インク止め式 コルク交換② 酒井軸バランス型

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前に旧規格のインク止め式万年筆の修理をご紹介しました。

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今回はその時の予告通り、一般的なインク止め式のコルク交換の修理をご紹介します。モデルとなる依頼品は、酒井栄助氏(作)の最も代表的なバランス型黒塗り軸になります。エボナイトで削り出して、塗師による漆塗りが施されています。インク止め式の修理依頼の9割は、シーリングコルク劣化によるインク漏れです。

 ご覧のように、尾栓(尻軸)を開けると、中芯を介してインクが漏れ出し手が汚れてしまいます。通常、コルク室内部にあるコルクでインク漏れを防ぎます。ここが経年と摩耗によって抵抗が弱まり、遂にはインクを堰き止められなくなってしまいます。

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作業に入ります。まず初めに尻軸を外し、そして中芯を取り出します。

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中芯を外したら、コルク室の蓋を開けて、中のコルクを掻き出します。真ん中の黒く、ボロボロになった物が摩耗したコルクです。インクを吸って黒く変色しています。(つまりコルク室にコルクが入っているのが、普通のインク止め式です。コルク室がダミーでその先に特大コルクが入れられているのが、前回ご紹介の旧/別規格のインク止め式です。)

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ここからが従来の同じコルクを詰め替える方法とは違う、独自の交換作業になります。コルクの代わりにやはりOリングを使う訳ですが、最も近いサイズ(外径)でも、コルク室の内径Φ6.0mm(二分=にぶ)を超えて収まりません。そこで若干、削って内径を広げます。+0.2mmです。当然、元からの内ネジもさらってしまう事になります。

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内径広げ加工が終わったら、そのさらったネジを復元する意味でネジを切り直します。何のネジかって? コルク室のネジ蓋用です。

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そしてOリングを取り付けます。本体に押し込む前に、Oリングに潤滑油を塗布します。

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Oリングを奥まで押し込んだところ。テカテカ光っているのは、潤滑油です。

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前回のご説明と被りますが、スペーサーとネジ蓋一体の特殊な蓋を作ります。当然内径を広げているので、元の蓋は緩くてもう使えません。土管のような形の蓋表面に、マイナスドライバーの溝を設けます。通常規格のインク止め式は、高さ8-10mm程度あるコルクを入れて、残りの約2㎜はネジ蓋の厚さになります。先にコルクと一緒に取り外した元の蓋がそうです。つまりOリングを取り付けた後の、残りの深さに合わせて、このスペーサー一体の蓋を作る訳です。

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このOリングはコルクとは比べ物にならない程長く持つ筈なので、取り外すためのドライバー溝は要らないと思いますが、万が一の時のためです。ともあれ、ぴったり蓋が閉まりました。

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シーリングの作業が済んだら、今度は中芯を元通り取り付けます。写真は首軸を外した、胴軸上側から挿し込んでいるところです。

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先に埋めたOリングの中を通し、尾栓を取り付けます。ここは一発で終わらず、何度か尾栓との繋ぎを繰り返します。取り付けた尾栓と胴軸を回して閉める際、ちょうど中芯先端部が首軸の底穴に当たって止まる状態にする必要があるからです。中芯が長過ぎると、尾栓が完全に閉じる前に先に首軸(底)に当たって、胴軸と尾栓の間に隙間ができてしまいます。反対に中芯が短くて、首軸に中芯ヘッドが当たる前に尾栓が胴軸に閉じ切るとします。すると今度はインクを遮蔽できず、常にインクがペン芯側に回ってしまいます。これでは『インク止め』になりません。

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首軸・中芯・尾栓が丁度よい位置に収まったら、最後にインク代わりの水を胴軸に満タンに入れます。

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最後に”圧(あつ)”の試験を行います。首軸をきっちりと閉め、ペン先とペン芯を抜いた首穴を指で強く抑え、その状態で尾栓を抜き差しして何処からも水が漏れないかチェックします。Oリングでシーリングした個所はもちろん、首軸と胴軸の境目からも漏れては、失格です。万年筆を使っている途中で、手を汚すことになるからです。どちらからも漏れがない事を確認したら、ペン先とペン芯を取り付け・調整して修理は完了です。

以上がインク止め式のコルク交換作業の流れです。

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