アンティーク材料からの削り出し / DUNHILL NAMIKI

お馴染みさんのダンヒルナミキコレクター(外国人)から、今回もオリジナルを見本にキャップ製作を依頼されました。

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写真はお客さんが入手した当時の万年筆の写真ですが、キャップ側が少し変なのがお分かり頂けると思います。破損したであろう、リングトップの金具から下が、同じオレンジ系の別素材で継ぎ足されています。この材料が何かは分かりません。因みに入手先は日本じゃなく海外とか。

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おまけに、大きく目立つクラックがあります。普通、昔の蒔絵万年筆はエボナイトの表面に蒔絵を塗られて作られます。しかしこの万年筆は橙色の漆ベース+蒔絵なのではなく、橙色のエボナイトから削られて作られた作品です。依頼を受けた時は、てっきりいつものようにエボナイトで作って、後はご本人がオリジナルの色+蒔絵を塗師に依頼するものと思っていました。ところがそれは嫌で、キャップも胴軸と同じくオレンジエボナイトベースで復活させたいとのことでした。現在オリジナルと全く同じ色のエボナイト棒材の入手は(製造されていない)出来ないので、やはりそっくりな色の同じオレンジエボナイトで作られたパーカー デュオフォールドJr.(1920年代)の胴軸を削って再現することになりました。尤も老舗パーカーが最初で、PILOTに限らず世界の各メーカーが次々に追随するかたちでこのカラーエボナイトを採用したに過ぎませんが・・・・・・。

 

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寸法取り等の見本となるのが改造を受けた方のキャップではなく、同じお客さん所有の同モデルのキャップ(リングトップ土台無し)です。当たり前ですが、同じダンヒルナミキのほぼ同じモデルなのでニコイチでも胴軸と並べて違和感はありません。

 

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そして前述のベース材料となる、破損したデュオフォールド・オレンジの胴軸です。表面に刻印がありますが、このダンヒルナミキはやや小柄なので、同じサイズに削れば刻印も消えてしまう計算です。実はこの作業、アンティークのセルロイドかそれ以上に、削り途中で破損するリスクが高く、成功の確率は約50%。何故なら、色の明るい単色エボナイトは新品でも脆く、割れやすいのです。それに経年が加われば尚更です。ご存知ビッグレッドのような割と大柄で肉厚の軸でも、今見るのは胴軸のネジやキャップ表面が割れている物がとても多いのが何よりの証拠ですね。

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割り型にセットして、削りの作業に入ります。

 

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材料の脆さ故、普通の製作とは手順を変えて、先に内径削り、ネジ切りを行います。外径を削った後で、内側をやるとパリッと割れてしまいます。これはセルロイドで同じ作業をする場合も同じことが言えます。

 

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受けネジを切り終え、胴軸との装着=締り具合を確認。それが済んだら、今度は外径削りを行います。

 

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これも手順を変えて、キャップスリーヴに負担のかかる金輪の取付けをこの時点で行います。

 

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一番難しい、オリジナルと同じ寸法まで外側の削りが終わり、若干の余白を残して切り落とします。そしてリングトップ金具の取付けスペースを設け、オリジナルと同じ位置・内径で空気穴を4か所空けます。

 

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表面を磨いて胴軸に取り付けて完成しました。組み合わせて見て初めて、オリジナルの材料がパーカー・デュオフォールドとは思えないほど合っていたので、やれやれです。余談ですが、この作業は3度目で成功したことになります。1度目は昨夏に行い、削り途中でクラックが発生して、替えの材料がないので一旦中断。数か月後の今回、お客さん自身で数本のパーカー・デュオフォールドのジャンク品を持ち込まれました。その時も1本失敗、続けて2本目(3度目)が今回の成功となりました。つまり今回同じ日に面前で2回製作した訳です。繰り返しますが、予備を含めた材料をご用意いただいたこと、当工房に同じサイズのテーパ金輪の在庫があったこと、そして数か月に渡るコレクターであるお客さんの熱意で完成に至ったと思います。