修理日誌 ペン先の変形直し / Montblanc No.149

万年筆のペン先曲がりの修理は、よく依頼される修理の一つです。一口にペン先曲がりと言っても、曲がってしまった原因や曲がり方は様々ですが、今回のようにペンポイントが横報告に反れる破損は厄介です。矯正作業の段階でペンポイントが取れてしまうリスクが高いことと、一旦横方向に曲がるとインクの通り道である切り割がなかなか真っすぐにならないから。切り割が真っ直ぐにならないと、ペンポイントまでインクが届かず、まず書けません。

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まずは片側から。研磨改造して専用に作ったヤットコを中心に複数の工具を用います。

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もう片側の反りを起こして、見た目は9割ほど元の形に戻りました。これで修理は間もなく終わりに思えるかも知れません。いいえ、ここまでは全体の作業時間の半分以下です。さらに切り割を真っすぐ、そして上下方向を叩いてペンポイントより下の溝脇を左右でズレが無いように、細かく整えていきます。

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先端が部分が整ってきても、ハート穴までの更に下の切り割がまだ広くなってしまっています。当然、槌打ちの微調整を更に繰り返して、”開き”を寄せていきます。

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表面が整って見えても、裏側はまだ曲がっています。当然、裏側も綺麗に修復を続けます。余談ですが、ヤットコによる曲げ起こしや槌打ちの作業は、主にペン先を取り外した単体の状態で行いますが、都度ペン芯と合わせて首軸に差し込んでチェックを行います。ペン先単体で曲がりはかなり修復出来ているように見えても、ペン芯や首軸にセットするとまた上下左右にズレてしまうことがあるからです。当然また抜いて微調整・・・と、こういった作業の繰り返しです。見た目ペン先の曲がりがほぼ直ったようでも、後半の作業時間がより長くなるのはこのためです。

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裏側もペンポイント下の切り割が真っ直ぐになり、曲がり直しの作業はほぼ終わりました。しかしペンポイント右側が左より少し長くなってしまっています。これは作業に入る前からの計算通りです。つまり今回のように両方のペンポイントが同じ横方向に揃って曲がると、元に戻した時左右のペンポイントまでの長さが変わってしまう事がよくあります。これを解消するため、最後に研磨レースで削って、左右の長さを整えます。

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インクを付けて筆記調整をします。通常筆記に支障ない筆記が出来るようになったら、最後に研磨で表裏の傷を取り、ようやく修理完了です。

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