『プランジャーロッド製作』 ピン用の材料導入で作業性アップ / Onoto

オノト・プランジャー式万年筆の修理依頼は割と多く、過去何度かご紹介しました。今回はプランジャーロッド製作過程の補足と、クロスピンについて触れます。

初期モデルとそのモデルチェンジ版であるストリームラインの2本を同時にお直ししました。まずはシリンダー形の初期モデルから。ご依頼内容は単純に吸入不良で、普通に使えるようにすること。

Onoto ブランドとしては初期のモデル

 

プランジャーロッドを取外し、内部すべてのパーツを分解して点検しました。するとロッドがクロスピン穴の所で分断された状態でした。これもよくあるパターンです。継ぎ足して直す訳にもいかないので、ロッドを新たに作って対応します。

 

インク止め式と共通の専用材料からカット。φ3.05のエボナイトの内部に、φ1.0のピアノ線が入っています。

 

この材料(ノンオリジナル)は特にピアノ線が接着されている訳ではないため、ずらして鉄芯のないスペースを設けられます。それを行う理由は、クロスピン用の横穴を貫通させるには、鉄芯があるとまず穴開けはできません。オノトオリジナルのロッドも鉄芯入りですが、ピン穴付近だけエボナイトの無垢です。

 

ピアノ線を3mmほどずらし、その長さ分の細い穴(=空間)ができました。

 

その穴を埋めるべく、まずφ2.0mmの太さで内径を広げます。

 

 

次に、φ2.0mmのエボナイトを埋め込みます。

 

カットして端面を綺麗に削ります。この端面だけ、尾栓から見えることになります。これで横穴を空けられます。

 

特注のダイスで左ネジ切り。

 

破損していないオリジナル(左)と。製作中のロッドも、この段階では横穴が開いていません。

 

穴空け加工後(左)。

 

次にロッドの反対側、つまりプランジャーユニットを取り付ける側に、ストッパーを作って取り付けます。

 

頼もしい味方、クロスピン用のエボナイト丸棒の登場!

外注でφ2.0の材料から、オノトの規格と同じφ1.2mmに外径を落として貰った物です。従来はφ4~5mmの材料から、ピンの長さ分だけ削って作っていました。この細さで僅か数ミリとはいえ、ピンを作るのはかなり労力の要る作業です。削りの途中で、折れてしまったり、或いは真っすぐにならない等の失敗も結構ありました。それにちょっとでも削り過ぎると、穴に入れてもスカスカで固定できなくなってしまいます。

 

取付け完了。端面真ん中は、先ほどエボナイトを埋めて削ってロッドの端面です。ご覧の通り、ここだけ見えるから仕上げも気を抜けない訳です。

 

2本目は、ストリームライン。こちらはプランジャーロッドが最初からない個体でした。

 

分解して見ると、シリコンやゴムのシールパッキンが出て来ました。これは割と最近の修理を受けていた証拠ですね。

 

プランジャーロッド製作の過程は同じなので、省きます。こちらも新品のクロスピンを使いました。なお、プランジャーディスクを取り付けるボディのネジが一部破損していたので、代替パーツを作る必要があります。

 

右が手持ちのオリジナル(見本用)。左が作った方のボディです。

 

いずれも新品のクロスピンとロッド端面が見えます。

 

基本的な修理方法やパーツ製作はこれまでと同じですが、クロスピンをゼロから作る必要が無くなり、本当に修理の効率が上がりました。うちの場合、オノトの修理で最も時間を取られる工程はピン作りだったといえるかも知れません。余談ですが近年ピンのパーツはイギリスの業者から買うことができます。以前お客さんから、その代用ピンを一緒にお預かりして使ったことがありますが、材料自体は現在のプラスティックでした。