複雑な製図用シャープペンシルの修理 / ぺんてる メカニカMEC Pentel

ちょっと複雑な機構を持つ、珍しい製図用シャープペンシルの修理を依頼されました。ぺんてるの1960年代のメカニカMECというモデルです。修理のご依頼内容は2点。

①ノックが作動しない、つまり芯が出ない

②ペン先を保護するパイプが正常に動かない

 

下は修理後の写真ですが、お預かりした時はこのような状態でした。芯を出すガイドパイプを隠した(保護した)まま、ビクとも動きません。私も初めて触れるペンシル故、故障云々の前にどのように機能するのかさえ、最初は正に手探りでした。本来は格子溝の付いたグリップを回して、太いパイプを収納して口金を表に出す構造までは分かりました。しかし何が原因で、これらのパーツが固着して作動しないのか、それをつきとめなければ修理に入れません。

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慎重にグリップから順番に外し、中のスライドパイプやガイド部を弄っている内に胴軸が真っ二つに分離してしまいました!

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破断面を見ると傷口がピッタリとは合わず、接着した痕が見られました。元々このように破損した物を接着してしまった為に、すべてのパーツが作動しないことが判明。また、後軸内に収まるノックボタンから前軸までを繋ぐ長い芯タンクも、一緒に接着されていました。これではノック式ペンシルの基本動作、そしてガイドパイプを繰り出し・収納するパーツ類も操作できる筈がありません。少なくとも接着で諸々が機能するように直すのはまず不可能。色々検討した結果、土台となる樹脂の前軸をそっくり同じに作り、且つ後軸に固定して、すべてのパーツを元通り取り付けることにしました。この時点で”機能する”までに再現出来るかは確証がありませんでした。

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前軸を残らず削り取って、現れたノックメカの心臓部。製造時の成型固着らしく、取り外せなかったのでこうするしかありませんでした。(置いた)位置が左右逆転していますが、左側が先端部、口金との接続部分になります。

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オリジナルの作りとは異なりますが、これから作る前軸としっかり固定するため、後軸の破断面を綺麗に削って整え、ネジを切りました。

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前軸の土台が完成。こちらも後軸と安定して固定させるためのネジを切っています。表面の段やテーパー付けに、結構時間が掛かりました。ガイドや保護カバーがぴったり取り付けられるように、何度もメタルパーツを合わせては微調整を繰り返す必要がありました。例えばテーパーの角度がほんの少し緩いだけで、金具が奥まで入ってくれない、と言う具合に。

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チャック等を内蔵するメカ本体の取付け。

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後軸と接合して、各パーツを取り付けていきます。凹み打痕のあるガイド部は、作った前軸にも凹みを設けてかしめて固定。シャー芯が出ているのが分かりますね。写真と説明は省きますが、この間ノック機構の修理は終えています。

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グリップ取付け。

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グリップを回して保護カバーが作動しました。

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この類の機能・構造を把握しながらの切削加工修理は、何よりも元のパーツや状態を図面に起こす事が大変重要です。図面を作って、初めて壊すことを含む加工の作業に入れる訳です。破損していない同じ物が見本としてあれば別ですが。

破損の状態にもよりますが、今回のような破断面同士の傷口が合わない例は、再現する本来の長さが分からないのが厄介なところです。

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