金属製ペンシルの内軸再生 / Montblanc No.1586

修理対象品;モンブラン No.1586  1970年代 ノック式ペンシル 

芯 : 0.92mm

ボディ : 18Kホワイトゴールド無垢

 

キャップチューブを受ける胴軸側のガイドねじが破断してしまっています。

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こちらは今のところ機能していますが、キャップチューブ側の雌ねじも大きくクラックが入ってしまっています。

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キャップチューブ側

 

胴軸・キャップ側の両方の割れた樹脂部分の一部を再生し、オリジナルより丈夫な仕様にしてお直しします。

(胴軸)割れたガイド&ねじ部をカットし、更に数ミリ掘り込み、材料を埋め込みます。そしてオリジナルの形通りに削り、ペンシルユニットがガタつかずに収まるよう、内径も調節します。

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ねじ切りを終えたところ

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今度はキャップチューブ側の内軸を作ります。銀軸チューブ内の割れた樹脂を、ある深さまで削ってさらいます。胴軸側とは順序を変えまして、先にねじを含めた内軸を作り、後からキャップチューブに接着で埋め込みます。

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胴軸とのねじによる開閉具合を見ているところ

 

キャップチューブに埋め込み、こちらの内軸も完成。

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接着の乾燥後、すべてのパーツを元通り取付け、問題なく作動することを確認して修理完了となります。

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今回の破損例から筆記具にとって、如何に樹脂が大切かが分かります。万年筆、ボールペン、ペンシルとも樹脂、金属、趣味的な物では木材など様々な素材で作られた製品があることは周知の通り。しかしながら稼働パーツや部位によっては、まだまだ樹脂でなくては成り立たないのが現状です。

キャップが閉まらない / Delta Limited Edition Antiche Repubbliche Marinare

胴軸ねじ山の崩壊により、キャップが締められない状態の万年筆をお預かりしました。●デルタのレプブリケ・マリナーレf:id:hikkigukobo:20220306220951j:plain

 

2/3以上、ねじ山が剥がれ落ちているため、キャップのネジとは全く嚙み合いません。※太いOリングは、オリジナルにはなかった筈の物です。

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剥がれたネジの数破片は、ご依頼時に同封されていた物。これはデルタ独特の手法の一つですが、ねじ部分は別に削って作り、上から被せる形で接着されていました。ドルチェヴィータを含め、キャップの縁なども同様の工法でこれもまたよく割れてしまいます。オリジナル素材の割れやすさに加えて、2体構造の弱点が露呈した格好と言えそうです。

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寸法を測り、修理方法を決めて作業に入ります。まずはねじのあった凸部分をカットして、端面を整えます。そして雌ねじのある内部を8mmばかり彫り込み、これから作るパーツの接着しろを設ける訳です。

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割れた部分の代替パーツを作りました。後から色付けするため、透明樹脂から削りました。表面にキャップ受けの3条ねじ、そして内側は首軸を着脱するための1条ねじを切りました。

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首軸を仮装着(締め)。素材が透明なためかえって見辛いですが、表面の雄ネジより下は、ネジ無しの接着しろ。

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先ほど加工した胴軸に取付け、収まり具合を確認します。

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一旦取り外して、ボディ色に合わせた染色を行います。

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胴軸に接着取付けして、修理完了。

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ただ取り付けるのではなく、胴軸エンドにキャップを(こちらもねじ)締めて、クリップがペン先と一直線上の位置に来る所で接着・接合します。オリジナルと同じように、リング状にねじを作り、やはり同じ凸部表面に接着する方法もありましたが、強度面の将来的な不安から採用しませんでした。

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エンドビスの紛失で・・・・・・。 / Sailor 旧銘木万年筆

セーラーの(旧)銘木シリーズの万年筆で、胴軸のエンドビスが紛失してしまっています。メーカー側のパーツ在庫終了とのことで、ご相談を受けました。胴軸ボトムの本来ある筈のエンド部がありません。

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胴軸の底から: エンド部がないとポッカリと開いた穴がむき出しに・・・・・・。

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これは単に見栄えの問題ではなく、インナー軸と胴軸を中で固定する重要なパーツなため、このままではペンとして使うことが出来ません。実は私もこの状態を目にしたことは過去にもありまして、実際インク交換で首軸を外す際に、ビスとナットが緩んでやはり同じように外れてしまいました。きっと同じ経験をされた(持ち主の)方も少なくないと思います。

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ここは接着で済ませる訳にもゆかず、(パーツがない以上)同じパーツを作って対応するしかありません。同じモデルから取り外したエンドビスを見本に、製作作業に取り掛かります。写真左はオリジナル、右は真鍮材から削り出した、途中の物。ヘッドがまだ少し厚く、側面にテーパーを設けていません。

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仕上げを残してほぼ出来上がりました。 ※左の1個だけがオリジナルの見本

一見なんてことのないビスに見えますが、難しいのはネジ脚元の窪み。木の胴軸ボトムの、一段出た端面が収まるスペースです。旋盤では難しくないのかも知れませんが、手に切削刃物を持って削る轆轤ではやや無茶な作業でした。

ナットも作りました。いえ、正確にはこれも作るしかありませんでした💦 このネジに合う六角ナットはホームセンターで手に入ったのですが、問題は外径! 若干太いため、インナー軸に入れると途中で閊えてしまい、外から差し込んだエンドビスのネジ脚まで届かないのです。では届くようにネジ脚をもう少し長く作れば? そうすると今度はコンバーターが奥まで入らなくなってしまいます。オリジナルのビス&ナットが付いた正常な状態でも、中のコンバーターとナットとの距離は僅か1mmしかありません。因みにこのナットのサイズはΦ5.0, h=1.7mm。

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表面に金メッキを施して、ビスが出来上がりました(左の2個)。

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作ったエンドビス、ナットで胴軸とインナー軸を再び固定でき、本来の外観になりました。もちろん、首軸にコンバーターを付けて収まることは確認済です。

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パーツ製作見本用の同モデル(黒檀)と。

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全セルロースで胴軸を製作 / Montblanc L139G

モンブラン L139Gの胴軸の製作を依頼されました。キャップ&本体ともセルロイド製です。お預かりの点検の際、年式の割には胴軸の状態が良かったので、何故最初から製作を希望されるのかちょっと不思議でした。もちろん、破損していなくてもご依頼自体は自由ですが。

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吸入ユニットと胴軸の連結部。表側からも胴軸の一部が、僅かに退色しているのが見えます。

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テレスコープユニットを後ろから取り外した胴軸。写真では分かりづらいですが、小さなクラックが縦に無数ありました。これらのクラックが修理依頼の理由と納得。

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胴軸の製作に入ります。でもその前に、オリジナルのインクビューの色を把握する必要があります。長年のインク滓等の付着により、インクビューはほぼ真っ黒。まずは内面を研磨して洗浄、それでも滓は落ちません。已む無く少し削り、ようやく元の色が浮かび上がって確認することができました。これでも新品当時の色はより明るい感じだった筈で、そこも考慮に入れます。実物は赤でも赤茶でもなく、紅茶に近い色でした。

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素材的にオリジナルに近い透明、黒の各セルロース樹脂を削って作ります。仮装着の首軸はオリジナル。

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表裏を磨き、ピストンシール交換を終えた吸入ユニットを取り付けて吸入・排出の試験を行います。

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一旦インクビューの透明部分だけを取外し、染色を行います。上のネジ部分も今度は黒く染色して、ようやく胴軸が完成しました。この辺りややこしいので整理しますと、インクビューの下が元からの黒いセルロース、上の外ネジは黒く染色した部分になります。※下は破損したオリジナルの胴軸

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後は染色したセルロース樹脂の膨張が収縮するまで、(乾燥のため)丸一日置きます。首軸、吸入ユニットのすべてのパーツを取り付けて、修理が完了しました。

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特にテレスコープ吸入部の外枠&尾栓と合わせて、作った胴軸が同化して見えるのが黒セルロースの特徴です。

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以前はインクビューに透明アクリル+染色、それ以外をエボナイトで作っていました。その後ひび割れ等の諸事情でアクリルを廃止、透明セルロース&染色+エボナイトに切り替えました。機能的にはそれで対応出来ていた訳ですが、すべてセルロース材にすることで、よりオリジナルの雰囲気を活かした修理対応に辿り着けました。見た目だけではなく、実際に手で触れても、素材の持つ保湿性も手伝ってオリジナルとほぼ同じ質感も再現できました。

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繰り出し式ペンシル修理② / PARKER DUOFOLD Centennial

ノブを回転させても芯が出ない状態のペンシルをお直ししました。パーカー・デュオフォールド(復刻)の発売初期にあった0.9mm回転繰り出し式です。お預かり・点検して、芯の出し入れができない原因はすぐ分かりました。

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内部螺旋チューブユニットと回転ノブを繋ぐカバーチューブ=ファンネルの先端が大きくひび割れていました。ここにクラックが生じたことにより、螺旋チューブユニットを固定できずに空回りしてしまいます。螺旋が動か(回転)なければ、芯を装着したリードキャリアーも当然動きません。パーカーに限らず、繰り出し式ペンシル内のチューブ先端は、その薄い金属軸ゆえひび割れを起こして固定できなくなってしまうことがあります。ここは接着剤ではまず止まりません。他、工具でかしめたり、ロウ付け溶接などの方法もありますが、どちらも安定して固定させるには難しいです。※モデルによってはそれで直る場合もあります。ただし今回のペンシルはかしめでは効果がありませんでした。さらに応急処置的な手段として、布テープで止めてしまう方法もあります。ともあれ、今回は代替パーツを作って本体に取り付ける、確実な方法をご紹介します。

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内部の螺旋パイプを一旦取り外します。プロペリングロッド自体は機能(回転で上下に移動)していることを確認しました。

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ここから加工の作業に入ります。まずクラックのあるチューブ先端部を切断します。

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次に代替部分の製作。真鍮丸棒をくり抜き、切削。螺旋チューブが収まる内径に加工します。

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代替部ができ上ったら、チューブ本体に接着で取り付けます。

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螺旋チューブを含むメカ本体に圧入で取り付けます。この時点でチューブを回して、芯繰り出し・収納が行えることを確認します。大切なことは、後ろから引っ張ても容易には抜けない加減で穴の内面を加工すること。少しでも緩いと(芯補充や消しゴム使用に)頭部の回転つまみを引き抜く際、チューブ自体も一緒に抜けてしまいます。

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ボディ、回転ノブを取り付けて修理は完了しました。

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インクタンクの製作②  / AURORA Jubilaeum

以前にも採り上げたアウロラのピストン吸入式の、それも全く同じ壊れ方をした万年筆の修理を依頼されました。限定品のユビレウムというモデルです。ボディのデザインが異なるだけで(前回の)オプティマ型と内部構造はすべて同じ。と思いきや、外観のインク窓の大きさが違うだけでなく、リングを取り付ける位置から内部の寸法等もすべて微妙に異なる別設計であることに気付きました。当然、オプティマ型修理当時に作成したパーツ図面も流用できず、またゼロから計測し直さなければなりません。蛇足ながら透明インクタンクの形が違うのであって、吸入機構のパーツや、ペン先ユニット等は同じです。

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このメーカーの吸入式に共通の症状、インク窓の首軸との境目で真っ二つに破断してしまっています。

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ペン先ユニットを取り外した状態。穴の脇に破断した透明アクリル材の残りが見えます。

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首軸&胴軸内に残った、透明アクリル材をすべて削り終えました。ここで一旦作業を中断し、それぞれの内径や深さ、形状、ネジ位置・ピッチを計測し、それらを元に逆算するかたちでインクタンクの図面を起こします。

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図面を元に作ったインクタンク。上が予備、下がオリジナルの色に合わせて染色した物になります。ボディから僅かに見えるインク窓を挟む格好で雄ネジが見えますね。オリジナルも、胴軸・首軸の双方をネジ+接着で固定されていました。更に上のネジの裏側には、ペン先ソケットを止める雌ネジも切ってあります。この1体のパーツに、3か所もネジが設けられているのです。

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まずは胴軸側に接着で取り付けます。

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最後に首軸側にも取り付けて完成しました。

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接着が乾燥したら、水やインクを吸入してテストを行い、無事修理は終わりました。吸入量はオプティマと全く同じでした。前述のように、オプティマ型と同じ構造という先入観(勘違い)から思わぬ時間を要してしまいました。それでも、今回(も)作成した図面及び修理記録で、結果的にアウロラ修理対応の新たなレパートリーが増えて良かったです。それにしても同じメーカーでインクタンクの設計が若干違っても、壊れ方は全く同じなのですね。

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万年筆のインナーキャップ修理 / Montblanc #144

キャップがしっかり嵌合しない、というご相談の万年筆をお預かりいたしました。モンブラン144の一昔前のモデルです。首軸リングの腐食もやや進行した状態だったため、当初は嵌合が甘い(全く抵抗なし)のはこれが原因だと思いました。しかしキャップ内を幾ら洗浄しても、金属片が続けて出て来る点に違和感を覚えました。インナーキャップを取り外して見たら、樹脂製ではなく金属製で、しかもご覧のように腐食だらけの状態でした。言う間でもなくここまで進行してしまうと嵌合はおろか、インク機密の機能も果たせる筈もありません。

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年式は違いますが、同じ144の後年~現行共通の樹脂製インナーキャップを見本に、パーツを拵えて対応することにしました。

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樹脂を削って、作りました。最も神経を使うのが、首軸リングが収まる内径の調節です。一番手前に来る穴ですね。若干キツイ(硬い)うちは良いのですが、ちょっとでも削り過ぎると、緩くなって元の木阿弥。最初から作り直しです。嵌合式にも様々なタイプがありますが、このモデルの場合”パチン”というより、”スッ”といった感触が正常です。

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オリジナルとほぼ遜色ない収まり具合に仕上がったら、削りは完了。

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今回のメタル製インナーキャップを覗けば、樹脂の本体カバーとメタルのネジ受けの2体構造ですが、直接ネジ切りを行います。ペン先が収まる空間とネジ穴は貫通していないので、気密に影響は与えません。天ビスがきっちり閉まることを確認したら、出来上がったインナーキャップをキャップチューブに取り付けて修理完了となります。

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