パーカー75の首軸(セクション)リング破損・欠損による修理依頼がまとめて来たため、一挙に行いました。以前も首軸リング製作の記事を書きましたが、今回は3種類のリングを各々製作・取り付けました。言い換えれば、3本とも持ち主は別で3名ともそれぞれ異なるバリエーションを選んだ事になります。正確には75が2本、同じ75をベースとした80年代のフラッグシップモデル、プリミア(一番上)になります。そのリング3種類とは、①エボナイト製 ②真鍮製 ③真鍮+ロジウムメッキで料金もそれぞれ異なります。
写真のように、2本はキャップ内で外れてしまったそうで、工房に送られて来た時点でリングはありませんでした。当然、嵌合が活かせずキャップが安定して閉まりません。一番左(スターリングシルバー)は、金メッキのバンドから上の樹脂がボロボロ崩れて、インク漏れを起こしていました。
修理の作業に入ります。ただリングを製作して付けるという単純なものではなく、古いリングを取り外して、残って固着してしまった樹脂を綺麗に削り取らなければなりません。(※中期までのUSAメタル製リングを除く) ネジ溝に糊のように食い込んでしまっているため、ただ削るのではなく同じピッチのネジで切り直す要領且つ元のネジを摩滅させないようにしなければならず、最も注意を要するところです。当然この下仕事をしないと、リングを作っても取り付けられません。
固着していた樹脂の残り滓。削り取る前は大した物に見えなくても、結構な量です。
75バーガンディ・ラッカーのオーナー様は、価格がお手頃なエボナイトを選ばれました。リングを製作・取付、シーリング作業のすべてを終えた状態です。一番お安いと言いましても、決して機能的に劣ることはなく、むしろオリジナルのプラスティック/金バンドより堅牢で実用的です。とある別のお客さんは、お値段よりも首軸全体が黒一色になるのが気に入って注文された程です。インクの腐食にも強く、私もお勧めします。
プリミアのオーナー様は真鍮の無垢版を選ばれました。ご存知、真鍮(ブラス)はすぐに表面が黒く曇りますが、やはり腐食に強いとても実用的な素材です。こちらを選ばれるのは、くすみも味と捉える方が結構いらっしゃいます。
そして最後に、予算も少々割高ですが真鍮製作+ロジウムメッキです。こちらの75 スターリングシルバーは初期のUSAタイプで、元々目盛り付きメタルカラー版です。オーナー様によると一旦壊れてメーカーに修理に出したら、後期のゴールドメッキバンド(FRANCEタイプ)に替えられた上、程なくまた破損してしまったそうです。それで今回の修理を機に、オリジナルカラーに近いロジウムメッキを選ばれました。
どの材質でリングを製作する場合も同じですが、インナーキャップのバネ部にパチンと嵌るよう、調節しながら削ります。リング製作で一番難しいところです。
3本すべて修理完了しました。ひと月の間に、パーカー75系のセクションリングの修理依頼が3本も来た上、依頼者様全員違うバリエーションを選ばれるのは非常に稀でした。