以前モンブラン146( テレスコープ)緑縞のインナーバレル(内胴軸)を製作した記事をご紹介しましたが、今回は14X シリーズ最小のNo.142、前回と同型146 を同時に行いました。依頼者様はそれぞれ別の方ですが、お預かりが重なったので効率よく2本同時に修理しました。142は前回と同じ方法で、そして146は+α の修理でした。
まずは142 の作業工程から、ご紹介します。前回(No.146)はインナーバレル製作+アウターの縞軸を被せる方法で成功しているので良いとして、146でもギリギリだった作業がそれより二回りも小さい142 果たしてで出来るかどうか自信ありませんでした。142 の依頼者様にも、お受けする際に「出来るかどうか約束できませんが・・・」とお伝えしてはいました。
首軸ネジ箇所のクラックにより、インク漏れを起こす1本だったそうです。その後、クラックが進行して、写真のようにパネル状に剥がれ落ちてました。
首軸を取り外すと、大穴が貫通している現状がお分かりいただけると思います。ここまで来ると、接着剤やパテ等の補修では直りません。またネジから上を別材料で作って継ぎ足しても、ある程度の衝撃に耐えられなければなりません。従ってネジから胴軸下部まで一体のインナーバレル製作方式が確実だと判断しました。
吸入機構を一旦取り外します。
破損個所を、クラックの始まりまで削り落とします。
これから作るインナーバレルが収まるだけの内径(削って)にします。ここで大切なことは、決めた径まで一気に広げるのではなく、刃物(平ギリ)を何度か替えて段階的に削ります。一発で削ろうとすると、胴軸をパリッと割ってしまうか、削りの熱で胴軸内面→表面と波打ってしまうことのリスクもあります。
内径を広げる加工が終わりました。肉薄になったお陰で、ちょっとした光でもオリジナルでは見られない透明度になりました。
透明アクリルを削って、インナーバレルを製作します。
先程の削り取った胴軸スリーヴ嵌めて、微調整の削りをします。やはりここの被せる作業も慎重に行わないと、ちょっと硬い状態で無理に押し込んで縞軸をパリッと割ってしまいます。
今度は上下逆にセットして、ネジ切りを行います。
インナーバレルが完成したら、吸入パーツや首軸を仮付けして、吸入・排出のチェックを行います。
142修理の途中で実際の作業は前後してしまいますが、146緑縞の修理写真です。142のケースとはちょっと違い、首軸からのインク漏れを食い止めるために依頼主様ご自身で、何度か接着剤を塗布しています。そのため、接着痕などで首軸表面が大きく変形を受けています。また結果的に首軸と胴軸の接続個所にも接着液が回ったらしく、首軸が完全に固着して外せません。=吸入ガスケットの交換作業も出来ない事になります。
全く開かないので、これ以上の修理継続には破損のリスクが伴うこと、それをご説明して続行の了承を得ました。結果、開かないまま首軸くびれ部に大きなクラックを発生させてしまいました。首軸を活かしての接着・補修はここまで来ると不可能と判断し、胴軸との完全切断、そして首軸を製作して対処することになります。
削って首軸を取り外しました。今度は胴軸側の切削加工です。
ここからは142と同様、インナーバレルを埋めるための内径加工をしました。まず見る事のできない、肉薄状態にまで持って来ました。
インナーバレルの製作。
完成したインナーバレルを並べました。下が142用、上が146用です。まだ削り粉や油で汚れたままです。
後で胴軸スリーヴを被せた時に、外ネジだけ白の半透明だと見た目全体のバランスを崩してしまいます。そこで違和感を最小限に抑えるため、半透明の緑色で染色。
吸入機構を仮付けしたところ。
オリジナルの首軸の代わりに、ダークグリーンの樹脂を削って製作しました。写真では黒く見えますが、実物は前述のダークグリーンです。
作業の方は完了しました。上が142、下が146です。この後モニターインクを入れて、インクが後から漏れることなく吸入出来るか、またネジの間から滲み出ないかを数日かけて経過観察を行います。
No.142と削り取った元のネジ部。
この配色を意識した方法は、ペリカンの茶縞やオスミア/ファーバーカステルの濃緑縞(アルプゼー・グリューン)を参考にしました。すなわち茶縞の胴軸にネジから上がダークブラウン、ファーバーカステル(1950年代)はダークグリーン縞の胴軸にダークグリーン単色の首軸というコントラストでした。