ所)がまだです。

 

溝を設けて完成。左側に前述のラバーブッシュを取り付けました。

 

セーラーのカートリッジを仮装着。

 

今度は首軸にペン先、ペン芯と共に取り付けます。穿刺チューブの中に、ペン芯の細管が収まりました。カートリッジの栓を穿刺チューブで突き破り、インクが細管を通じてペン先に至ります。

 

インクがペン先まで届き、筆記できるところまで確認して修理完了となります。

 

因みにこのカートリッジ装着部品、同じメーカーでデザインも似て年式が近ければ互換性がありそうなものですが、なかなか合わないのが泣き所。少しでもペン先や軸の太さが違うと、見た目はほぼ同じでも使えません。ショートサイズを含め、あくまで種類が多かった1980年代以前のモデルの話ですが、それはパイロットでもプラチナでも同じことが言えます。

口金がないと その2 / Sailor 80周年記念

前回に続き、口金作りの修理をご紹介します。今回はボールペン。セーラー80周年記念ブライヤー軸で、万年筆をメインに一緒に発売されました。

 

(依頼主さまは)最初から口金がない状態で入手されたとか。書けないでもないですが、穴が大きい為リフィルが上下左右に踊ってしまい、とても使えたものではありません。それにこの類の趣味的で高級なペンは、デザインあってこその楽しみですね。

客観的に見ても、この状態で特に先端部分からブライヤーにひび割れ等がなくて本当に良かったと思います。

 

口金を復元するにあたり、本来の寸法や胴軸側に取り付ける位置、内外径やねじの規格を元に設計を行います。オリジナルの口金がないので、想像と計算を掛け合わせて。モデルが分かっている以上、オリジナル状態はどんな感じなのか、カタログ写真やネット検索で調べます。見本が無い状況では、いつもそうしています。この仕事でも本当にネット画像にはお世話になっています(笑)。

 

口金作りの作業に入りました。前回のエヴァーシャープと同じく、真鍮棒から削り出します。

 

雌ネジを切り、途中ペン本体のネジと噛み合わせて丁度良い締め具合になるまで微調整を繰り返します。

 

ネジの調整が終わったら、一旦前後を逆に付け替えて、表面の削りの仕上げまでもって行きます。

 

口金が出来上がりました。でも形にはなりましたが、これで完全な完成という訳ではありません。研磨と表面のメッキ加工が待っています。

 

金メッキ&研磨で仕上げを行い、これで完成・修理が完了しました。

メッキがけの前に、芯の出し入れや実際に筆記して機能的に問題ないことを確認してあります。見た目の質感等は完全にオリジナル通りとは参りません💦が。それでも機能面では決して劣ることなく、長く安心して使っていただけるものと信じています。

 

口金がないと....../ Eversharp 繰出し式ペンシル

アンティーク繰出し式ペンシルの修理依頼がありました。エバーシャープ(アメリカ)製1920年代の14金張りで、ボディはとても良い状態です。”回しても芯が出ない”とのこおtでしたが、お預かりして点検すると、繰出し機構自体は機能していました。ところが何か変。

 

芯を挿し込む側が異様に広く不安定に感じたら、本体の一部であるはずの口金がありませんでした。つまり依頼者様は口金を紛失した状態のペンシルを入手されたことになります。口金がないと、芯を装着させて書くことができません。

 

これがない以上は部品の入手か、こちらで作るしかありません。作るといっても、手掛けたことのないモデルとなりますと、本体側の構造を見ながら且つ機能するよう半ば想像でかたちに起こすしかないのが実情です。この時代の繰出し式ペンシルの口金は、見た目はどのメーカーも大体似たような物でその点はさほど問題ではありません。問題は本体と取り付けるねじが内か外か? 内外径は? ねじピッチは? 等の諸々が皆異なる点です。ともあれ、胴軸側を精査して製作可能かを実際に樹脂を削ってシュミレーションを行いました。

 

漸く口金の構造がある程度把握できたら、真鍮でパーツ作りの作業に掛かります。今回、ピッチ0.35ミリで内径までぴったりのダイスが工房にあったのが幸いでした。下の写真は胴軸側に収まるねじを切り終えたところ。

 

胴軸を噛み合わせて、ぴったり合うことを確認。次に先端形状の削りに掛かります。

 

胴軸に取り付けた状態での削りは、本体を傷付けてしまうので、”持たせる”治具エボナイトで作ってから削りに入ります。形はほぼ整いました。

 

胴軸に取り付けて、見た目が自然な感じに合うまで削り・付け外しを繰り返します。形が仕上がったら、研磨スポンジとバフ掛けで仕上げます。

 

1.18mm芯を装着して安定して繰出し・収納できることを確認し、口金が完成しました。

 

オリジナルの口金は銀色だったため、それに合わせて鍍金します。口金が銀色なのは、この当時ウォーターマンでもパーカーでもあらゆるメーカーのセオリー通りですが・・・・・・。 ※さらに昔のモデルは独立した口金のない、胴軸が一体構造の物もありました。

 

これにて修理完了。実物とネットやカタログ写真等の資料で見て想像して作る要素がほとんどですが、実際に形に起こせても芯穴の内径調整も気の使う作業でした。芯のとおりがきつきつにならず、反対に緩すぎ(てしまうと筆記が不安定になってしまいます)にならないよう、微調整が必須でした。これはボールペンの口金作りより、微調整に時間を要します。

 

 

 

 

回転ノブ破損 / Pelikan 520NN

ピストン式の回転ノブ、正確には回転ノブのインナー側が亀裂破損してしまった万年筆の修理を依頼されました。ペリカン No.520NN(1950年代)で、ベースの400NNのボディ全体に金張りされた仕様になります。写真のように胴軸/キャップだけでなく、回転ノブも樹脂インナーと金張りカバーの二重構造で、カバーが外れてしまう上に樹脂が割れていました。この状態ではノブを回しても、カバーとインナーが空回りしてしまうため、ピストンが作動せずインクの吸入・排出を行えません。

 

修理に取り掛かる前の点検で、インナーはさらに崩壊が進んでしまい、もはや接着でのお直しは不可と判断。本体をはじめ、他のパーツは特に破損や不具合が見られないので、破損部分の代替部品を作ればお直しできそうです。

 

使う材料はいつものエボナイト。丈夫で耐久性があるのが、これを使う一番の理由です。

 

オリジナルと同じ内寸に加工、内ねじを切り、さらに後ほど取り付ける螺旋ロッドと連結する穴を設け、内部が出来上がりました。写真はオリジナルのジョイント(左)と、ねじで噛み合わせた状態。左端面側の穴からピストンロッドが収まります。作った右側をこれより丸く削ります。

 

金張りのカバーがぴったりと収まるように、外側を削っていきます。

 

まだ完全には収まっていませんね。このように被せて削って、また被せて削ってを繰り返します。

 

カバーがぴったり収まり、インナーが完成しました。接着ではなく圧入するやり方です。治具を使ってインナー側を強く引っ張っても簡単には抜けないところまでテストします。

 

螺旋ロッドを圧入で取り付けました。ここで重要なのが、その加重がオリジナルとほぼ同じレベルまで持って行くこと。平たくいえば、機能上簡単に抜けないようにすることですね。

 

ピストンロッドを取付け、本来のユニットの姿になりました。

 

胴軸に取り付けて、吸入・排出のテストを済ませて修理が完了しました。単に機能面の回復だけではなく、動作に違和感を感じさせないことを特に気を付けています。ねじの切り方が正確でなかったり、内部の削りが狂うと、スムーズさに欠けてしまいます。

さて今回の亀裂破損ですが、デザイン上の元となる400NNが樹脂一体であるのに対し、520NNは前述のように樹脂と金属カバーの二重構造。ということは内径も外径も400NNと同じである以上、インナーの樹脂はかなり薄くせざるを得ないので、強度は落ちてしまう訳です。外からの衝撃はカバーで守られていても、経年の収縮劣化にはやはり不利です。それが結果的にエボナイト製に変わって、強度も上げることができました。

 

三重構造の胴軸を持つ万年筆 セミラミス / Montblanc Semiramis

モンブラン パトロンシリーズのセミラミス(1996年発売)の万年筆をお直ししました。破損は2ヵ所。胴軸と首軸が破断、そしてキャップトップ(天冠)も破損。その天冠樹脂部分にいたっては、破片すら無い状態でした。ばらばらになってしまったため、メーカーでのパーツ交換を見越して廃棄してしまったとのこと。

 

真っ二つに折れた胴軸/首軸の破断面同士。

 

修理作業に入るため、吸入機構や胴軸の透かし彫りカバーを取り外しました。現れたのは金属と樹脂のインナー。つまり本体は透かし彫りの外筒、金属&樹脂の胴軸の3重構造! この複雑な構造と外側が重い金属ゆえ、当然落下や当たりなどの衝撃では(最も柔らかい)樹脂のインナー軸に一気に負荷がかかることになります。

 

首軸一体型のインナー軸を作ります。堅牢と耐久性を考慮し、使う材料はエボナイト

 

首軸一体型インナーの完成。下は破断したオリジナルで、金属軸から取り外した物になります。分離破損していたとはいえ、ここまで持って来れたから正確な寸法を採寸(図面作成)して、代替部品を作ることができた訳です。

 

先ほど拵えたインナーとオリジナルの金属筒を取付け、胴軸が完成。破損する前の(透かし彫り筒を外した)胴軸と同じ姿です。雄ねじから上がエボナイト、ネジから下が表面を塗装してマット仕上げされた金属になります。

 

次に失われた天冠の再生作業に入ります。今回は同じ見本や図面がない以上、寸法はキャップのサイズやオリジナルの写真を元に想像で作らざるを得ませんでした。ただ樹脂の天冠がないのは仕方ないとして、ねじとブッシュが残っていたのが幸いでした。

 

天冠が完成しました。ネジ受けのブッシュが、接着なしで抜けない程度の内径調整に手間取りました。脇の半円状のスペースは、キャップチューブ上部の突起受けで、これによりクリップの上に装着しても回りません。

 

作った天冠にねじ受け(ブッシュ)を埋め込みます。

 

クリップと透かし彫り装飾のカバー等を取り付け、最後に下からねじ留めしてすべてのパーツを固定して、キャップの修理も完了。残念ながらホワイトスターは無しです。

 

インク吸入の試験を終えて修理完了。これで普通にお使いいただけます。破損した樹脂はすべてエボナイトを削って再現したため、再び同程度の衝撃を受けてもポッキリ折れることはないでしょう。とはいえ、取り扱いにはくれぐれもご注意を!











接着補修での対応 / Montblanc Meisterstück 164

床に落として胴軸が割れてしまったボールペン『モンブラン マイスターシュテュック164』を接着でお直ししました。口金より少し上、プラスティックの先端部分が真っ二つに分離してしまっています。

 

今回は傷口が綺麗で、接着補修で充分と判断しました。

 

表面に盛り上がって見えるのは、傷口を覆うようにはみ出た接着剤が固まったもの。

 

乾燥して完全に固着した後、全体を研磨して接着補修痕を目立たなくします。もちろん、はみ出た接着材も綺麗に除去することも含まれます。作業台の上に載せて、耐水ペーパー等を使って手でゴシゴシ磨くやり方もありますが、形によっては轆轤にセットして動力回転を利用して研磨します。部分研磨ではなくほぼ全体研磨になりますが、この方がムラの少ない仕上がりになります。

 

ペーパー研磨の後、2種類のバフ(粗がけ&仕上げ)をかけて仕上げます。

 

すべての部品を取り付けて、修理が終わりました。

 

接着痕は僅かに残りますが、実用上問題ないレベルまで持っていけました。

過去のブログ記事から、どうもウチは修理と言えばボディパーツを作ることがメインのように思われているフシもありましたが、実際は今回のように接着での対応がほとんどなのです。確かにブログ上では部品製作の方が、”絵”になりますが(笑)。まあ接着で直せるなら、その方が修理費もずっと安く抑えられることが主な理由ですが、破損の程度や箇所によっては接着補修でも十分実用に耐えるケースも少なくありません。