インク漏れが示すもの / AURORA 88 Luna

インク漏れのするアウロラ88をお直ししました。直したと言っても、例の如くインクビュー一体型のインクタンク全体を作って取り付けたお話です。

この記事を書いている現在、88のインクタンク製作経験は3本になりますが、一番最初に依頼された1本がこの万年筆でした。”88リミテッドエディション ルナ”です。

過去ご紹介したオプティマの記事のようにポッキリ折れたのではなく、「インクビュー周りからインクが漏れているらしく、手が汚れる」というご相談でした。ただお預かり前に頂いた写真から、状態はほぼ察しがついていました。胴軸の上部がマゼンダ調のインクで染まっていますね。

 

お預かりした現物に水を吸入した途端、事前の情報通り残りインクに染まった水が滲み出て来ました。念のため、色の付着した辺りを拭き取りましたが、全く落ちず布にも色が付きませんでした。これは予想通り、インクタンクの見えない部分からひび割れを起こして、そこから滲出したインクが胴軸内側から徐々に染まってしまっていることを示しています。これは内外から接着で止められる構造ではないため、折れていなくてもインクビューから切断して、インクタンクを作って取り付ける方法をとりました。インクビューが破損していなければ、吸入シールの痩せなどでインクが後ろから漏れることはあっても、ここから漏れることはまずありません。

 

インクビューから切断し、胴軸内と首軸内のインクタンクの残り(上下部分)パーツをすべて正確に削り取ります。掘る深さや内径は、やはり記録として残したオプティマの時の図面を元に進めます。インクタンクの透明アクリルと胴軸の材料がきっちり分離できた時点で、付着したインク汚れを今度は内側から磨いて取ります。幸いほぼ落とすことができました。

 

透明セルロース材から削り出し、代替パーツを作ります。

 

何度も胴軸に合わせながら。

 

インクタンクが出来上がりました。次にインクタンクの内面を研磨して仕上げます。吸入を円滑に行えるようにするためと、視認性のために。

 

出来上がったインクタンクを胴軸と首軸それぞれに接着して、完成しました。話は前後してしまうようですが、この1本を終えることでインクタンクの形状がオプティマと完全に同じ(=共用パーツ)であることが分かったのです。もちろん予想通りでしたが、最初から同じだろうと決め付けて掘り進めた結果、サイズが少しでも違っていたら、取り返しのつかないことになってしまいます。ここが加工修理の怖いところです。

 

インク漏れが解消できた上、付着してしまったインクもとれて一石二鳥でした。