エバーシャープのプランジャー式修理 / EVERSHARP Doric

今回はオノトとは別のプランジャー式万年筆の修理をご紹介します。アメリカのエバーシャープ・ドリックの修理依頼が2件も重なったため、採り上げることにしました。ドリックにはレバー式とプランジャー式の2つの吸入方式がありましたが、後者の方が生産数が少なかったため、修理依頼の頻度もまれです。

吸入不良の原因は、やはりオノトとほぼ同じでプランジャーディスクとシーリングパッキンの破損や消耗になります。しかしながらこのドリックはさらに修理の難易度が高い万年筆で、消耗品の交換をするにも、エラく手間がかかります。それはシーリングパッキンがオノトやインク止め式のように、プランジャーロッドを外した表側からは行えず、ユニット自体を胴軸から取り外して反対側から取り付ける構造になっています。その上、ユニットがネジ+シェラック塗布により半接着されているため、取外し時にパッキンユニットを割ってしまうリスクが高いことも難しい理由です。

 

まず、プランジャーロッド一式を尾栓から取り外し、胴軸本体から引き抜きます。

 

ここが最も難しい、パッキンユニットの取外し。エバーシャープのマニュアルには長時間水に浸け、加熱で少しずつネジ固着が解けるまで繰り返す、とあります。ネジ回す際に、ユニット外側をペンチ等で少しでも強く掴むとユニットを割ってしまう恐れがあります。当工房では治具を作って、ユニット側面を圧入させるやり方にしています。因みにここは左ネジで、これを知らないとセルロイドの胴軸まで割ってしまいます! 写真はユニットが胴軸から外れたところ。この成功率は経験上6~7割ぐらいでしょうか?

 

取り外したユニットの反対(胴軸内部)側。この蓋の中に摩耗したシールが入っています。

 

ネジ溝に残ったシェラック滓を、ネジ切りの要領で削り取ります。

 

もう1本の万年筆も同じ方法で分解していきます。

 

作業の写真を省きましたが、右の軸はユニットがついに外れなかったため、パッキンユニット製作の前提で已む無く削り取ってしまいました。もちろん、ネジ山は慎重に残してあります。

 

パッキンユニット(左)を新たに作りました。右は取り外したオリジナル。内部に蓋のネジ、そして尾栓内のネジ受けも設けてあります。この小さなパーツは見た目以上に加工が多くて骨が折れます。

 

蓋に溝を設け、将来のメンテナンスのために胴軸内部からマイナスドライバーで付け外しが出来るようにしてあります。

 

胴軸への取付け。シェラックは使わず、代わりにネジ山にシーリング材を塗布してあります。取外し前程ではないにせよ、簡単には外れないぐらいの硬さにネジを切ってあります。

 

(1本のペンの)プランジャーヘッドを止める首軸のピンが折れかかっていたため、こちらも新たに作って取り付けました。

 

プランジャーディスクを作って取付けます。

 

そして、ディスクを交換したプランジャーロッドを取付けます。

 

ブッシュの取付け。

 

吸入・排出のテストを行い、修理完了となります。

 

近年の復刻を除き、プランジャー式はやや少数派で、前述のように修理依頼で最も多いのはオノトです。オノト以外ではパイロット、今回のエバーシャープかシェーファートライアンフのVac Fill ぐらいでしょうか。戦前のアメリカの2社がプランジャー式を採用していた点は、とても興味深いですね。